1-6 新エリア・チェチ地区
やってきましたチェチ地区。
ここからはゲームのステージがひとつ上がったと言っていい。ビクト地区っていうひとつの壁を突破したことで、ステージの難易度が一段階引き上げられたのだ。出現するミュータントの危険性は確実に増し、マップそのものもより厄介なものになる。
そんなチェチ地区の特徴を一言で表すなら、狭い、だな。
チェチ地区は中央にランドマークとなる大型のショッピングモールがあるんだけど、逆に言えばそのくらいしかない。だからみんなそこを目指す。
ショッピンモールは4階建てと縦に広いけれど、床面積を足してもアグヌ地区やビクト地区には遠く及ばない。結果、他プレイヤーと遭遇する確率が跳ね上がっている。
アグヌ地区やビクト地区がそれなりに安定して稼げるマップなら、チェチ地区はさらに上を目指すための場所だね。生きて帰れれば実入りはいいけど、リスクも大きい。
とりあえずマップ理解を深めるのが先決だな。アグヌ地区と違ってベータテストでも来たことがないから、立ち入るのは初めて。地図は調べたけど実際の感じ方は直接歩かないとわからない。
「出入り口は一階と二階で数も多い。見張ってれば確実に捕捉できるとかはなさそう。室内戦だから交戦距離は基本短め。ただし中央に吹き抜け。下手に近寄ると狙撃もあるな」
ただこのゲームの狙撃ってあんま強くないんだよね。防具込みだと即死は基本ないし。私は死ぬけど。
あとは階層がある分、銃声や足音が聞こえてもどこか特定しづらいってのも特徴かな。何階か不明ってなる。私は【聴覚強化】の恩恵もあって上下1階くらいならわかるけど、それ以上離れるとちょっと怪しい。【音声レーダー】なんかもあんまり信用できなくなるな。常時使えるのは便利だけど高さを表現してくれないし、他の索敵スキルにポイントを振るプレイヤーが増えそうだ。
「やっぱショットガンかサブマシンガンが強そうだね」
個人的にはショットガンの方が嫌かな。ある程度散るので避けたと思っても当たりそう。
事前に調べておいた強いポジションや避けるべきロングを実地で確認しつつ、サバイバーに見つからないように動いていると、ガシャガシャと硬いものが打ち付けられるような音が聞こえてきた。
隠れてに様子を伺うと、アパレル店から2メートル強の人形ミュータントが出てくるのが見えた。ガチャガチャのマシンが体に埋め込まれたような、異形のミュータント。
「沸いてるみたいだね」
こいつはチェチ地区のボス、ガランロット。ビクト地区のグローリープラントと違って、いわゆる徘徊型だ。
攻略サイトによるとこいつの攻撃手段はガチャから大量のジャンクをショットガンのようにばら撒くこと。曰く、近づかれたら死ぬ。ただしばらける上に距離減衰も大きいので、距離さえ確保すればほとんどダメージをもらう心配はない。グローリープラントと比べたら耐久力もたいしたことないらしく、こいつだけに集中できれば楽勝の相手だ。
不意に遭遇したり戦闘中に突っ込んでこられると酷いことになるけどね。
野生のミュータントからのヘイトは高くないけど、あまり近づきすぎると普通に襲われる。私には戦うメリットもないので、見つかる前に逃げるのが吉だ。
と、そんなことを考えながら移動していると、索敵に引っかかったことを【逆探知】が教えてくれる。ステージが縦に広いチェチ地区じゃ、全方位に索敵を行う【セカンドサイト】のパワーがこれまで以上だ。まあ今回の相手は2階下。移動にかかる時間を思えばほぼ関係ない。どうせ、他のパーティーも索敵範囲に入っているし。
なんて思っていた矢先、側面の吹き抜けから人が飛び込んできた。
「まじ?」
たぶん突撃兵科の使える機動力強化系スキル。手すりを蹴り付けてもう一度跳ねたそいつは、空中でフルオートのショットガンをぶっ放してきた。慌てて近くの店内に飛び込んだ私を追って銃口が向けられ、ショーウィンドウが粉々に砕ける。すでに荒らされた様相のアパレルショップは嵐が来たかの如くぐちゃぐちゃになり、壁や床に無数の弾痕が刻まれた。
「やべーもん持ち出してきたわね」
射程に致命的な欠陥を抱えている分ショットガンの接近戦火力は凄まじい。しかもあれ、フルオートとドラムマガジンで取り回しと引き換えに破壊力が跳ね上がっている。もちろん真っ向から戦っていられないし、そもそも今は地形把握のための偵察だ。だから嵐のような銃撃が止むのを待ってからバックヤードに滑り込んだのだけど。
「追ってくんじゃねえ!」
なんて言っても聞こえないんだけど。突撃兵は鍵の開いているドアを乱暴に蹴破り、銃口と注意を各方向に向けながら進んでくる。その行く先で通気口の穴に隠れる私。
これ、かなりまずい状況だ。見たところこの先は行き止まり。そのせいで隠れ潜むしかできなくなった。突撃兵がスキルで飛び込んできたので他のパーティーメンバーがどこにいるかは知らないけど、連絡は取り合っているだろう。そろそろ【セカンドサイト】のクールタイムが明けるし、そうなれば見つかる。
でもさ。このままやられるまで隠れて待つつもりはない。
今回は偵察のつもりだったけどね。別にやられてもたいして失うものはないんだ。
「上等だよ。やってやろうじゃん」
私は文明を滅ぼし人類に恐怖と終焉を与える化け物だ。非力で矮小な体がどれほど凶悪な力を持っているか、筋肉でできてそうな脳みそに教えてやる。
次回投稿予定は明日12時です。
よろしければ高評価、ブックマーク、感想をぜひお願いいたします。




