御幸、初めてのレフォン
約束してから間もなく、御幸がレフォンに来てくれることになった。2人が良かったのだが、俺はシフトが入っていたから紺野さんや陽成に来てもらうことに。悔しい気持ち反面、楽しみだった。もちろん、俺の料理を出すつもりだ。不味くても食べてもらいたい。(本当に不味かったら俺が食べる)
「いらっしゃいませ~」
「よっ。ったく、こうゆうのは2人で楽しめよ〜。まっ、俺たちも蓮の料理楽しみにしてたから良いんだけどさっ」
「ありがとな〜。ぜひ楽しんで。御幸来てくれてありがとう。不味かったらごめんね。それと後で一緒に散歩しよ」
「いいよ。楽しみにしてるね」
そうして全員にお冷を出すと、キッチンに戻り雅幸さんのもとへ行く。今日はオーナーの出勤日だ。
「あの子たちはお友達かい?」
「はい。友達と、彼女がいます」
「彼女!?コホン、失礼。それはそれは。誘ってみたのかい?」
「はい。そしたらオッケーもらえちゃったので」
「よかったね。では今日はとびきり美味しいご飯を作ろうか」
「はい!」
雅幸さんは早速エプロンを身に纏うと、準備を始めた。俺も今日は作るので、レフォンのエプロンを着る。何だかんだ言って、お店のものを着るのは初めてのことなので、ちょっぴり嬉しい。素材はジーンズで出来ていて、ローマ字でlefonと刺繍が入っている。
「つかぬことを聞くが、彼女さんの良いところを教えてくれないか?」
「いいですよ。彼女、御幸って苗字なんですけど、御幸はあんまり感情表現が得意な方ではないんです。でも、行動で示してくれたり、短い言葉でちゃんと伝えてくれるんだ。それがすごく嬉しくて」
「魅力的な人なんだね」
雅幸さんは優しく微笑むと、持ち場に戻っていった。微笑みを見れたからか、自然と俺も笑顔になった。
「すいませ~ん」
「ご注文お伺いします」
親しみを持って陽成に問う。
「エビ檸檬カルパッチョと、ウスターならぬウッスわかりやしターソース肉揚げ」
「と、冷麺冷具パスタにカシスオレンジジュース」
「からの、ここにいる店員さんのおすすめをお願いします」
なかなかいい締め持ってくるなぁ。にしても入って数日の俺におすすめ、か。それはやはりあれしかないな。
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ〜」
雅幸さんは相変わらず目尻が緩んでいた。ニタニタされるのも少し居心地が悪いなぁ。
「エビ檸檬カルパッチョマッチョと、ウスターならぬウッスわかりやしターソース唐揚げ、冷麺冷具パスタにカシスオレンジジュースと、俺のおすすめ入りました」
「なるほどね~」
「ていうか、ネーミングセンスすごいですね」
「気づいた?なんかね、他店のメニュー見た時に硬いなって思ってさ、注文しただけで笑っちゃうような名前だったら和むと思ってね」
「思いがあるんですね」
雅幸さんの視点は、俺たちと少しズレてると思う。俺にとってメニューの名前は、そう書いていたらありのままで認識していたから、特に思うこともなかった。雅幸さんは笑顔になってもらうことを意識して、名前に注目した結果、面白おかしいメニュー板が出来た。
「作り方教えてくれませんか?」
「ああもちろん。じゃあまずは材料がどこにあるかだね。基本的に材料はあそこの棚に全てあるから好きに取ってくれ」
「はい。好きにって、料理提供する場合のみですか?」
「まあそうだね。だけど、まかない用のためなら良いよ!」
「なるほど」
「料理がいっぺんに注文された時は、簡単なやつからやっていくんだ。慣れてきてマルチプレイができるようになれば、調理工程が大変な方から先に行ったほうが効率はいいよ」
「そうなれるのは何日後でしょうかね」
「初出勤の時からたくさんやってくれているから、だいぶ上達したんじゃないのかい?」
雅幸さんがそう言ってくれるから、少し嬉しくなってしまう。
全ては御幸と過ごす日にかかっているのだから、このくらいのものすぐに極めてやる!という勢いで吸収していった。
あっという間に作り方を覚えて、調理に入った。入りたての頃より手際よく作業を進められて、非常に楽だった。
「ありがとうございます。出してきます」
「頑張ってね。さっき味見させてもらったけど、すごく美味しかったよ」
「そりゃよかったです」
3人が待っている席へと向かっていった。初めて友達に提供するので、とっても緊張する。
「召し上がれ。御幸には、俺のおすすめ、『マルチャーナ間違えた』を」
「連の手料理だぞ!最高だわっ」
「いただきます!」
「いただきます」
それぞれが注文した料理に手をつけられる。そして頬張られる。心がドキドキしながらも、感想を言われるのを待った。
「…………マジか」
「…………」
「…………」
陽成が最初に放った言葉以外、誰も何も言わないのだからだんだん冷や汗をかいてきた。これでもし酷いこと言われたらどうしようか。いや、また改善すればいいだけの話だ。落ち着いていよう。
と思っていたのだが、やっぱりできなかった。沈黙に耐えきれずに、
「お味は?」
「すんごい美味い」
陽成が真っ先に言った。それに続いて紺野さんも刻々と頷きながら美味しいと言ってくれた。だが、唯一御幸は未だ黙っていた。代わりに食べていた。
もぐもぐと食べ進める御幸の頬は、まるでリスのように膨らんでいた。俺が御幸に作った料理は、マルチャーナと言って豆と米と野菜諸々を入れた、健康的で美味しいものを選んだ。たくさん食べてくれているということは美味しいと捉えていたのだろうか。
「蓮って料理出来たのな!ご飯とか家のことは全部母ちゃんに任せてるのかと思ってた」
「確かに家では作ってもらってばかりだけど、ここはあくまでレストランだからね。何があろうと身に付けるよ」
日も傾いてきて、橙色の綺麗な夕陽が俺たちを照らしていた。4人集って馬鹿話をしているのは、まさに青春と言えるものだった。
「御幸はこれから旅館に行く?」
「今日はお休み」
「良かった。少しでいいから一緒にいてくれないかな?」
「いいよ」
「よっしゃ。そしたらこの後、18時に今日は終わるから少し待っててくれない?」
「いいよ」
俺は礼を言うと、今いるお客さん達の対応に最善を尽くした。心が浮かれているからか、この後の料理はスパスパと作っていくこたができた上に、美味しいと好評をもらうことができた。
お読みくださりありがとうございます!
だいぶ日が空いてしまいましたが、読み返して楽しんでもらえると嬉しいです。




