御幸サイド
初めて事故に遭った。いや、事件か。コンビニ強盗に遭遇することなんて一生来ないと思ってたけど、高校生で経験とは。
紅宮君は正義感が人一倍強いと思う。間違っていることがあるとすれば、紅宮君は否応なしに突っ込んでいく。そんな真っ直ぐなところに惹かれたのかもね。初めて人から本気の告白を受けた。私は自分が優れた容姿を持っていることを自覚している。かといって、それを利用するのは嫌だった。容姿端麗だからすべて完璧などというレッテルを貼られたくない。誰でもするような手助けで自分を持ち上げられたりするのは以ての外。
高校に入ってから、顔目的で近づいてくる人を寄せ付けないために、私は交友関係を狭めた。中でも私の幼なじみで親友の藍月とは、同じクラスになってからずっと一緒にいる。あまりにも一緒なので時々、藍月には申し訳ないと思ってしまう。でも藍月は「綾と一緒なら何でも良い」と言ってくれるからまた嬉しい。
あまりにも藍月と仲が良いので、私が旅館で女将をしていることは藍月だけが知っている。そのはずだった。自分で言うのもなんだが、家が経営している旅館『幸』は、それなりに格式高い旅館なため、自分の知っている人が来ることは、これまでなかった。
でも、突然その日は来た。私がお客様たちをお迎えしている時に、胴着を着た男性が入ってきた。中々和服でいらっしゃるお客様はいないため目を見張ると、それと同時に顔も見張ってしまった。
同じクラスで口数が少ないにもかかわらず、存在感を放つあの紅宮蓮。私は彼を知ってる。というか、誰でも知っている。剣道でアジアの王座を取ってきた時は、本当にびっくりした。それだけ凄い人が、目の前にいる。立っている姿も姿勢が良いからか凜々しく、高身長である程度がたいがいいからこその堂々とした感じに呆気にとられてしまいかけた。いけない、お客様がどのような人でも、表情を変えることなく、過ごしやすいようにしなければならないんだから。裏にある感情を必死に表の表情に出さないよう必死に努めた。
「いらっしゃいませ。紅宮様でしょうか?」
「はい、そうです~」
隣にいらした紅宮君のお母様がほんわりとした様子で返事をしてくださったおかげで、少しは気が元に戻った。今私はおもてなしをする側の人。笑顔を絶やさずに!向こうも絶対に私のことに気付いている。瞳孔が開いていたもの。そして、紅宮君の隣にいたのは陽成君。社交的な性格で、色んな人に声をかけられる天性の持ち主だと思う。紅宮君と同じく驚いていた様子。
その後、お茶をお出しした時、お母様と紅宮君と陽成君が和気藹々としている姿が垣間見られて、ふと虚しくなったんだよね。私の家はみんな忙しいから中々そういうお出かけとかをすることができずにいたから。こうして、どこかちょっぴり遠い所にみんなと行くっていう経験を積んでこなかったからこそ、急に寂しくなったのかも。庭に出て中央にある池の畔で屈んですいすい泳いでいる鯉を眺めていたらあっという間に時間が過ぎていた。
しばらく経った後、別のお客様にタオル補充で呼び出されたため、廊下をなるべく急いでスタスタ歩いていると曲がり角で人にぶつかる心配をしなかった私が悪かったのだけど、風呂上がりの紅宮君とぶつかっちゃってすっごく焦った。
風呂上がりの紅宮君は、艶っぽかった。それに、ぶつかったときに感じた堅い筋肉は、普段の頑張りが見事、形になっていたと今では思う。少しでも長く考えてしまうと、一気に旅館の者としての自覚が消えて、顔が赤くなってしまいそうだったから、本当に赤の他人のように接してしまった。許してください。
初めて旅館でプライベートとして出会った時、私は初めて男性にも誠実な人はいるだと思った。もちろん、心の奥底は腹黒なのかもしれないけど、態度や瞳から伝わってくるのは、私のことを1人の人として見てくれていることだった。
と考えると、第一印象は好印象だったのだ。でも、次の日の学校で紅宮君がこちらのことをチラチラ見てくる事に気付いた時は、やっぱり顔なのだろうかとがっかりしてしまった。いつでも真顔だったから真意のほどはわからなかったけどね。
