1-3 スタイルの確立
「これか」
どうにか無事にアグヌ地区を離脱した私は、ヘルプから情報を探り、気づかれた理由を見つけ出した。単に相手が上手だっただけならそれはそれで構わない。だけど実際は、かなり深刻。
理由は偵察兵の持つ索敵スキルだ。どうやらスキルツリーに見直しが入って、ベータテストの時にはポイント的に取れなかったスキルも初期から取得できるようになったらしい。よくよくみたらミュータント側もだけど、全体的に取得の前提条件が緩和されて構築の自由度が上がったようだ。
「【セカンドサイト】か。やばいねこれ」
効果は簡単に言えばウォールハックだ。範囲内のあらゆるキャラクターを障害物を無視して視認する。偵察兵科の使える上位の索敵スキル。
効果時間は最大強化でも3秒と短いし、発動の隙も大きい。だから戦闘中にリアルタイムで位置特定するような使い方は難しいけれど、さっきみたいに1箇所で待ち続ける戦法にはめっぽう刺さる。
「てか索敵系スキルのクールタイムが全般短くなってるじゃん。これ、運営がガン待ち戦法潰しに来たかもな」
まあ強ポジで待ち続けてやってきた獲物を狩るってプレイスタイルはかなりヘイトを集める。たぶん運営としても正面から撃ち合いして欲しいのだろう。ただそれってミュータント陣営にとってはきつい調整だ。
銃がメインウェポンのサバイバーと違って、ミュータントはその肉体を武器とする。飛び道具持ちだろうと遠距離攻撃能力ではサバイバーより圧倒的に低く、強靭な肉体を強みとする種でもマガジン丸ごと撃ち込まれれば沈む。だから気づかれる前にある程度の距離まで近づくのが必須なのだ。中でも隠密メインのデモンズ種は特に厳しい。
まあ仕方がない。
この手の非対称型対戦ゲームでは、どうしても母数の多い側に気を遣う。エボルヴインパクトでも圧倒的に多いのはサバイバーのプレイヤーだ。メインのプレイヤー層はFPS畑で、そこに私らみたいなのが一部混じっている人口比。一方が有利になり過ぎた結果マッチングしなくなって過疎化、なんて調整ミスの末路は何度も見てきたけど、このゲームの場合は最悪サバイバーだけでも成り立つ。
「なんか考えんとなぁ」
少なくとも今のプレイスタイルじゃ近いうちに行き詰まる。潜るより考察だな。これは。そう判断した私は、ネットで更なる情報を集めるべくエボルヴインパクトの世界からログアウトした。
◆
ネットで攻略サイトをハシゴし、学校では授業の合間に考えて丸一日。色々な策を思いついては無理だと却下し続ける。正直、今のうちに別のミュータントに乗り換えることも考えた。ミュータント全般がキツくなってるのは調べてわかったけど、隠密が強みのデモンズ種は特に影響が大きく、他の同類も苦戦している。
「とりあえずガン待ちは完全に無理だわ。居場所がバレてむしろ先制攻撃される。デモンズ種は先制できなきゃほぼ勝てんのに」
超有利な場所ならチャンスはあるけど、そうでなければ接近する前に撃たれる。昨日の1キルも運に支えられたところが大きく、今後立ち回りの研究が進むほどさらに苦しくなる。ただ他のミュータントに乗り換えようにも、一番ピンときたのがデモンズ種だったのだ。使ってて楽しいかってのは強いかどうかより優先すべきと思う。プロってわけでもないんだし。
そうして色々と調べるうちにひとつだけ、可能性のあるスキルを見つけだした。
というわけで、取得スキルのリビルド。【再生】なんてあってもそもそも紙耐久だから食らったら死ぬ。隠密は【静かな殺意】なしでも技術でなんとかする。だからどっちも切り捨て。うそ。本当はどっちも欲しいけどスキルポイントが全然足らん。
かき集めたスキルポイントの投入先は、索敵系のスキルツリー。その中のひとつ、【逆探知】スキルを最短で取得して可能な限りポイントを突っ込む。
「ギリレベル2に行けたわ。まあ最低限」
これでレベル1だと使い勝手悪過ぎるからな。
【逆探知】は索敵に対するカウンタースキル。他プレイヤーの索敵スキルに私が引っかかったときに自動的に発動し、索敵してきた相手の情報を引っこ抜く。レベル2だと索敵されたことと、使われたスキルの種類までは特定可能だ。
索敵対策スキルとしてはデモンズ種の固有スキルとして墨でできたダミーを作るものがあったものの、私自身が探知されるのを防ぐタイプのスキルはなかった。つまり範囲内にいれば確実に捕捉される。
索敵スキルが使える偵察兵はどこの攻略サイトでも飛び抜けて強いと評価され、ソロで潜るなら偵察兵一択と言われている。それくらい、情報を得ることは大事なのだ。だけど完全無欠というわけではない。偵察兵は最強なのでパーティーにひとりは確実に欲しいけど、じゃあ全員偵察兵がいいのかというとそんなことはない。話題の【セカンドサイト】だって、効果時間の短さからリアルタイムで相手を追跡するような使い方は不可能だ。
特に重要なのが、エボルヴインパクト独自のクールタイムの仕様。アクティブスキルのほとんどにはクールタイムがあり、再使用までに一定の時間がかかるんだけど、使えなくなるのは単一のスキルじゃない。スキルはそれぞれグループが設定されていて、同じグループのスキルがクールタイム中はまるごと使用不可になる。似たようなスキルを連続で使ってクールタイム時間を繋ぐのを防止するためだろうね。
さらに一部の強力なスキルはクールタイムがパーティー全体で共有され、誰かが使うと他メンバーまで使用できなくなる。友軍に砲撃を要請する後方支援グループなんかがわかりやすい。パーティーで連携して強力なスキルを短時間で連打する戦術を防ぐためだ。たぶん、それができたらいろんな意味でゲームが終わってた。計算上ボスとかも簡単にコロコロできるようになるし。そして索敵系統のスキルもクールタイムを共有するタイプ。だから最強の偵察兵もパーティーに複数は微妙扱いされている。
「あとは実践フェーズだな」
この構築のいいところは、トークンを消費するスキルを積んでいないので負けても失うものがないところ。だから気軽に潜って感触を確かめられる。ここからはトライアンドエラーで立ち回りを改善していくターンだ。
準備を整えた私は、再びアグヌ地区へ向かうべく、外に繋がるハッチへと進んだ。
次回投稿予定は明日12時です。
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