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とあるアムネジアの日記  作者: 山本
第一章 御山編
4/16

4話 アムネジアだけど練習はできる


 あの後、気を取り直したオレは残り8つの小箱を取り出して開封した。

 全て『N』のマークが表示されており、中身は携帯食料やペットボトルの水、アメニティグッズや、折りたたみ傘とかの生活雑貨だった。今のオレには貴重品ばかりでとても有り難い。


 これでなー、見ただけで脂汗が出るようなモノを出さなければなッ、カッコイイ名前でも付けてやろうと思ったけど! しばらくは妖怪時計と呼ぶことにするぜっ!!


 ふーっ、ふぅっ……さ、さて、朝から色々な事が起こりすぎて不貞寝したくなったけど、目的に従って行動することにした。まずは方針の確認だな。



 第一に、山から下りて民家を探し、助けを求める。テレビで聞きかじった知識であるが、登山で山に入る前には万が一遭難した時に備えて計画書を出さなければならなかった筈だ。計画書から辿れば自分が何者か、助けを期待できる人が見つかるかもしれない。


 次にガソリンを購入し、山頂に戻って、この不法投棄っぽい軽トラックを動かせるようにして麓まで運ぶ! もしかしたら自分の持ち物じゃないかもしれないけど、それは知っているヒトに聞けばよいだろう。こんな不祥事、絶対に放っておけない。


 最後に、このよくわからない妖怪時計についての調査だ。意識的に脳の外に追いやっていたけど、こんなモノはオレの手に余る。全てが理不尽で理解不能、早いところ手放さないとオレの精神がもたない。

 冷静に振り返ってみると左手の切断を考えるとか、まともじゃない。


 ――よし、方針を確認したところで行動に移ろうか。

 必要と思われる物品は全てツナギのポケットやナップサック(N箱から出てきた)に入れてある。後は周囲を囲む岩場の隙間から出て下山するだけだ。この山の高さがどれくらいかは判らないが、歩き続ければ夕方までに着かないって事はないだろう。


 一応、鳥居の方に向かって一泊した事を詫びると、オレは下山を開始した。




 で、10分ほどで戻ってきた。


 ヤバイヤバイヤバぃぃいいいい!?

 ど、どこもかしこも濃厚な硫化水素の匂いが充満してやがる! あのまま下山を続けたら確実に中毒を起こして死んでいた。

 なんだこの山、活火山か? どうやってオレは山頂まで辿り着いたんだよ! 軽トラで登って来たんだとしても、あの硫化水素の濃度はエンジン内に入ったら即爆発するレベルだ。ヒトが硫化水素の匂いを検知する濃度は数ppmと言われているが、明らかにパーセント単位だった。なにせ見える範囲全てがペンキで黄色に着色されたようになっていたからな!


 道理で誰も、オレ以外の登山者が来ないワケだ……

 こんな山に登るヤツは自殺志願者か、退路を塞がれた犯罪者だけだろう。

 いや、鳥居や社があるんだから神職のヒトも登ってくるだろうけどさ、硫化水素が薄くなるタイミングを知らないと確実に死ぬ。そして、オレはそのタイミングを全く知らない。


 アレだな、その神職のヒトが登ってくるまでは此処でキャンプをするしかない。所持品にやたらとサバイバルグッズがあったのはこれを見越してのことか。こんな処にやって来た、記憶をなくす前のオレにどんな事情があるのか……記憶を取り戻すのが怖くなってきたぜ。



---



 暫くはこの山頂で長期キャンプするのを余儀なくされたオレは、その準備を進めていた。とは言っても昨日のキャンプ準備から特別増やすことはそんなにない。


 食料は今朝にガチャで出た携帯食料カロリーゼリーがそれなりの数がある。必要最低限の水分と栄養素はこれで補給できる筈だ。飽きが怖いけど、これが朝のガチャで出なかったら数日後には餓死していたかもしれないから贅沢は言えない。

 体を清潔に保つには出てきたアメニティグッズがあるし、水は近くにある池の水を、これまたガチャから出てきたカセットコンロと鍋で煮沸すれば使えるだろう。

 寝床は軽トラの運転席は確定なので、ガチャ品の梱包材であるダンボールを使って段差を埋め、なんとか体を伸ばせるようにした。平均身長に届かない我が身にこれほど感謝したことは無いだろう。


 これくらいかな、後は……トイレと決めた場所にダンボールを使って衝立を作るくらいだろうか?

 あ、おい、それはお前達の巣の材料じゃないんだぞっ、返せ! って、うわ、集団でなんて卑怯だぞ!? あイタ、いたた、くそっ、わかった、わかったから嘴で突くのは止めてくれ!

 ……先輩には逆らえないモノだな。オレ以外は誰もいないし衝立は諦めよう。



 さて、これで最低限の生活が出来る環境は整った。次は……戦闘訓練でもするか。


 意識的に頭の外に追いやっていたけど、この妖怪時計が殺意を持ったクリーチャーを呼び寄せた事は確かだ。どんな原理で召喚しているのか、呼び寄せたアレが何なのかは分らない。ただ、あの醜悪なクリーチャー……腕時計にはモンスターと表示されていたか? あれを確実に倒す術が必要だ。でないとオレが殺される。


 昨日はとっさにシャベルを使ってなんとかなったけど、理想は近付かれる前に先制攻撃をかまして制圧する、だな。相手はヒトじゃなく言わば害獣だ。卑怯とかそんな次元で語る存在じゃない。そうなると、アレを使うべきか……しばらく此処には誰も来ないだろうし試してみるか。


 オレはうろんな視線を軽トラックの荷台に向けた。



 取りあえず一発だけ撃ってみた。

 それが何かはここで言わない。犯罪者になりたくないからね、うん。でもって結果から言うと封印することにした。

 いや、先制攻撃をかますのに凄く有効な手段であるのは判っている。けどね、やっぱり持っているだけで犯罪になるようなモノは要らないよ! ――おっと、分解しておけば犯罪にはならなかったかな? だからボクは犯罪者じゃないよ、ハハハ……ハァ。


 ――真面目な話、不採用にした理由の1つとして、音が凄まじい事が上げられる。耳栓がないとマジで鼓膜が破れる。テレビで聞いた音の数十倍はあるんじゃなかろうか?

 白カラスの群れを驚かせたようで、じっと抗議の目で睨まれたのは凄く怖かった。

 あと、飛んでいくモノが小さすぎて狙い通りに飛んでいったか判らない。数をこなせば感覚を掴めるんだろうけど、それまでに備品が無くなるし、鼓膜もご臨終になるだろう。

 よって、サイレンサーと照準器、予備品が手に入るまで封印ということでヨロシク。一生手に入れる機会はないと思うけどな!



 こうなると選択肢は一つだ。昨日も心強い味方だったシャベルが相棒になる。

 オレの頭にある知識(記憶ではない)によると軍隊で普通に武器として使っているみたいだ。塹壕を掘ったり、野外で排泄物を埋めたりするのが主な使い方のようだけど…………確かにコレ、武器だわ。

 刺すのが土か生き物かの違いで、大抵の生き物は地面より柔らかい。しかもオレが手にしているのは先が三角形に尖ったいわゆる剣先型で槍っぽい。使い方によっては骨とかも切断出来るのでは無いだろうか?


 とにかくコレを自在に使えるように練習しよう。

 いつ妖怪時計がモンスターを呼び出すか判らないから、それまでに出来る事をやらないと死ぬ。まずは敵を想定して突いたり、払ったりを、1万回くらいを目標にやってみよう。ズブの素人でも1日それくらい素振りしていればサマになるんじゃないかな?




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