第5話
「……………殺した……」
動かなくなった生き物を見つめる紅輝。
「少し危なかったかな?いい戦いだったよ。制服が返り血で汚れちゃったね。着替えある?」
微笑みながら制服についた血を手で拭う白瀚。生き物を切ったことで吹き出た血によって汚れてしまった2人の学ラン。
柳田が襲われていたとはいえ、初めて自分の手で命を奪ったことや、戦いの恐怖で紅輝の気持ちは落ち込んでいた。
「取り敢えず先に進むしかないよな。」
紅輝は静かに歩きだし、その後ろを柳田と白瀚も着いていった。
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小動物のような生き物との戦闘の後からかれこれ数十分は歩いている。
何度も曲がり角を曲がり、行き止まりにある扉を開けるとまた同じような光景が広がっていたり、まるで迷路の中にいるような感覚だ。
「あの扉の先に何もなかったら帰ろう。」
柳田は少し先にある扉を指差した。
扉の前まで行き、ドアノブに手をかける。また同じ光景が広がっていると考えながらゆっくりと扉を開ける。
そこには、紅輝たちが想像していた光景がそのまま広がっていた。
「また同じだ。」
「帰るか。」
柳田も扉を跨いで中へ入ってくる。白瀚も扉を通ろうとしたその時、
バタンッ
「「えっ?」」
勝手に扉を閉まり、白瀚と2人は分断された。柳田が急いで扉を開けるが、そこには先程の景色とは違い、赤い光に包まれ、霧が充満している部屋があった。白瀚の姿は見当たらず、柳田の鼓動が早くなる。
「先輩、あれ…なんだ?」
紅輝が指差したのは扉の先の霧の中。目を凝らして見ると、何か大きな影が蠢いている。その影は段々と近づいてきて、やがて目の前に現れる。それは、赤黒いカマキリのような生き物だった。両手は刃物のようになっている。
「「うわぁぁぁぁぁ!!!!」」
ふは急いで歩いてきた道を戻る。見えた曲がり角や扉を通過し、必死に逃げる。後ろからはカマキリのような生き物が追いかけてきている。
(おかしい…)
紅輝は感じていた。
(こんなに進んでたっけ?)
明らかに進んできた道よりも長いのだ。扉の数も曲がり角の数も増えている。その事に気付いた紅輝は先程の小動物のような生き物の時と同じ決断をした。
「先輩!こいつも倒そう!」
走りながら横にいる柳田に話す紅輝。
「こんな強そうなやつに!?絶対無理だろ!!!」
「なぜかは分からないけどこの世界にゴールはない!!!逃げるだけじゃいつか追いつかれる!!こいつを倒すしかない!!!」
否定する柳田に説明する紅輝。
「もうやるしかないんだろ!!!?」
柳田は声をあげ、2人は曲がり角を曲がった所でそれぞれ武器を構えて生き物が来た瞬間に切りかかった。
カキンッ
二人が振った武器は異生物の体を切り裂くことなく止まった。
((かっっっっっった!!!!))
生き物の体は二人の持っていた武器よりも硬かった。
ドガッ
「うわっっ!!」
紅輝は生き物に体当たりされ、後ろに吹き飛ぶ。吹き飛ばされたことによって、持っていた短刀を生き物の後ろに飛ばしてしまった。
「紅輝!!」
まだ生き物の懐にいる柳田は紅輝の方を向いて心配していた。すると、、
「えっ??」
生き物は柳田に向かって両手の刃物を振り下ろしていた。
「うおっ!!」
柳田はギリギリ避けることが出来たが、すぐに勝てないと判断して紅輝と一緒に走って逃げた。
「「うわぁぁぁぁぁ!!!!もう無理だぁぁ!!」」
生き物の刃物は切れ味がとても優れていて、体は刀で切れないほど硬い。無理だと悟った二人はできるだけ逃げていた…が、もう何回目か分からない曲がり角を曲がった先は行き止まりだった。
(終わった…)
もういっそ楽に殺してくれ…と考え始めた二人。近づいてくる生き物を立ち止まって待った。
(こんなことになるなら、異界になんて来なきゃよかった。)
過去の自分を恨み、目を閉じて死を待った。
???『一本道なのに迷っちまった。こりゃ怒られちまうな~』
後ろから知らない声がして二人は振り向いた。
そこには若い黒スーツの男が立っていた。
行き止まりだった場所にはさっきまではなかった扉がある。そこから現れたのだろうか。
そんなことを考えていると、
『これ貸してくれ。』
柳田が持っていた刃が折れた剣を奪うと、こっちに近づいてくる生き物の方へ歩き出す。
『あのデカブツに追われてるんだろ?助けてやろうか?』
スーツの男はニヤニヤしながら剣を構えた。