いざ、山頂へ!
のびのびと朝の澄んだ空気を吸いながら、俺たちは仲良く登っていた。御幸たちは俺たちの前を歩き、その後ろをついていった。
「そういえば、風景写真も撮っていいんだよね」
「そうみたいだよ」
「蓮って確か写真コンテストで銀賞取ってたよな?」
「そうなの!?じゃあここを1枚撮ってくれない?」
「陽成、それ何年前の話だい?今はもう剣道ばかりの日々だったから、もう上手く撮れないかもしれないよ」
「ものは試しって言うじゃない」
陽成の一言から始まり、紺野さん、御幸と大きな波が襲ってきた。断るわけにもいかず、俺はカメラを構えた。
実は昔、興味本位でおじいちゃんのお古を使っていた時期があった。その時はただがむしゃらに興味のあるものを撮っていた。
ある日、お母さんが「コンテストに出してみれば?」と言ったから、勢いでやってみたのだ。すると大成功を収め、銀賞に食らいつく事が出来た。
だが、それ以来写真に満足してしまって、剣道にのめり込んだのだ。
風のせせらぎを耳で感じながら、この場の雰囲気に最大限のまれる。すると、撮りたいものがぽっと浮かび上がってくる。
『山』だ。当たり前かもしれない。だが、標高が高いここだからこそ、魅せることのできる技もあるのだ。
「どう?」
「……!?」
「蓮すっげえじゃん!俺、写真に関してはド素人だけどよ、感じるものはあるぞ!ここにな!」
「無理に名言っぽくしないで。でも、本当に素敵な1枚」
紺野さんからの鋭いツッコミを食らった陽成はシュンとなってしまった。だが、久しぶりに撮ってそういうことを言われたら嬉しくなる。だが、まだ御幸からの感想は貰っていない。一体彼女は何を考えているのだろうかと、カメラを握る御幸をみてみる。
「…………」
目が釘を打たれたかのように、強く、ストレートに画面に刺さっていた。俺は少しでも御幸の興味を引くことが出来ただろうか。
「どう、かな?」
「綺麗」
彼女の口から発せられたのは、その一言だった。だが、俺にはずっしりとした気持ちが伝わってきた。棒読みの、お世辞の綺麗ではなく、心からそう思ってくれているのが、こちらにまで伝わってくる一言は、どんな長文よりも嬉しくなる。
それから、てくてくとまた歩み進める。ほぼ変わらぬ風景だが、徐々に見る景色が高くなっていくのは、また一つの魅力だ。また、御幸に何かあった時にそばにいられるのも、俺の中の魅力だ。
「ここら辺で少し休憩しよ」
「そうだね」
「蓮!あっちの崖凄そうだぞ!見ようぜ!」
「おう」
「ちょっ、危ないことしないでよ!」
紺野さんは必死になって言うけれど、陽成の耳には届いていなかったみたいだ。俺たちは坂の上に駆け上がると、そこに広がる景色を一望する。すぐ足下には鬱蒼と茂った森があり、もう少し向こうの方になったら、市街地だろうか。統一感のある建物がたくさん並んでいて、眺めていて飽きなかった。
「俺たち本当に上に来たんだな」
「だな。こう見ると実感する」
「地図見る限り後もう少しだから、頑張ろう」
「ああ。それよりよ、御幸ちゃんとはどうなんよ?良い感じ?」
「なっ、!今ここで話すべき事じゃないだろう」
「今しかないだろ~?後はずっと4人一緒なんだから男同士で語り合うなんてことが出来るのも、風呂の中かここだけだ」
「俺はまだアタック出来てないからさ。剣道の大会とか諸々が終わってから、本気でぶつかろうと思う」
「そうか~。俺楽しみかも。蓮が恋愛するのなんて、幼稚園以来経ったじゃないか。それも先生に」
陽成に言われて思い出した。幼稚園の頃、当時人見知りだった俺に優しい笑顔で話しかけてくれて、その後もずっと面倒をみてくれた、俺の第二の母親のような存在だった。だがそれも、先生が結婚報告をしたときで終わったけどな。
「俺、蓮がそのつもりなら、お前らより先にカップル成立するかも」
「あ~。今でももう凄いアタックしてるもんな。紺野さんもだんだん慣れてきたみたいだし、あり得るな」
「だろ?可能性は捨てるべきじゃないぜ。だから、俺は根気よく健気に藍月のそばにいるんだ。今までの女子と違って、周りに流されない強い心を持ってる子だからさ、すっごい興味湧くし、飽きないんだよね。多分この先も藍月のことは嫌いにならないし、むしろどんどん好きになっていく気がするんだ」
