1-7 チェチ地区の乱闘
自分を強者と思い込んでる奴ってのは隙だらけだ。目の前の突撃兵はまさにそれ。一応クリアリングをしながら進んでいるけれど、雑で甘く、間合いに入れば私の方が先にやれる。問題は、たぶん単純にはできないってこと。
【セカンドサイト】再使用まであと5秒。突撃兵がここまでくるのに10秒はかかるから、その前に味方がウォールハックして位置を伝える可能性が高い。だからまあ、狙うべきはあちらが通信を受け取り、聴覚に意識を割り振った瞬間だ。
突撃兵の細かな動作に細心の注意を払う。5秒経過。【セカンドサイト】の発動を【逆探知】が知らせる。突撃兵の足が止まる。目線のわずかな動き。ここ。
飛び出した私の姿を見た突撃兵がわずかに遅れて銃口を向ける。その一瞬が命取りだ。一気に距離を詰めて足元を潜る。もちろん、すり抜け様に足首を切り付けるのは忘れない。ばら撒かれた銃弾はすべてハズレ。突撃兵の体が崩れる。
「よしよし“血液”いただき」
ただこれで終わりなら楽なんだけどね。そうはいかない。
「何人来てるかねぇ」
狭いショッピングモールであれだけ派手に銃声を響かせたら、サバイバーたちを呼び寄せるのは自明の理。さっさと逃げるってだけでも簡単にはいかない。
足音からして2パーティーは来ている。
だから私は隠れ潜む。
そりゃあ私はひとりだし、複数勢力が近づいてるなら勝手にかちあって潰しあってくれるのを待つのが吉だ。勝者はより多くの敵を倒したものじゃなくて最後まで生き残ったものなのだから。
「さっそく始まったね」
サバイバー同士がアパレルショップの前で接触。複数種類の銃声が響き、手榴弾の爆発が混じる。なかなか激しい戦いだ。こうなるともう、私に構う余裕はない。あとはどちらか勝者が決まり、敗者の荷物を漁っている隙に攻撃するだけの簡単なお仕事。と思っていたのだけれど。
金属を打ち付けるような硬質で規則的な音が、乾いた銃声の合間に聞こえてきた。さっきも耳にした、ガランロットの足音。チェチ地区のボスのエントリーである。
想定外の乱入者に、サバイバーたちの動きが慌ただしくなる。ガランロットは離れていればたいしたことないが、接近されたら死ぬタイプのボスだ。ボスだけあって耐久力もそこそこ。パーティーで火力を集中させれば素早く倒せる程度だけれど、他のサバイバーとの戦闘中にできるかと言われると無理な話。結果、サバイバー同士の対立の布陣が崩れる。
高レベルなプレイヤーならここから秩序的に撤退するのだろうけれど、彼らはそのレベルにはないらしい。野良かもしれない。全員がバラバラに動き、うちの一部はバックヤードまで乗り込んできた。
「だめだよこっち通行止め!」
ドアを開けたところで死角から襲って素早く仕留める。呉越同舟とはならないんだよ。けど、これで私の存在は知られたはず。ただ外はどうやらそれどころじゃないみたいだ。
「ぐっちゃぐちゃじゃん」
2パーティーどころじゃないぞ。4つは来てる。狭いエリアに人が集まるから噛み合い方次第でこうなるのか。
ここまで来ると戦況のコントロールとかできないし、どこから弾が飛んでくるかわかったものじゃない。生き残れるかには大いに運が絡む。
ただ、実入りも大きい。“血液”を回収できる死体はそこかしこに転がっている。展開が急に変わりすぎてまだ全然確保できていないし、ここで逃げ帰るのはあまりに惜しい。
「率は低いけどオッズはでかい。なら、やるしかないよね」
こういう場面で生き残るのに必要なのは、とにかく目立たないことだ。けど、すでに存在は知られている。勝者が出た時にガチガチに警戒されてたら結局勝ち目は薄いし、そもそも安全に隠れているのを許してくれるとも思えない。
じゃあどうするかっていったら、生き残りの多そうなところから削って最終的にフルメンバーが残らないようにする。まあそんなこと言っても上手くできるわけもないから、とにかく動きまくって位置を把握されないようにするのが最優先。
そういうわけで静かに動き回り、生き残りを優先しつつ行けると判断したときだけ狩りに行く。
もう戦場はアパレルショップ前だけには止まらない。どこまで広がっているのか正直わからないけど、私にとっては都合がいいことだ。居場所を悟られにくくなる。
それにしても、ガランロットの存在は大きいな。戦場をかき乱してる。ダメージが蓄積してきてだいぶ壊れかけているけど、こいつがいなかったらもっと戦況はシンプルだったろう。いや、どのみちだいぶカオスになっていたか?