だから、ちょっぴりどんな人なのか気になって、美術の時間に声を掛けてみることにした。
「土曜日、旅館に来てくれてありがとう」
きっと紅宮君は旅館の時の話題をして良いのか迷っていたのかな。私から旅館のことについて話すと、少しほっとしたような顔を浮かべた。そのまま話していると大会終わりに来てくれたみたい。それを聞いて、服装についても、片手に持っていた竹刀にも納得がいった。
話が盛り上がって、庭で垣間見えた竹刀による演舞のことも「綺麗だった」と感想を言うと、誰にも見られていないと思っていたようで、「そこまで見られていたか」と言ってたのが少し面白かった。
そんなこんながきっかけで、徐々に関わるようになっていったあとは、何だかんだ楽しかった。初めは紅宮君への警戒心は中々解けなかった。でも、接していく中で、色んなことが分かって、知れば知るほど気になっていったのは間違いない。
でも、まさか告白されるとは思ってもいなかったから、あの時は本当に驚いた。もちろん良い意味でね。2度目に紅宮君が旅館を訪ねに来た時は、変に心臓がどきどきした。もしかすると、このときから予感してたのかもね。
硬い言葉で一生懸命告白しに来てくれた時は、正直初めの方では、断る気満々だった。すぐに恋に発展してもすぐ終わるだけだしね。でも、どんどん言われたい言葉を言って、顔も真っ赤になっていくんだもん。もう止められなかった。「はい」以外の返事は考えられなくなってた。
そして本当にコンビニの事件の時に店員さんを守ってた。きっと、男の人が他の人を傷つけないようにとか、そんなことまで考えていたんだろね。最終的に私が男の人の方へ行って怪我したけど、その後の対応も正義感溢れる紅宮君らしくて、少しほっとして眠りそうになった。そのときもずっと声をかけ続けてくれて嬉しかった。
お陰で助かったから、有言実行してくれたんだな~ッと思って、心の中でほっこりした。
けど、その後まさか支配人になろうとしていたなんて。お父さんの口車にのせられたんだろうけど、私は別に支配人になってほしいわけじゃないし、私が女将になるからといって、紅宮君までが旅館に携わる必要なんて全くもってない気がする。でも、紅宮君自身でなりたいと言ってくれたから、なってくれるならそれはそれで嬉しいと思って、少し未来にワクワクしてる。
そして今、学校で突然私のもとへ来たかと思えば、イブの予定を確認してきた。私は紅宮君の前ではなるべくクールになっている。ちょっと恥ずかしいじゃん?だから甘々になるのは抵抗感がある。だって、どっちみち私、顔に全部出ちゃうもの。それを紅宮君は理解しているのか、無理に言葉にさせようとしてこない。それは嬉しいかも。口にするのは大事なことだけど、まだ私には難しいことだから。
「御幸ってイブに何か予定ある?」
「ないよ」
「一緒に出掛けよ」
「うん」
「よっしゃ」
私に合わせて紅宮君も、あまりハイテンションでは来ない。でもいつでも奥の方に隠れてる想いが見え隠れするから、不安になることはない。しっかし、藍月がさっきからずっとこっちを見てにやついてんのが、ちょっと、ねぇ?
藍月もイブに陽成君と予定があったようで、一緒に買い物に行くことになった。もちろん、イブの準備。私だって紅宮君とのお出かけに興味が無いわけないじゃない。デート?ならもちろんお洒落していきたいし、素敵な思い出にしたい。お洋服を見てから小物見て結局私たちが見たいもののところにばかり行っちゃったけど、必要なものはすべて買った。
因みに、洋服は白の少しもこもこしたワンピース。腰には茶色の細いベルトをして完璧。
一通り買い終わって、2人でご飯に行こうとした時に見てしまった。できれば今遭遇したくなかった人。そう、紅宮君たち。手には紙袋を提げていたから、きっと2人も買い物に来てたんだよね。ちょうど紅宮君のために買っていたから、勝手に照れて2人で身を隠した。つもり。
投稿する期間がだいぶ空いてしまいすみません!
代わりに今日は2話投稿させて頂きました!
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