第8話
白瀚と出会った異界へ帰ってきた3人。
帰ってきた安心感と疲れにより、大きなため息を吐いて座り込む紅輝と柳田。
「今日はもう遅いから帰った方がいいかもね。まぁ取り敢えず今日は遅いし家に帰れば?これを割れば元の世界に帰れるよ。」
白瀚は懐から薄い黄色のゲートスフィアを取り出して柳田に手渡す。
柳田は手の中にあるゲートスフィアを少し眺めた後に、
「紅輝も今日は帰ろう。そろそろ親が心配する時間じゃないか?」
柳田は座っている紅輝の方へ手を伸ばす。
紅輝はその手を取ることなく俯いた。
「先輩。実は俺、親はもういないんだ。」
沈黙が走る…
「紅輝、ごめっ」
「俺の親は父さんが警察官で母さんは父さんを支えてたんだ。」
柳田の謝罪に割り込むように話し始める紅輝。
「父さんは仕事中に、母さんは父さんが死んだ次の日に事故で…運が悪かったんだ。」
暗い顔で淡々と話す紅輝。
「紅輝ごめん。嫌なことを話させてしまって。」
「先輩は知らなかったんだからしょうがないよ。」
気まずい雰囲気になり誰も話さなくなった所で、
「紅輝は今どこに住んでるの?」
白瀚が空気を割って質問する。
「祖父母も親戚も誰も俺のことを引き取ろうとはしなかった。今は学校の近くにあるアパートに住ませてもらってる。大家さんが親代わりになってくれてるんだ。」
「そうだったんだ。大変だったんだね」
「大家さんがいい人だからあんまり苦しいとは思ったことはないよ。今日は帰るからまた明日の放課後ここに来るよ。」
紅輝はにっこりと笑顔を浮かべ、柳田の肩に手を置いた。その笑顔には、少しぎこちなさがあった。
柳田がゲートスフィアを割り、2人は光に吸い込まれて消えた。
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「ただいま」
返ってこない返事を普段はなんとも思わないが、今日は少し心に沁みる。
コンコンッ
扉を叩く音がした。開いて入ってきたのは大家さんだった。
「紅輝くん!帰ってきてたのね!」
大家さんは60代のおばあさんだ。いつも紅輝の面倒を見てくれて、弁当と夜ご飯を作ってくれる。
「ごめんなさい、今日は少し友達と遊んでて遅れちゃったんだ。」
「もう!全然!紅輝くんはもっと自由にしていいのよ!若いうちはもっと人に迷惑をかけなさい!」
気さくな感じで笑顔で語りかけてくれる大家さん。紅輝がどれだけ辛く苦しいことがあっても耐えられたのは大家さんのおかげだった。
「今日はご飯食べて早く寝なさい!寝なきゃ育たないよ!」
大家さんはそう言ってタッパーに入れた肉じゃがや味噌汁をキッチンに置いた。
「ありがとうございます!」
紅輝の悩み事が少し晴れたような気がした。