第21話 仲村家の週末と連チャンの会合
第21話 仲村家の週末と連チャンの会合
翌日、土曜日。
ウチの週末の朝は、一家3人そろっての朝食、たまには少し遅いブランチ。
というのも時々母さんは朝食を作るのが面倒になる。
まあ平日フルタイムで働いているからそれも無理はないかな。
住宅ローンとか大変だろうし共働きも楽じゃないだろう。兼業主婦の母さんには同情するぜ。
で、今朝は、コーヒーでジャムバタトースト&かりかりベーコン、目玉焼き付き、伊藤園の野菜ジュース。
足りなきゃ、勝手にシリアル、コーンフレークにミルク掛けて食えって感じの、普通の朝食だった。
一見簡単な朝食に見えるが、母さんには色々こだわりがある。
ある日午後4時過ぎに電話があった。
「今日はちょっと遅くなるから、駅前のコンビニでパスコの超熟山形5枚切りの食パンを買っておいてちょうだい」
俺はOKとだけ答え、買ってきたのはパスコの超熟6枚スライスだったが、7時頃帰宅した母さんに注意された。
「ばかね、6枚切りは薄すぎるし、頼んだのは山形よ」
母さんにパンのことで反論するのがやばいのは知っていたが、つい言っちまった。
「ブランドは同じだし、大した違いはないんじゃないの」
すると母さんは、俺の無知さ加減に、さも呆れたという感じで言った。
「食パンは薄すぎると、もちもちさが無くなるの、同じパスコでも角型より山形がおいしいのよ。
そのくらい覚えておきなさい」
そんな母さんがパン焼きに使っているのは、高熱グラファイトのアラジンオーブントースターだ。
短時間で高熱になるため、表面かりかり、中はもちもちに焼けるそうだ。
母さんがそれをねだった時、父さんは「今のだってまだまだ使えるだろ」と渋って見せたが、母さんに弱い父さんは、次の日曜日の朝それを買ってきたw
母さんのこだわりはコーヒーにもある。
そうは言っても、うちのはインスタントコーヒーなのだが、ちゃんと銘柄指定がある。
『オーガニックマウンテン(有機コロンビアコーヒー)』
こいつは100gで千円以上する、少しお高めのインスタントだ。
母さんに言わせると、
「100g千円位するものなら、まあまあ外れはないわね。後は入れ方次第かな」
母さんにコーヒーのことで反論するのがやばいのは知っているが、つい言っちまった。
「インスタントなんて熱湯入れて、かき混ぜる以外の入れ方なんてないだろ」
すると母さんは、俺の無知さ加減に、さも呆れたという感じで言った。
「ばかね、この子は。
良いコーヒー豆を、高いコーヒーメーカー使って入れるんだったら、隣の山田さんだっておいしく入れられるわ。
でもね、良いインスタントコーヒーをおいしく入れるなら、お湯の温度は80度。
上手に入れると、表面にクリーミーな細かい泡ができて焦げ茶色に滲むのよ。
これがおいしいの、そこいらの下手な喫茶店で出すコーヒーよりおいしいくらい。
そのくらい覚えておきなさい」
そんな長い蘊蓄、覚えてられないっての。
この時俺が知ったのは、母さんが、お隣の山田さんに高いコーヒーメーカーの自慢を聞かされたことだけだ。
ジャムとバターとかりかりにも、母さんのこだわりがあるらしいが割愛する。
食卓で父さんが、向かい側の席の母さんに言う。
ちなみに俺の席は父さんの隣だ。
「ゆうべ、パソコンをいじってる時に感じたんだが、うちのWi-Fi スピードが急に早くなったな」
母さんは、うんうんと笑顔で首を縦に振る。
「そうそう、私もゆうべ、プライムビデオで映画を検索したら、するするのヌルヌルで、びっくりしたわ。
金曜日の夜にこんなに早く動くなんて、うちのWi-Fi、結構すごいわね」
『するするヌルヌル』のワードに、少し興奮しかけたが、母さんのセリフだと思った瞬間に、興奮はするするヌルヌルと消えた。
Wi-Fiが速いのはフライの工作だろう。
良いこともあるんだな、フライがいても。
母さんの土曜日は、平日働いていることもあり、1週間分をまとめて洗濯、各部屋の掃除と3時のおやつ頃まで忙しい。
昼飯は簡単なものになることが多い。
インスタントラーメンとか、冷凍チャーハンとかね。
父さんの土曜日は、母さんが相手をしてくれないからか、3時頃まで書斎のPCに向かう。
書斎と言っても、子ども二人の予定が一人で終わったことで、もう一つ空けてあった部屋の名前がそう変わっただけだ。
比較的、仲の良い父母夫婦は、日曜日は二人揃って外出することが多い。
俺も小学校までは外出にお供していたが、その後は滅多に一緒には出ない。
したがって土日の両方とも、俺の時間はそれなりに自由だ。
だから土日が好きだったんだが、、、
朝食を終えて自室に戻り腰掛けると、早速俺のPCが反応した。
フライの3回目の登場だ。
クモミンのiPadまで一緒に反応しやがる。
せっかくタブレットで遊ぼうかと思ったのに。
「おはよう、もしくは、こんにちわ。
コウタ、ご機嫌は如何かな」
「つい今さっきまでは最高だったよ」
「今は、そうでもないと」
体を斜めに向け足をだらんとしてフライをにらみつける。
「そりゃそうだろ」
フライはいつでも平然としている。
余裕をなくしたのは、PCをクモミンにハックされた時くらいだな。
「そうか。ところで一昨日は、土日のどちらかで、パーチンプロジェクトの会合を開くと通告したが、」
「なんだよ、その変な間は」
「委員見習いの宮坂沙織から要望があってな、」
俺はもう一々おどろかない。
「その変な間をとるの、気持ち悪いからやめてくれないか」
「そうか、ふむ。
10月中旬に、川北高校では中間テストがあるそうだな」
「ああ、フライが現れてすっかり忘れていたよ。あるよ中間テスト。
僕のためを考えて、会合を延期してくれるのか」
いい話かと思った瞬間に、フライへの態度も和らいだ。
「いや、その逆かな」
「なに、その逆って」
またかよ! 逆ってどういう意味だ。
俺は身構えた。




