救出
無事に宿に着いたものの、俺たちは陽成達のことで不安が募りすぎて、ご飯を食べている間も終始無言だった。黙っていたというよりは、互いに考え事をしていたから、喋る暇がなかったようなものだ。
「御幸。今日はしっかり休んでくれ。頼む。あと明日は俺たちの班は無理に活動しなくてもいいらしい」
「わかった」
いつもは二言で返って来る返事が一言だ。それに、顔色を見てると、あまり良さそうに見えない。
「さっき俺が足挫いたせいで面倒かけてすまなかった。紺野さんたちのこと、後は任せてくれ。できる限りことはやってみる」
「何するつもりなの」
「大したことはできないが、最善を尽くす。御幸はしっかり休養を取ってくれ。顔色があまり良くない」
「待って。今からはもう外出禁止なのはわかってる?」
「ああ。だが、俺だって友達放って寝られないさ。だから、こればっかりは見逃してほしい。頼む」
そう言うと、御幸の返事を待たずに食堂を後にした。部屋に戻ると、周りの男子たちが事情を聞こうと俺のもとへ寄ってくるが、今はそれどころじゃなかったから、うまく交して必要な物を全て揃えた。
テーピングを友達のツテで貰って、足首をしっかり固定する。山の中は特に足元が不安定だからこそ、同じ二の舞いはしない。
「先生に俺の居場所聞かれたら適当に誤魔化しておいてほしい。これから少し出かけてくる」
「わかったけど、夜は危ないんじゃないか?」
「仕方がないんだ。見逃してくれ」
「本当に堅物主将は友達思いでいい奴だな!俺感動だわ。マジで気をつけてな」
「おう」
そうして、扉を背中に山の奥へと入っていった。まずは山道の脇道のところを中心に探した。転落でもしていたら、一刻を争うことになる。
下の方をライトで照らし、木々の後ろを隈なく探してみるも、一向に2人の気配はなかった。これ以上静かに探すのはもう無理だ。
叫ぼう。
「陽成〜〜〜!紺野さ〜〜〜ん!!」
「誰だ!」
まずい。先生に見つかる。俺は咄嗟に茂みに隠れた。すると、偶然奥の方になにか洞窟のような場所があることに気付いた。
急いでそこへ駆け寄ると、肩を寄せ合って仲睦まじく眠っている2人の姿があった。俺は2人が無事だったということに安堵して、足の力がすっかり抜けてしまった。
だが、全身を奮い立たせて立ち上がると、陽成のもとへ行って起こした。
「おはよう!」
「へ?おお、蓮〜!会えないと思ってたぞ!」
「紺野さんも起きれる?」
「…紅宮君?」
「良かった。水持ってきてるから早く飲むといい」
「ありがとな。俺たちここで野垂れ死ぬ加藤待ってたよ」
「すぐそこに宿があるんだぞ」
「そうだったのか!藍月良かった!」
「全く」
「すまなかった。置いていってしまったばかりに、こんなことになってしまって」
「大丈夫!俺たち協力してたから仲良くなれたんだ」
「別に仲良くなったつもりはないけれど」
相変わらず意見は食い違うも、どこか紺野さんの中に温かみができたような、そんな感じがした。
宿に戻ると、御幸が勢いよく飛んできた。心配の目と歓喜の目と、彼女の目は目まぐるしく変化していた。
「ただいま」
「勝手に出ていかないで」
「ごめん。2人はすぐそばにいたんだ」
「藍月、良かった」
「心配掛けたね」
「ごめんね」
御幸と紺野さんは互いに謝り合い、ホールのソファで寛いでいた。一方、俺たちは熱い抱擁を交わした。ほぼ、一方的だったが。
「俺ら方向音痴でさ、どっちき宿あるかも何もわからなくて。俺が藍月のことしか見てなかったのが悪かったんだよな」
「紺野さんだけを見てたのは、なにかよくない気がするけど、置いていってしまったのは俺のせいだ。本当に悪かった」
「いいさいいさ!さっ、ご飯食べたいんだけど、食堂どこか知ってるか?」
「もうご飯は片付けられた気がする」
「おいおいまじかよ!俺ら飲まず食わずでクッタクタだぜ!」
2人で食堂をチェックしに行ったが、食堂のご飯はもう片付けられていた。結局、その後先生が食料を分けてくれたらしい。
一旦、感動の再会が終わると、俺たちは部屋に戻った。
風呂などもまだ済ませていなかったので、順番に入っていった。先に陽成と紺野さんがそれぞれの湯に入って行き、俺と御幸は部屋で2人きりになってしまった。
別に何かしようってわけじゃない。
俺は二段ベッドの下段に寝転がってゴロゴロしていた。すると、横からひょこっと顔を覗かせる御幸がいた。いつもより顔と顔の距離が短かったから、余計心臓がドキドキした。
「紅宮君、ありがとう」
「どういたしまして。って言いたいけど、俺のためでもあったから」
「紅宮君が行ってくれなかったら、まだ見つかってなかったかもしれない。結果無事だったから良かったけど、遅れてたらって考えると背中がゾクゾクする」
本当に御幸の表情は怖がっていた。余程心配だったんだ。少しでも心の安らぎをあげれたのなら良かった。
「それと、紅宮君も無事でいてくれてありがと」
「俺は簡単に死なないさ。それに、お望みとあらば、いつでも御幸の傍にいるよ」
「え?」
「本気だよ」
タイミングを間違えた。絶対に今ではなかった。俺はただ、今しか言う機会がないと思って口にしてしまったが、御幸からしたら唐突の好意だ。驚いて引いても仕方ない。
「…………」
「さっ、もうそろそろ陽成が上がって来ると思うから行くわ。竹刀あったら素振りでもしてるんだけど、ただ部屋の中にいるのって暇だよな」
さっきの出来事から気を逸らそうと、普段より饒舌になってしまった。御幸は未だ、少し瞳孔が開いていた。俺は部屋を後にして、男湯へと向かっていった。
「おっはよう〜!」
「ほんといつでも元気だな陽成」
「おはよう」
「…………」
朝はあっという間にきた。御幸はぐっすり寝ていた。現在時刻は6時半。少し寝坊くらいの時間だ。にも関わらず、昨日俺たちより疲れたであろう紺野さんより遅い。
「御幸〜。起きてくれ。もうそろそろご飯だぞ」
「!?」
ベッドから飛び出したこの瞬間を俺は一生忘れないだろう。「ご飯」と聞いた瞬間から、御幸の脳内はホカホカご飯になっていた。
「今着替えてくる」
「いってらっしゃい」
俺たちもそれぞれ着替えに行った。山登りではやはり長袖のものというのが大事になってくる。今の時期は秋に近いから夏ほど虫はいないものの、ムカデに来られたら堪らない。
「よし。準備出来た?」
「「「うん!」」」
2日目は山頂に着く予定だ。そこには美味しい食べ物がたくさんあるとHPに書いてあったので、即決定した場所だ。御幸の目はキラキラ輝いていた。
昨日の出来事があってから、男女だと相手に夢中になってしまうということで、男男女女と分かれて歩くことになった。
御幸たちはその事情を知らないため、頭の上に?マークが浮かんでいたが、口が裂けても理由は言えなかった。