二話
現場に着いた俺は辺りを見渡す。複数人の伝灯者が戦っているもののあまり状況は芳しくないようだ。
「黒川さん、応援ありがとうございます、治安局所属伝灯者の鮎川です、早速説明しますが相手は2人です」
「2人?」
眼前には伝灯者が1人しかいなかった。
「えぇ、あの奥の建物に居ます、ただ面倒なのは、建物の中の奴が女の子を人質に取ってるんですよ」
話によると女の子は8歳くらいの子供らしい、人質に取られているが故攻略に困難を極めてるらしい。
「黒川さんと副隊長の村山さんには人質の確保に動いてほしいです、前のあいつは我々と黒川班の鈴木さん、山峰さんで対応しようと考えているのですがよろしいですか?」
「構わない、それでいこう」
俺は今の作戦を班のみんなに共有した。全員が了承し戦闘体制に入った。建物の前にいる奴が中々の曲者らしく、多対一をものともしてないらしい。だから敢えて無視する方向にしたようだ。
「ここが建物の裏口だな」
俺と村山は迂回して建物の裏口から中に入ることにした。階段を登り、三階で人の気配がした。
「おそらくここだな、場所は分かるか?」
「えぇ、勿論っす、いつもの作戦でいきましょう」
部屋の前で村山と俺は分かれる。俺は普通に部屋に入り、村山は隣の部屋に入った。
「あ?なんだお前」
部屋に入ると縛られた女の子とその隣に立つナイフを持った灰色の髪の男がいた。
「それはこっちのセリフだ、女の子を人質にして、どういう教育受けてきたんだ」
俺は奴を睨みつけながら問いただす。
「はっ、あいにくまともな教育は受けてきてないね、世界がこうなる前は義務教育ってのがあったらしいけどな」
そう言うと男は前へ歩み出す。
「1人で、しかも正面からってお前バカだろ」
俺が迎撃しようとすると
「おいおい動くんじゃねぇぞ、コイツが死んでもいいのか?」
そう言いながらナイフを女の子へ突き立てる。
「わ、分かった、大人しくしよう」
俺は両手を上に上げ白旗を示す。
「無駄死にご苦労様」
(まぁ、絶対コイツ1人じゃないよな、ここには窓があるから恐らくそこから入ってくるだろう)
男がナイフを振り上げる。それと同時に俺は村山に合図を出す。合図の方法は俺の口の中にあらかじめ入れていた発信機を噛み砕いて壊すこと。それをすると村山の方へ音が鳴る仕組みだ。
「おっけー、灯術【爆弾】、スイッチオン!」
次の瞬間俺と犯人、女の子がいた部屋の床が崩壊、崩れ落ちる。
「なに!?」
(なるほど、あれが人質か)
村山はすぐさま女の子の方へ駆け寄り落ちてくる所をキャッチ。無論俺と犯人は床に叩きつけられる。
「いって!!」
「ははっ、凄いね、2人目は警戒はしてたけどまさか床からなんて、その子がやられてたらどうしてたの?」
「そこから辺はちゃんと考えてるっすよ、あとお前がそれを言うんじゃねぇよ」
村山の灯術である爆弾は威力を操れる。女の子が爆風で大怪我をしないように取り計らうことくらいはできる。
(これでもう条件は変わらない)
俺は灯術で鉄パイプを出す。
「幼子の命を弄んだ罪、その身をもって償え」
「やめてくれ、説教は嫌いだ」
俺は疾風の如く踏み込み距離を潰す。奴もナイフで応戦するようだが鉄パイプとナイフじゃリーチが違う。
「おっと、これは中々だ」
そのまま打ち合いへとなだれこむ。両者の間に火花が散る。リーチの差で俺の攻撃がやつに当たり始める。
(こりゃちょっときちぃな、一旦距離を...)