なんて考えていたら、隠れている私の前でガランロットを撃っていた2人のサバイバーが、階段を上がってきた影にまとめて撥ね飛ばされた。サイに似た人型のミュータント。ライオット種の乱入だった。
「ここで来るか!?」
乱入にライオット種とはえげつない。
間違いなくプレイヤーだな。強力な装甲を持ち、突進攻撃で薙ぎ倒して行くフィジカルモンスター。ガランロットよりは柔いけど、速い分余計に厄介かも。
新たに戦場に加わったライオット種は、最初に奇襲した2人を確実に仕留めたことを確認すると、別の場所に潜んだサバイバーに向けて突進。孤立したサバイバーを次々と倒し、戦場を更なる混乱に落とす。
「ちょっとやばいかも」
状況が加速する。
狙ったか偶然かは定かでないけど、乱入のタイミングが絶妙だ。数がいい感じに減って弾の密度が下がり、けどミュータントに落ち着いて対応できるほどには安定していない。そんな状況だから、ライオット種が派手に暴れまくっている。
ただでさえガランロットが状況を荒らしていたのに、より素早く、より戦術的にサバイバーを狩るプレイヤーが飛び込んできたことで、加速度的に生き残りが減っている。何人かは危険と判断して逃げたかもしれないけど、この場から消えたなら同じことだ。
ライオット種に対抗する弾数が減っている。
こいつが健在だと私は勝ち残っても“血液”をろくに回収できずに追い返されるんだよね。装甲で守られ傷つけられないライオット種は毒で殺すデモンズ種にとって天敵だ。
サバイバーの残りはたぶんあと2組。全滅する前にライオット種を排除してもらわないといけない。
「どう出るかなぁ」
何もせず成り行きに任せるのもある意味ローリスクでいいんだけど、キラーの勘が囁くのだ。たぶんこのままだとライオット種が勝つ。ライオット種は室内の閉所じゃ滅茶苦茶強いし、動きもいい。適宜回復しているからガランロットみたいに少しずつ削るのも無理。サバイバーたちも下手じゃないんだけど、腕利きってほどじゃない。で、そう思っちゃった以上動かないで失敗は後悔する。
ライオット種は階段の踊り場に布陣したパーティーに突っ込んでいく。全段飛ばしの大ジャンプ。あれはダメだね。踊り場なんかに固まってたら、着地を許した時点で蹂躙が始まる。少しは時間を稼いでくれると思って、他の生き残りの様子を確認。
銃声を頼りに探すと、サバイバーたちが吹き抜けの両側を繋ぐ渡り廊下の上に陣取っているのが確認できた。渡り廊下と言っても幅は広くて、上下移動のエスカレーターもある。ほぼほぼ広場みたいなものだ。彼らは瀕死のガランロットをようやく仕留めたようで、確実に動かないことを慎重に見極めている。
確認できた限りではひとり欠けた3人パーティー。下に2人。残りのひとりは中央の謎オブジェクトの上に潜んでいる。さっき銃声を拾わなかったら気づけなかったかもな。
私はサバイバーに見つからないよう視線に気をつけつつ、障害物を伝って接近を試みる。【セカンドサイト】を使われるかどうかはギャンブルだな。そのときはモーションが見えた段階で撤退。できるだけ“血液”を回収してとんずらしよう。
幸い、偵察兵が索敵する余裕もなくライオット種が姿を見せる。やっぱり踊り場のサバイバーは全滅か。
堂々と姿を現したミュータントをサバイバーたちも視認した。そしてすぐに銃撃が始まる。20メートルはあるし、いくらライオット種でもこの距離を撃たれながら突進するのは無謀だ。そんなことはわかりきっているライオット種は近くの店舗に逃げ込み、かと思えば掴んだ商品棚をサバイバーに向かって投げつけた。
人間離れしたパワフルな投擲。投げられた側はたまったものじゃない。慌てた様子で退避して、そこにライオット種が突っ込む。謎オブジェクトの上に陣取ったサバイバーが銃撃を続けるものの、ライオット種は手にした何かを反撃に投げつける。落ちていた商品か何かかな。ダメージはたいしてなくても衝撃で狙いはぶれる。
「ワイルドだねぇ」
こういう派手な戦いはデモンズ種じゃできないからね。でもって、予感の通りこのままだとライオット種が勝ちそうだ。
だからここで横槍。
そばに潜んでいた私はサバイバーへ突撃するライオット種の顔目掛けて【墨爆弾】を飛ばす。目潰しという単体特化のもうひとつの使い方。正直どこで使うのかよくわかってなかったけど、今回は役に立った。
いくらフィジカルモンスターって言っても目が見えなきゃ本領発揮はできない。どこを攻撃していいかもわからないからね。
視界を塞がれたライオット種は走り回りながら滅茶苦茶に暴れ出す。ラッキーで倒せるのを期待してというより、動き回って射撃を避けるのを狙っているのだろう。ただちょっと場所が悪い。謎オブジェクトや多少の障害物があるとはいえライオット種の巨大が隠れるような場所は近くにないし、逃げ込む先もないのだ。立て直したサバイバーたちが好機とばかりに銃弾を浴びせまくる。何が起こったのかって疑問はあるだろうけど、目の前の脅威がまず優先。
で、そんなことをしている間に私はするりと謎オブジェクトの上に。
「お互いいい囮になってくれたよね」
ライオット種が沈む。それと同時に、役目を終えたオブジェクトの上のサバイバーを後ろからキル。そして事態に追いつかぬまま目の前の敵を倒したと安心する残り2人の背後に降り立ち、無音で触腕を伸ばした。
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