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「それにしても、あのジョン・ドゥと同じ味方になるとは。これまた、皮肉な縁ですな」
「知り合いか?」
ロドニーは深く頷いた。
「先代公爵閣下と共に戦場を駆け回っていた頃、相まみえたことがございます。当時はジョン・ドゥではない別の名を名乗っておりましたがね。なかなかに厄介な難敵でした。結果として私が勝ちましたが、止めを刺せず逃してしまいましてな。今でも時折夢に見るほど、実に手痛い失策でした」
「お前がそこまで言うとはな。相当強いらしい」
「せいぜい、今は牙の抜けた狼に過ぎません。だからこそ、晩年に拷問技師などという真似をしているのでしょう。私自身も似たようなものですが」
「私から見れば、お前は未だに現役のように見えるが」
「はは。実にありがたいお言葉ですな」
ロドニーは機嫌よく笑った。 ラルカンもまた、つられて笑みを浮かべた。正気に戻ってから初めて交わす真摯な対話に、胸を圧迫していた澱みが少し軽くなった気がした。
「ところで、坊ちゃま。先ほどから一番肝心なことが抜けているようですが?」
「何のことだ?」
「奥様のことですよ。あの女中ではなく、公爵家の真の主となる御方のことです」
「……」
ラルカンは黙って視線を落とした。雨に濡れた仔犬のように項垂れる姿に、ロドニーは眉をひそめた。
「聞き及ぶところによれば、人を放って奥様を捜しておられるようですが。奥様と再会した後、何をなさり、どんな言葉をかけるのか。予め決めておられるのですか?」
「わからん。私にも……どう謝罪し、許しを請えばいいのか分からぬのだ……」
いくら秘薬で操られていたとはいえ、ラルカンがエリザに行った仕打ちが消えるわけではない。すべての悪行をブランシェのせいにしたところで、彼がエリザに刻んだ傷はあまりにも大きく、深かった。
「脆いですな。坊ちゃまらしくもありません」
「それだけ私が犯した業が深いということだ。今はただ、エリザが無事であることだけを願っている」
「ふむ」
ロドニーは不満げにラルカンを睨みつけた。
「……もし、私が奥様の行方を知っていると言ったら、どうなさいますか?」
ラルカンが勢いよく顔を上げた。
「いくらお前でも、エリザについて嘘を吐くことは許さぬぞ」
「亡き先代公爵閣下と、私を産んでくれた両親の名にかけて誓いましょう」
他でもないロドニーがそう言ったことで、ラルカンの疑念は晴れた。
「どこだ? エリザは……今、どこにいる? 無事なのか?」
ラルカンの声が震えた。
「さあて。今の坊ちゃまには教えたくありませんな」
「ロドニー!」
ラルカンの怒号が屋敷中に響き渡った。しかし、ロドニーは相変わらず冷ややかな表情のままだった。
「早くエリザの居場所を言え、ロドニー! 私はお前の主だぞ!」
「そうでしたな。ですが、今は違います。まだ再契約を結んでおりませんので、私が坊ちゃまの命令に従う理由はありません。それでもどうしても奥様の行方が気になるのでしたら……」
ロドニーの口角が三日月のように吊り上がった。
「表へ出なさい。久々に、この私の手で坊ちゃまを直々に『再教育』して差し上げましょう」
ラルカンの表情が強張った。
しばらくして。 二人は庭園へと出た。それぞれ手に古びた木剣を握り、対峙した。




