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クリスマスへの準備

幾日か過ぎて、日常に戻った。御幸はいつも通り、旅館でお仕事をし、俺は剣道にどっぷり漬け込む。強くなることを決心してからは、剣道の練習で著しい成長を遂げた。まず、陽成に百戦百勝勝つようになった。師匠からは、刀に重みが出てきたと言われた。久々に成長の気持ちよさを痛感し、よりいっそう剣道にのめり込んだ日常を送るようになった。


一方で、バイトもしっかりやっている。剣道をがっつりやった後に、シャワーを浴びて汗を流してからバイト先へ向かい、接客をしたり、キッチン担当になったりして、日々稼いでいた。そして、先日お給料をもらった。俺にとっては初めてのことだ。中身は言えないが、中々良かった。


1つ変わったことは、週に3度、御幸の旅館へ行き、仕事内容を見学することだ。前に待合室で提案されたことを俺は忘れていない。御幸の父親の名前は香路さんだそうだ。御幸香路という名前だけで風格を感じられる。実際、旅館の中に入ると、香路さんは厳格な支配人と化す。少しのミスも許さず、完璧を求める人だ。ただし、だからといって仲居や女将(美陽さん)を叱ることはせず、全ては信頼の下で成り立っているように感じられた。


「良いかい?支配人になるためには、信頼と信用というものを大切にしていかなければならない。言動と行動が違えば、信憑性がなくなり、どちらかが嘘になる。支配人は、従業員にもお客様に対しても、嘘のない誠実な姿勢でいなければならない」

「はい」


それは、支配人の立場の人に限らず、万人に言えることだ。約束を破るなどもっての外。最初は支配人と剣道は全く違うものだと認識していたが、所々共通点はある。支配人になるのも考えてみるか。


「この旅館は代々継がれてきたとおっしゃっていましたけど、美陽さんと香路さんどちらのお家柄なんですか?」

「美陽さんだよ。僕は婿になったようなものだ。美陽さんと結婚するために、旅館も継ぐ必要があったのさ。だから、前支配人のもとで色々なノウハウを学んできた。今度は君の番だよ」

「そうだったんですね。なんか、やる気湧いてきました」

「頑張ってくれよ。僕も蓮君を貶めたいわけじゃないんだ」

「はい!」


俺はそのやる気のまま、庭に行き、竹刀を振るった。力が漲っているからとても良い太刀筋だった。いつの間にか、20分経過していて急いで香路さんのもとへと帰ろうとすると、御幸に会った。やはり、何度見ようと見慣れない着物姿だ。普段の制服姿の可愛さと打って変わって、着物を着た瞬間、大人びて同い年に見えなかった。

普通に声を掛けることもできたが、今は仕事中だと思って、会釈で済ませた。御幸も仕事モードに入ってるから会釈で返す。ただ、少し驚いたような雰囲気だった。


「戻りました」

「蓮君って本当に剣道凄いんだね」

「え、いやまだまだです。来週に全国を控えているというのに、この程度のもので満足してはとても優勝はできません」

「優勝候補なのかい!?」

「恐らく。昨年は優勝しました。そこで浮かれないように、父や師匠から重りをかせられて頑張りましたから、劣ってはいないはずです」

「そうだったのか。そんな将来有望なら、支配人の仕事に縛りたくないな」

「いえ。やらせてください。立派な長になってみせますから」


して、俺は2つを極めることになった。剣道は最近良い調子で進められているので、とてもいい。一方の支配人だが、厳しく香路さんに指導してもらい、着々と腕を上げていた。



ある日の学校で、みゆきに突然声をかけられた。それも少し困ったような表情で。一体何事かと思ったら、俺が近頃旅館に出入りしているわけを知りたいらしい。香路さんはまだ訳を話していなかったみたいだ。


「俺は御幸をこれから先もずっと大切にしていきたい。だからそのために必要な手順を踏んでるに過ぎないんだ」

「でも、旅館なんて継がなくたって良いんだよ」

「御幸は『幸』を受け継ぎたいか?俺はもしそう考えているなら、御幸のご両親がしてきたことを守るつもりだよ」


美由紀の表情は心配するような感じで、まだ困り眉になっていたが、それでも俺の中には強い覚悟があると悟ったのか、表情を和らげて言う。


「ありがとう。紅宮君が継いでくれるなら、きっと今よりもっと立派になってるね」

「ああ。そうしてみせるよ」


御幸と改めてちゃんと会話できたことで、より一層頑張る気が湧いてきた。そして、師匠からは古刀型竹刀を賜ることができた。筋力もついてきたことで、俺が持つことを認めてくれたんだろう。上級者向けの竹刀だからこそ、すっごく嬉しかった。



