好敵手現る
いつも通り登校する。だがここで1つ変わったことがあった。案外展開は早かったようで、陽成と紺野さんが付き合うことになったらしいのだ。どうやら、俺と御幸が前、夜の広場で話していたあの夜に、陽成が紺野さんの家を突撃して電撃婚ならぬ、電撃カップルになったのだ。俺はそれに対して喜んで良いのか、焦るべきなのか正直半々の気持ちだった。
「蓮~!今日学食一緒に食べようぜ」
「ああ。紺野さんとじゃなくて良いのか?」
「藍月とは夜一緒に食べることになってるんだ。だから、昼は蓮と積もる話をさせてもらおうじゃないか!」
「聞かせてもらおうじゃん」
「それに、藍月は御幸ちゃんと2人で食べるみたいだしね」
「そうなんだ」
俺たちが2人のところに入ったときから元々仲が良かった2人だ。何ら不思議じゃない。だが、なんとなく、紺野さんがこちらを見てにやけているような。
「陽成、紺野さんに何か喋ったか?」
「ん?何も?」
ケロッとしてて逆に怪しさが増す。俺が御幸のことが好きだと言うことは、陽成しか知らないし、むしろ他の人が知っていたら、態度を改めなければならない。
俺たちはカフェテラスで牛丼と豚丼を食べていた。しばらくもぐもぐ食べていると陽成がしゃべり出した。
「にしても、俺意外かも」
「何が?」
「藍月さ、もっと冷たく突き放してくるのかと思ってたんだけどさ、俺が告ったら10秒くらい悩んですぐいいよって言ってくれたんだよ。もちろん俺嬉しくて抱きしめちゃったんだけど、しばらく脳みその中白紙だったんだよ」
「陽成の頭が白紙になるなんて、紺野さんは凄い力持ってるね。御幸もどちらかと言えばクールな性格だし、俺は陽成と違って突き放されるかも」
「そりゃねえさ。俺見てて分かるもん。どこか心繋がってる感じ。お互い、俺みたいなアピールはせずとも、どこかわかり合ってる感あるし」
「えぇ、そんな感じある?俺むしろいつも不安なんだけど」
「ある。きっと御幸ちゃんも頭のどこかに蓮がいるんだよ」
「陽成は人を励ますのが上手だな」
「おい!励ましじゃないぞ!」
2人でケラケラ笑って、丼を片付けた後、教室に戻ろうと、階段を下っていた。すると、誰かと誰かが告白する場面に遭遇しそうになり、急いで影に隠れてしまった。陽成が顔を出してその2人の顔を見た。
「御幸ちゃんと山都じゃん」
「え」
鳴瀬山都。空手部の部長で俺たちの1個上の先輩だ。成績優秀、スポーツ万能と、まさに文武両道を極めた優秀生徒の1人だ。当然学校の女子からはモテてており、日々、何人もの女子から告白されるらしい。そんな人が御幸に今告白している最中だ。本当なら止めさせて今すぐ攫いたい。だが、そんなことをしては人として最低な人だ。成り行きを見守ることだけさせてほしい。
「蓮、良いのかよ」
「良い。どうなるか知りたい。これで終わるなら終わってしまえば良い」
もう投げやりの気持ちだった。正直言って、山都先輩に勝てるほどの恋愛力は持ち合せていないし、先輩ほどの文武両道でもない。勝てるところなど、恐らく一つも無いだろう。そんな人と御幸が付き合うなら、俺は黙って恋を終わらせる。
「ごめんなさい。今はそういうのいいので」
「俺では駄目か?」
「そういうわけじゃないんですけど、」
「もし、御幸さんの事情なら、待たせてください。俺は本気です」
あんなまっすぐな瞳で訴えかけられたら、誰しも落ちてしまうだろう。今の山都先輩の姿は、まるで純愛の代名詞だ。
「待たないでください。私にもいるんです。まだ好きかはわからないけれど、まっすぐで放っておけない人が。私じゃ貴方の気持ちに添うことは出来ません」
「・・・・・・分かった。すまない、心を惑わせてしまって。忘れてくれ」
「ごめんなさい」