陽成は俺に熱弁する。確かに2人は何だかんだ言ってお似合いだと思う。俺は2人を応援するが、俺も頑張らなくてはいけないな。
しばらく休憩した後、また歩き始めた。陽成は心做しかウキウキしているように見える。
「あと300mで着くって!」
「あと少しか。陽成、走る?」
「良いねぇ〜!体力づくりは大賛成だぞっ」
「ちょ、またはぐれるよ?」
「ん、それもそうか。なら、一緒に走らないか?」
「はぁ~?」
間違えた。何か誘ってみたかったから、咄嗟に言ってしまったが、明らかに走りたくなさそうな顔をしていた。
「やっぱやめよう」
「やってみる?」
「え?」
「確かに~。折角山に来たんだし、はしゃぎたいかも」
「なら藍月にペース合わせる!」
中々の攻撃ぶりじゃないか、陽成のやつ。
「紅宮君は私に合わせてくれるの?」
「もちろん」
グサッ。まさか御幸からそんな言葉をくれるなんて思ってなかった。元々そのつもりでいたものの、答える時に少し緊張した。
「んじゃ、行くとしますか!」
ここの4人は全員足が速いので、最初の100mは余裕だった。だが、急斜面だということもあり、御幸たちの体力は尽きた。陽成はまだまだ元気な様子でとっとと行ってしまうが、俺は御幸と一緒に登るために走るのをやめた。後から陽成も後ろに俺たちがいることに気づいたのか、ダッシュで戻ってきた。
「藍月!」
「置いていった人のことはもう知りません」
「ごめんよ」
また陽成はシュンとした。もうずっとシュンとして落ち着いていて欲しい。紺野さんは本気で言ったわけではなく、すぐケロッとしているが陽成はずっと落ち込んでいた。
口約束を破ったのだ。信頼を失ったとでも思っているのだろう。俺が紺野さんを見る限り、それはなさそうなんだけど、ここはあえて黙っておこう。
「水飲む?」
「大丈夫。……飲む」
「うし、はいよ」
「ありがとう」
つんつんしながらも、最終的に甘えてきてくれるのはとても心地が良い。
「そういえば、紅宮君もう脚治ったの?」
「ああ。今テーピングで固定してるんだ。だから大丈夫」
「それ本当には治ってないんじゃない?山頂着いたら脚診せて」
「本当に大丈夫」
好きな人に、汗を掻いてクサいであろう脚をみせるほど、廃れた男ではない。ここは断固としてみせない方が懸命だろう。
「…………。大丈夫なら良いんだけど、無理はしないでよ」
疑り深い目を向けられた。失望させてしまっただろうか。この様子だと嘘がバレている。さっき走ったことでまた脚を悪化させてしまっていた。でも、足を引きずるほどの痛みでもないから、本当に大したことないのだ。
「あっ!あそこじゃね!?」
「本当だ」
「御幸、すぐそこだ!」
御幸は何も言わなかったが、目が素直に歓喜を表していた。本当に食べ物が好きなんだな。
「よし、たっぷり食べよう」
「おう!」
俺たちは山頂に着くなり、バッグから財布を取り出し、上着のチャックは外し、食べる気満々で早速お店に行った。そこには、大きな鯛焼きとメロンソーダ、チョコパフェなど色んなバリエーションの食べ物があった。俺はモンブランジェラートを頼んだ。陽成はメガイチゴパフェ。紺野さんはブルーベリーアイス。御幸は大きな大判焼きにミルクスムージー、秋の紅葉アイスクリームを頼んでいた。
「綾は昔からほんっとうに食いしん坊だね」
「だって、美味しいんだもん」
「紅宮君におねだりしてみたら?案外色々買ってくれるかもよ?」
「そんなおこがましいことはしないって決めてるの」
「私にはよくねだってくるのに、他の人には随分律儀なこと。いつかボロ出るよ」
「ちょっ、!藍月!」
「へへーんだ」
食いしん坊のじゃれ合いは、こんなにも微笑ましいのか。この思いは陽成も同じだったようで、穏やかな眼差しで2人を見ていた。俺は共感の意を込めて陽成の隣に座って一緒に見つめていた。
後に、2人一緒に「何じろじろ見てんのよ。気持ち悪い」と言われてしまったが。
この後も食べまくって、お腹がはち切れそうになった時に初めて集合場所に戻って、みんなと一緒に下山した。




