第42話 必勝勉強法
第42話 必勝勉強法
沙織の女子友だちがまず集まって来て、グループ以外の女子までが俺たちの回りに集まった。
「ねえねえ、カラオケの時も沙織はテストに自信あり気だったけど、これは聞き出さなきゃね。
どんな必勝勉強法を見つけたの」
沙織の友人の一人が放ったその言葉に、みんなが同じ反応を示した。
どう答えるつもりだ、沙織は、、、
「ふふん、実は」
「おい、大丈夫か? 沙織」
俺は慌てて止めに入った。
すると、沙織のグループの一人がすかさず大きめの声を出して、左右の顔を見る。
「ああ仲村くんまで、さおりんを沙織と呼び捨てで呼んだ。
コウタ、沙織って呼び合って…あやしい、あやしい、絶対怪しい」
「怪しくないよ。実は昔から仲が良かったのよ私たち。ただの幼馴染よ」と、沙織。
「仲村くん、そうなの?」
今度は、さっきの子の隣の子がそう訊いた。
話が、必勝勉強法から二人の仲の話にすり替わってしまったので、グループ以外の女子は散り散りに各々の机に戻って行った。
「で、さっきの話に戻るけど、どうしてこんなに二人揃って、すごい成績取れたのよ」
こう小さな声で訊いたのは、さっき「あやしい、あやしい、絶対あやしい」と、言った女子だった。
名前は確か、高橋さんか、鈴木さんだったか、とにかく一番多い名字の子だ。
あの言葉にはどうやら、必勝勉強法があるならグループで独占したいという目的があったかららしく、他の子も阿吽の呼吸で同調したというのが真相らしい。
「実はね、コウタのお父さんが東大卒か京大出とかで、勉強の秘訣を教えてくれたんだよ」と、沙織。
俺の父さんの母校は私立の東京都大学(都立大学ではない)という新興の二流大学で、現在偏差値を急激に上げてはいるが、知名度はまだまだ低い大学だ。
沙織はウソすれすれを言っているのだ。後の方の、勉強の秘訣を教えてくれたというのは真っ赤な嘘である。
「おいおい、それはダメでしょ」と、俺。
「良いのよ。あんたのお父さんにみんなを指導してもらう訳じゃないから」と、沙織。
「なんでよ、みんなにも教えてよ、必勝法」
こう言ったのは高橋さんか、鈴木さんだ。
「みんなが同じようにできるかどうかは分からないけど、脳の集中法ならコウタのお父さんから聞いたやり方を今度教えてあげるわ」
「それ、約束だよ。絶対だよ」
みんなが口々にそう言った。
おいおい、そんなこと言って大丈夫か。気が気ではなかったが俺にお鉢が回ってこなくてほっとした。
午後の授業が始まるので、この集まりは自動的に散会となった。
後で脳の集中法について沙織に確認してみると、しのぶが読んだ本の中に、脳の集中力を上げるための手順がいくつか説明されているとのことで、それが私たちには特別にフィットしたことにするとのことだった。
沙織はそれで大丈夫だと言うが、俺にはとても大丈夫とは思えない。
あとは沙織に任せたぜ。俺は知らん。
それでも気になった俺はググってみた。
すると「集中力を継続するための10のコツ」とか、いくつか似たような回答が出てきたのでホッとした。
まあそんなにうまい話は現実にはほとんど無いと思うが、気休めにはなる。
(第三者視点)
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この時期の話。
フライは、しのぶに向かって問うた。
「あれで良かったのか、しのぶは」
「良いんです。
元々の目的は、姉さんの片思いを成就させるお手伝いだったんだから」と、しのぶ。
「当初の目的はそうかも知れんが、しのぶもコウタを好いておろう」
「私は、幸太さんのキープで良いの。
もしもあの二人がうまく行かなかったらもう一度アプローチするつもりだけど、姉さんと幸太さんは、きっとあの頃から知らず知らず相思相愛なのよ。
あの思い悩んでる姉さんを、ずっと見てきたから分かるの。
そして久しぶりに会ってみたら、姉さんを託すのにふさわしく成長してたわ、幸太さん。
私は今回キューピッド役を果たしたけど、遅かれ早かれあの二人は恋仲に戻った筈だもの」
「そうか、しのぶがそういう気持ちなら問題ないが、私はコウタにはしのぶの方が似合うと思うのだが、まあ無粋なことを言うのはやめておこう」
「フライさん、無粋なこと、もう言ってるじゃないの」
「そうかの、うむ、そうだな」
フライは複眼を弱く光らせて、しのぶを眺めた。
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