俺は驚きすぎて口をあんぐり開けたまま、間抜けな姿で固まっていた。山都先輩の告白を断る強者が、俺が惚れた人だと?山都先輩で叶わぬのなら、他に誰がいるのだろう。それでも俺は、絶対に思いをぶつける。県大会が終わったらすぐに。お母さんにまた大会終わりに旅館に連れて行ってもらおう。
「蓮行くぞ。ここじゃ不審者だ」
「あ、ああ」
急いで階段を駆け下って教室に滑り込みする。授業開始の1分前で何とか間に合ったようだ。御幸の席をチラッと見ると、何もなかったような真顔になっていた。
ん?真顔。何もなかったと捉えているんじゃないんだ。御幸はああ見えて、意外と思ったことは口にするし、表情だってバリエーションがない中でも、思っていることはすっと伝わってくるほど、地味に出ている。今の表情は、完全に「無」だ。きっとあえてそうしているのだろう。衝撃だったはずだ、あんな先輩に告白されるなんて。
ところで、「放っておけない人」って誰のことだ?御幸が今まで俺たち以外の男と関わっているところを見たことがない。だが、旅館で仕事を質得る時に出会った可能性も捨てきれない。必ずしも俺たちが御幸のすべてを見ているわけじゃないんだ。それは重々念頭に置いておかなければならない。
「蓮、一緒に帰るか?」
「良いよ。トレーニングあるし」
陽成は俺のことを心配してくれているのだろう。それはとても有り難く嬉しいことだが、たった1つのことに心を惑わされては、真面な練習はできない。今は稽古ができないものの、その代わりとなるようなことをやっている。そこで、少しでも周りとの遅れを取り戻すんだ。
「紅宮君、脚大丈夫?」
そういえば、あの夜からまだ会っていなかった。
「うん。最初よりかはだいぶ良いよ。父さんにトレーニングで扱かれてるんだ。だから、少しは身体を強化できてるはず。前は夜迷惑掛けてごめん」
「迷惑じゃないし、それはもういいよ。じゃあまたね」
「ああ、じゃあな」
御幸の方から声を掛けてくるなんて、何て珍しいことが起きるのだろうか。今は、あの告白場面を見た後だからなるべく顔を合わせたくなかったんだが。
「紅宮蓮君かな?ちょっと来てくれる?」
「山都先輩」
ギクッ。なぜ俺が呼び出される。もしかして、昼休みの光景を見ていたことがバレていたのか?だとしたら、山都先輩にちゃんと謝らなくちゃいけない。
「なんですか?」
「君は彼女とどういう関係なんだ?」
唐突すぎて頭にヒヨコが飛んでいた。「彼女」って御幸のことか?願わくば、彼氏と名乗りたいところだが、今はまだ早い。俺たちはただの友達だ。いや、下手すれば友達ですらいないかもしれない。顔見知りとか、陽成と紺野さんの間柄の脇役という立場だろうか。
「知り合いです」
友達と堂々と言うのは、おこがましく思えて出来なかった。
「そうか。君のことか。紅宮蓮君、俺は御幸さんのことを諦めたつもりはない。これからも色々な場面で一緒に時を過ごすようになるはずだ。もし、君が彼女に対して気が無いなら、早急にそばから離れてもらえないか?」
「『気が無い』わけではないので、それはお断りします」
「そうか。ならば君は僕の好敵手ということか。もし、僕が無事御幸さんをものにできたら、君は関わらないでくれ。そして、君が出来た場合も然り」
「御幸はものではありません。それに、わざわざ関わらせないのは、よっぽど自分に自信が無いからですよね。俺は自信あります。ですから、俺の場合は別に関わって頂いて結構ですよ」
「ふっ、面白いこと言うじゃないか。良いだろう。ではそういうことで失敬するよ」
爽やかな風を吹かせていそうな雰囲気を纏っていたが、俺は山都先輩がナルシストにしか見えなかった。せっかく、俺が数少なく憧れている先輩だ。そういったところは知りたくなかった。