そして、御幸と俺は同じ時間に旅館に行く機会が増えたことで、2人で見られることが多くなった。そこで幾つかの噂が流れたりもしたが、特段否定することなくやり過ごした。むしろ、俺としてはその噂をもっと流して欲しいところだ。



多忙を極めた10月、11月がもうじき終わる。冷たく颯爽とした野分も吹いて本格的に秋を感じる。そして待ち受けるは12月。イコール、クリスマス。



「れ~ん!明日暇か?」

「ああ。何もないな」

「俺らでちょっくらショッピング行かねえか?」

「何しに?」

「そりゃもちろん、(小声で)クリスマスのサプライズだろうがよっ」

「いいね。行こう」

「そっちは何か企画してんのか?」

「イブにデートプラン立ててる。俺が勝手にだけど」

「うぉっ、蓮の浪漫の予報が出てるぞ!」

「シーっ!声がでかいぞ陽成」

「すまんすまん。ということで明日よろしくな!」


陽成も結構浪漫を持っている。きっと紺野さんのために、素敵なサプライズを予定しているはずだ。それに、紺野さんも要請のことを拒否しない性格だからこそ、最高のものになってくれるだろう。一方、俺のところは、イブのことは何も話していないから、一体どんな反応をされるのかが見当もつかない。

ただ一応、予定が空いてるかだけは確認しておくべきだな。俺は昼休みに御幸の席に行った。


「御幸ってイブに何か予定ある?」

「ないよ」

「一緒に出掛けよ」

「うん」

「よっしゃ」


この間、紺野さんが脇から少し微笑んでいるのが見えた。本当に仲良しなんだな。


「蓮良かったな」

「ああ。どんなプランにしようか迷ってるんだ。やっぱりイルミネーションは必須だよな」

「ああ。むしろそれが醍醐味だぞ」

「俺個人的にはサンタクロースが大好きなんだ。だから、サンタクロースにちなんだ何かをと考えている」

「良いじゃないの!」



次の日、学校が休みだったので、約束通り陽成と近くの大型ショッピングセンターに行った。まず初めにネックレスなどを売っている所へ行き、互いのペアに似合いそうなものを探している。陽成は『紺野藍月』という名前は紺色や藍色などの青系を思わせることから、青の宝石が入っているイヤリングを購入。

俺は、御幸のイメージは桜色や梅色の赤系だったので、爽快さを感じさせる桜色のネックレスを買った。誰かのための買い物は、これが初めてだったのでとてもうきうきした。陽成は過去にもたくさんの人にプレゼントしているからいつも通りなのだろうが、心なしか笑顔が弾けていた。


次は、服を見に行った。これは自分たちが着るようだ。当日は、少しお洒落して行きたいだろう?シンプルだけど良い感じに魅せる服を探す。陽成は紅色のカジュアルスーツに白のハイネックを購入。陽成らしいファッションだ。俺はグレーのハイネックに同じくシルバーの長方形がねじれた形のネックレスを身に纏うことにする。


これで、俺たちの準備は完了だ。昼になってご飯を食べようとテラスの方へ向かうと、見たことのある後ろ姿が2つあった。誰かを確認した瞬間、俺の心臓は弾けるかと思った。陽成も同じようで、口をぽかんと開けてフリーズしていた。もう言わなくても分かるだろう。そう、その彼女たちだ。


「蓮、これは声を掛けるべきか?」

「いや、見てないふりをしよう。きっと2人もそれを望んでいるはず」

「だな」


固唾を飲み込んで、何とかバレないように蕎麦を注文した。俺たちの頭の中には2人の姿が刻み込まれ、蕎麦は味がしなかった。


「このあとどうする?」

「買い物は済ませたことだし、道場行ってやるか?」

「そうだな。久々に手合わせと行こう」

「そうじゃん!最近蓮全然来ないから俺の相手いないんだぞ?」

「それはすまない。後輩は最近どう?」

「徐々に成長してきてるよ。太刀筋が良くなってる」

「良かった。明日朝練あったよな。それは行くよ」

「うっし」


紙袋を片手に1度俺たちは家に帰り、親に怪しまれた後、道場へ行った。


相変わらず俺が勝ったさ。でも、陽成も強くなっていたのは確かだった。

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