奴が下がろうとした所で俺が前へ踏み込む。
「なに、」
「それくらい読める」
そのまま逆袈裟に振り上げ奴のみぞおちへ鉄パイプを抉り入れる。
「がはっ...」
俺の鉄パイプをまともに食らって平気な奴はいない、いつでも致命傷だ。
「いってぇ...」
奴が鳩尾を抑え痛がる素振りをしている間、村山が拘束に回る。村山が奴の頭を鈍器で殴り、脳を揺らす。その間に腕を縛り、捕まえる。
「はいキャッチ、無駄な抵抗はやめろよな」
「あらあら、捕まっちゃったなぁ」
(コイツなんでこんな余裕そうなんだ?)
村山は拘束をして奴の腕を掴み、連れて行こうとした。俺は人質にされていた女の子を保護しようとしていた。
「もう大丈夫だからな」
そう言いながら近づいて女の子の方を見ると
「ぐすっ」
女の子が泣いていた。何故緊張から解けて泣いてるのかと思ったがそうではなかった。
「今だ!’’撃てぇ!!’’」
奴が大声を出したことでその場の全員の視線が男へ一瞬向く。
(まだ他にも仲間が!?)
その直後に俺と村山は他の仲間がいるのかと警戒する。だが...
バンっと銃発砲音が聞こえた、音の方へ目をやると、なんと女の子が拳銃を構えて発砲していた。
「え...」
さらに弾が放たれた先に目をやると村山のこめかみに弾が当たっていた。
ドサっと村山が力無く倒れる。この世界では伝灯者用に特別加工された武器が多数ある。頭蓋骨は本来硬いが加工済みの銃ならば必殺になる。
「ごめんなさい...ごめんなさい...」
「お前」
俺はすぐさま男の方へ駆け出し鉄パイプでぶん殴ろうとした、しかし
「’’止まれ’’」
「なっ!?」
(体が動かない...金縛りに遭ったみたいだ)
「効果時間短いからよ、早めに行くわ、じゃあな」
「て...めぇ...」
男は縛られているもののその場から走り去ってしまった。残されたのは俺と女の子、そして横になっている村山。
「はぁはぁ、やっと動ける...」
俺は村山に寄り、なんとなく答えは分かってるが生きてるか確認した。
(そうか...)
立ち上がり振り返る。
「ごめんなさい...ごめんなさい...ごめんなさい」
女の子はずっと謝ってる。俺が拳銃を取ろうと近くによると
「で、でも!ほんとに撃つ気はなかったの!!体が勝手に!」
「分かってる...分かってるよ」
(恐らく奴の灯術は【言霊】だ、喋ったことをそのまま起こす能力だろうな)
「とりあえず行くぞ」
外では建物の前で足止めしていた灯黯者を捕まえていた。しかしどこか様子がおかしかった。
「コイツか...かなり強かったって言うのが」
それに対し鮎川が答える。
「そうなんですが、コイツ脈がないんです、誰かが死体を操作してたんだと思います」
「あの黒川隊長、村山さんは?」
「死んだ...俺のミスだ、すまない」
俺の言葉に鈴木と山峰は固まってしまった。当然だ、まだ入ってまもないからな。
「そ、そうですか...それは...」
「いや、無理に話そうとしなくていい...すまないな、本当」
そんな時に鮎川が口を開いた。
「申し訳ない、元々ここは我々の担当地区だ、応援を呼ぶ事態になってしまった私の力不足だ」
「...構わない、元々それも仕事の内だからな...鈴木、山峰、書類の作成を頼んでもいいか?印鑑は俺のデスクにある」
「は、はい!」
(隊長のこんな目、初めて見た...)
俺は家に帰り、椅子に腰をつき背もたれにもたれかかった。
「はぁ...」
机に置いてある何枚かの写真、そこには初任務完了記念に撮った村山との写真があった。こういう仕事だし今まで何人か仲間が死んだことはあったが、竹馬の友のような存在だった仲間が死ぬのは中々に辛い。
鼻をすすり、天を仰ぐ。
「写真撮りましょうよ」
記念に撮った写真が、前までなんとも思わなかったけど今ではとても大事に感じる。
ナイフを手の甲に少しだけ刺す、痛いが今はこの痛みが心地いい。
「...すまない」




