第39話 勉強会と高速化効果の持続
第39話 勉強会と高速化効果の持続
「「「よろしくおねがいします」」」
明日にせまった中間テストを控える俺と沙織はもちろんだが、しのぶにも力が入ってるらしい。
何故だろう。もう成績トップなのだからそれ以上は必要ないだろう。
凡人の俺はついそう考えるが、トップクラスの人の目標はもっと遠くにあるのだろうと、分からないのに妙に納得してしまう。
次にフライが長々と説明したものは、まるで新興宗教の洗脳勧誘みたいだった。
「コウタとさおりんには、文科省のガイドラインを参考にして高校2年生のカリキュラムに沿ったコースを用意した。
しのぶには、要望通り中3および高校受験カリキュラムコースを用意した。
それぞれのコースは地球時間換算で50時間だが、タイムコントロールバリア内で実施することと、普段10%程度しか稼働してない脳を90%まで活用する、エターナル式集中垂直水平並行思考メソッドを施す。
100%にすると必要な遊びの部分が無くなってしまうので、90%に制限しておく。
終了してバリアから出た時には、地球時間で2時間経過している。
つまり、2時間で50時間分の勉強ができるお得なコースだ。
一度でもエターナル式集中垂直水平並行メソッドを体験すると、その効果はしばらく持続する。
2度体験するとその効果は長期に持続し、例えば1年半後の大学受験、高校受験くらいまでは楽チンに持続することを保証する。
永続効果が得られるかどうかは、その個体の適応力次第だ。
バリアを出たときは、時差ボケ症状が少し出るので気をつけてくれ。
尚始める前と、途中、終了後に、こちらで用意する和三盆の砂糖菓子をたっぷり摂ること。そうすれば脳の疲労は始める前と同程度まで回復する筈だ」
長い説明後に始まった、連続50時間の脳フル回転。
想像を絶する苦行と言いたい所だが、理路整然と淀みなく学習は進み、確かに脳は疲れたが心地良いくらいだった。
フライによると、それはラーニングハイの状態だという。
その状態で糖分を取らないと、しばらく何も考えることができないほどの反動が出るから気をつけろと脅かされた。
クモミンが用意してくれた和三盆の砂糖菓子は、途中でもうまかったが終了後はめちゃくちゃうまかった。
「フライ。
始めに、なんとかメソッドを一度体験すると暫く持続すると言ってたけど、明日から5日間の中間テストの間は脳の高速化は続くということで良いのか」
「そのくらいは楽チンだ。
説明は省いたが、昨日もメソッドを使っているので今日が二度目になる。
故に効果は、今から2、3年間は続くだろう。
但し人生の悩みとか、恋の悩みなどを解決する力はないし、人によっては悩みを増幅する可能性がある。
天才の中には、悩みが深くなり過ぎて、悩みの迷宮から出られなくなる事例もある。
それと似た副作用が無いとは言い切れんから、何事にもあまり悩まないように心掛けると良いだろう」
それを聞いて納得した。
軽い恋の悩みだと思っていたのに、俺はさっきヒューズがとんだような感じで思考停止したが、そのせいだったのか。
普通ならメンタルダメージ1のところ、10に増幅されたのかも知れない。
今後、宮坂姉妹との恋の三角関係を、うまくコントロールしないと大変なことになりそうだ。
でも俺と違ってあの二人はそれほど悩んでない感じだし、俺の独りよがりなのかも知れない。
こんな俺が、急にモテ始めること自体がおかしいのだ。
俺がそんなことを考えていると、沙織はフライにあのニュースのことを問い質した。
「フライ。
今朝のクレムリンの動画はあんたがやってくれたんでしょ」
「そうだ。
あれはヨーロッパチームのプリゴジンの乱と同じく、日本チームが21点獲得したから今は同点だ。
よくやってくれたな、三人とも。今日の勉強会はそのご褒美と思ってくれ。
明日からの中間テストで良い結果がすぐ出る筈だ。期待してるぞ、好成績を」
「私は、しばらくテスト無いから効果を実感できないのかな」と、しのぶ。
「テストが無いなら、難しい本を読んでみたらどうだ。
すいすいと理解できるかもしれないだろ」
俺はそんなことを言ってみた。
「じゃあスタンダールと、坂口安吾の『恋愛論』を読んでみようかな」
何故そこで俺を見る。しのぶ。
そんなタイトルの本なんて俺は聞いたこともないが、難しい本なのだろうか。
俺が考える難しい本というのは、「量子論」とか「量子もつれ」の本だけど、高速効果が続く今の俺なら、あの難解そうな内容が理解できるのだろうか。
まあ俺は理系クラスではないから、読まないけどな。




