1-2 ファーストエンカウント
プレイヤーが最初に探索することになるアグヌ地区は、平屋の建物がいくつも並ぶ住宅街だ。すべて一軒家というと余裕のある人間が住んでいるようにも思えるけど、実際は逆。新たに惑星開拓するってことで郊外は土地が有り余っているからね。要するに高度な建築技術が投入されていないダウンタウンってわけ。
実験事故の起こったホストシティ中心部からも距離があるため、現れるミュータントも数が少なく弱いという設定。将来的にプレイヤーが育てば環境も変わるかも知れないけど、私たちもキャラクリしたばかりの雑魚なのでここにいておかしくない。
そういうわけでマンホールからこんにちは。土の地面に這い出た私は、そそくさと近くの建物に逃げ込む。能力的に開けた場所は死地なので。
と、そこで見えたのは白い毛むくじゃら。
「あ」
「え?」
そりゃスタート位置近くなんだからいてもおかしくないか。なんて思いながら、小さな刃を毛皮に潜り込ませて斬りつける。すぐに回る毒。そして死。
「とりあえず1キルっと」
このゲーム、ミュータントとサバイバーが敵対しているというより、ミュータント同士だろうとサバイバー同士だろうと、パーティーメンバー以外はすべて成果を取り合う敵対関係にあると思っていい。そのうえで、ミュータント同士の戦闘は互いにどんな能力を持っているかで勝負が決まる相性ゲーに近い。例えば私の選んだデモンズ種は超強力な毒を持つためほとんどの接近戦型ミュータントにまず勝てるけど、全身が装甲に覆われたライオット種にだけは手も足も出ない。あと、デモンズ種同士だと毒が効かないし通常攻撃力は貧弱すぎて戦闘が成り立たない。
そんな感じだから、ミュータント同士は基本的に不利な方が逃げて終わる。
この辺の判断がすぐにできなかったあたり、今のイエティ種は初心者か。まあベータテストに応募するようなプレイヤーは全体でも少数だし、出会ったらしょうがない。とりあえず“血液”は美味しくいただく。
「やっぱしょっぱいっすわ」
ミュータント同士だと“血液”ほぼ取れないからなぁ。あっちがすでにサバイバーを襲ってたら話は違ったんだけど。
ともあれ、ここに居座り続けるのはよくないとさっきのイエティ種で証明された。サバイバー側の開始地点は別なので出待ちともならない。
「ベータテストのままなら漁りポイントもわかるんだけどなぁ」
とりあえずは変わってないと想定して動こうか。私は慎重に家から出ると、数ブロック離れたホームセンターへ向かった。ここで手に入る工具や電子部品は比較的価値が高い。それに面積が広くて多くのアイテムが落ちているので数人では探し切るのもすべてを持ち帰ることもできず、ものが残っていることが多いのだ。ベータテストのころから有名な稼ぎスポットである。
特にトラブルもなくホームセンターに入った私は、クリアリングのために中を素早く見て回る。混乱に合わせて略奪も起こったのだろう。店内は荒らされ、倒れた家具や商品棚でいくつかの通路は塞がれていた。まあ私にとってこの程度の障害物では移動の妨げにはならない。触腕を使って棚の上に登り、するすると店内を索敵する。
なお、その辺に落ちている物品を拾って持ち帰ることはできない。システム上、アイテムではなくフィールドオブジェクトの扱いだからだ。設定的には壊れて使い物にならないとかなんとか。アイテムを手に入れるには、ルートポイントと呼ばれる特定オブジェクトに対してコマンドを行使し、それらのインベントリを開くこととなる。ルートポイントとなるオブジェクトは決まっているらしいけど、ミュータントの私の目には光って表示されないし詳しく知らない。本当はサバイバーの動きを読むためにもちゃんと覚えたほうがいいんだけどね。
「誰かいたらそのまま襲えばよかったんだけどなぁ」
どうにもついさっき1パーティー出ていったみたい。屋外戦は不利すぎるので追うのは無し。大人しく次が来るまで潜んでおく。
流石は漁りスポットだけあって、数分で次のパーティーが入ってくる。音からして4人のフルパだな。他が後から来ての漁夫が怖いのでできればさっさとけりをつけたいところ。ただ店の入り口近くは間取りが広くて襲うのに不利。奥まで入り込んだところを、できればバラバラに漁っているタイミングで個別に仕留めていきたい。
戦闘プランを組み立てながら相手の動きを観察する。私がいるのは商品棚の上で、目の前の段ボールのせいで見通しは悪いけどそこそこ見渡せる。どうもサバイバーたちは警戒しながらこっちに向かってきている様子。固まってるわけじゃないけど、お互いをカバーできる位置取りをキープしているところに連携を感じさせる。別ゲーか何かで知り合っている固定パーティーかもしれない。もう少しばらけてくれた方が私としてはやりやすいんだけど。
そんなことを思いつつ、こっちの間合いに入ってくるのを静かに待っていると、なんとなく相手の動きに危機感を覚えた。特に、ライフルを持った小柄な男の目線。
うん。
バレテーラ。
相手の会話は聞こえない。システム上、パーティーメンバー以外とは会話できないので当たり前だ。ただ何かを話し合ってるのは動きでわかるし、たぶん共有してるな。
ここで動かなければ状況はどんどん悪くなる。そう判断した私が仕掛けようとしたのとほぼ同時、敵パーティーから銃口を向けられる。
「っ!」
間一髪、体を下に滑らせた真上を弾が過ぎる。掠った弾丸でHPがガリッと削られた。耐久低すぎ。
【再生】を発動している余裕はない。ここまできたら仕掛けるしかないと、私は棚の隙間を縫うように動き出す。正面突撃はしない。近づく前に撃たれるのは明白だからだ。だけど相手はきっちり連携して、私の位置を抑えてくる。
こりゃどっかで銃口の前に飛び出さないとどうにもならんな。ただデモンズ種は速さと毒のおかげで連続キル性能は高い。形勢を引き寄せれば一気に決められる。
サバイバーたちは私を追い詰めるようにじわじわと戦線を押し上げてくる。動ける範囲は徐々に減り、それだけ追い込まれる。ただ向こうの連携も完璧じゃない。荒らされたホームセンター。通路を塞ぐ倒れた棚の配置が、前進する敵の陣形に歪みを生む。
「チェイスで負けるつもりはないんでねっ!」
こちとらフロリダで散々鍛えてきたんだ。連携の隙を突くのは多数を相手にする基本技能。
棚の上から飛び出した私に、敵も素早く狙いをつけようとするが、慣れない上下の合わせに照準がぶれる。コンマ数秒は戦いの中で致命的。引き金にかかった指より早く私の触腕が頬を掠める。
取った。
毒を受けたサバイバーは即座に動きを奪われ、瞬く間に死に至る。
そして今の場所はほかがフォローできない位置。ただしそれも、ほんの数秒。すぐに駆けつけてくる。ならばどう動くべきか。ほんの一瞬の思考の末、私が選んだのは逃走だった。
生きて帰らなければトークンで消費した分も含めて全部失う。倒した敵から素早く“血液”を回収。これで最低限の成果は得られた。ひとり倒したことで空いた穴をそのまま突破。背後から慌ただしい音が聞こえてきたけれど、障害物を抜けることでどうにか撒き、そのまま離脱に成功した。
フロリダの斧
ホラー映画を原作とした非対称型PvP。邪悪な儀式のために誘拐してきた人物を殺害しようとする狂信者と、カルト教団から逃れようとする被害者という構図の対人ゲーム。
次回投稿予定は明日12時です。
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