第23話 部屋の片付け
第23話 部屋の片付け
俺が自分の部屋に入ると、俺の机に置いてあるiPadがホワイトアウトして、ハエトリグモの全身像が映し出された。
「クモミン、まだ早いんじゃないか。まだ1時過ぎだろ」
「そうなんですけど、ご主人。
そろそろ忘れない内に、やばめのものは隠した方が良いのでは?」
「なんだよ、それ」
内心ではぎくりとした。
「年頃の女子というものは、年頃の男子が何かエロいものを隠してないかと、興味津々で探し出しちゃうものですよ。
しかも思春期の娘は、結構カンが働くんですから」
「おまえまさか、俺が隠しているもの、何か見つけたのか」
俺が隠しているもの。
それほど多くはない筈だが、少年誌のグラビアページや、エロ本の袋とじ部分を切り取ったヤツなど、まとめてクリアファイルに入れてある。
2,3個ほど、いや5,6個ほどかな。
他にはFanzaの先月号とか、河北彩花の写真集を一冊隠してあるな。
木は森に隠せ。
そんな格言を信じて、主にコミックと学習関係の本を収納した書架の中に、うまく隠したつもりだが。
「はい、今、ご主人の視線が向いた先の、書架の中で幾つかは見つけましたよ。
他に、ご主人はお忘れかもしれないけど、古い赤点の答案用紙数枚を、クローゼットにしまってある紙箱の中でみつけましたよ。
そこには、よく分からない、くしゃくしゃのティッシュを入れたビニル封筒も」
最後のワードに反応し、俺は慌ててクモミンの言葉を止めた。
それが何かは今は言いたくない。
「分かった、分かった。もう良いから。しかし、おまえ何でも見つけるんだな」
「クモですから、小虫を追い掛けていたら、偶然みつけちゃいました」
クモミンは両前足を色々動かしながら、そう答えた。
「そんな偶然があるか」
こいつらに秘密は持てないのか。少し怖いが、逆に探しものはすぐ見つけてもらえそうだ。
「それで、どうしましょうかね。
クローゼットの隅にでもまとめて隠しちゃいましょうか」
女児声は相変わらずかわいい。
「そこに隠したとして、思春期の女子のカンとやらで見つけ出されたらどうするんだよ」
「隠すところは、座布団で一杯にしておくよん」
こともなげに、クモミンは言う。
「座布団なんてここにはありませんけど」
それほど良い考えとは思えないから、そう返した。
「隠したクローゼットの隅に、表面感触付きの光学迷彩バリアを張っちゃいましょう。
バリアの表面は座布団の感触が再現されるから、触られてもバレませんよ」
なんか良さげだ。
「ハイテクさまさまだな」
とりあえず、見られちゃいけないものはクモミンの助言に従ってどうにか隠した。
一応女子が来るのだから、持っている私服の中から少しましなものをチョイスして着替えておいた。
午後2時半になるとフライが登場した。
フライが中空から取り出したのは、4人が使えるサイズの会議用の長方形ローテーブルだ。
天板は四つに分解でき、4つの足も簡単に取り外せるので、使わない時は小さくなって部屋の片隅に収納できる便利品だ。
逆に組み立ても、精巧に作られているので簡単に組み上がりしっかりしている。
こんなに精巧な家具をオレの部屋で見つけたら、母さんがびっくりしそうだな。
「技術家庭の時間に作ったものだと言えば、
家族にも説明がつくだろ」
フライはいつも簡単そうに言うな。
「こんなに凝った仕組みの家具なんてすぐバレるだろうし、そもそも技術家庭の教科なんて高校には無いよ」
「そこはうまくごまかしてくれ。
これから会議ではいつも使う家具だからね」
そう言って、フライは消えた。
いつの間にか、クモミンも姿を消していた。
まあ何とかなるか、なるのかなぁ。
午後3時丁度に玄関の呼び鈴が鳴った。




