想いのぶつかり
最近、御幸がどことなく可愛くなっている気がする。決して俺の色眼鏡付きの感想ではない。本当に可愛くなってる。
髪はストレートの艶のある漆黒で、言わずもがな美しい。手は細く可憐な指をしているからコンパクトで、俺の手の中にすっぽり収まってしまいそうだ。いつか握りしめたい。
毎日見るたびに可愛いと思っている。
じーっと見ていたら、御幸にバレて首を傾げられた。少し気まずい。だが、今目を合わせてわかった。髪型だ!
ガツンとは変わっていないが、どこかサラサラになったような、今までの綺麗な髪に磨きが入ったような、そんな感じがした。元々前髪がなくセンター分けで、毛先は肩甲骨の下までと、少々長めだった。
だが、少し髪を切って肩甲骨の真ん中辺りまで短くなっていたのだ。そして、何よりもグッときたのはハーフアップにしてるところだ。単に下ろしている姿も綺麗で俺は好きだけど、ハースにしたことで、さらに美しくなっているというか。
長々と連ねてしまった。要するに、今日も可愛い。
目が合った後もじーっと見続けていると、扉から陽成が入ってきた。俺の姿を見るなり、トコトコやってきて、両手を机の端をバンッと押し付ける。何か言いたいようだ。
「今まさに見惚れてんな?」
朝登校してきて一声目がそれかよ!と思ってしまうが、そこを抑えてコクっと頷く。すると、俺の回答に満足したのか、ニヤニヤし始めた。俺もやられっぱなしは嫌だな。探ってしんぜよう。
「陽成は?最近どうなの。紺野さんとは」
「ぐふふっ、それがなぁ?」
もしかしてこれ逆効果だったか?「ぐふふっ」の先に続く言葉はろくなものではないだろう。
「今度一緒にデート行けるんだ!」
「おっ!良かったな」
「一緒に水族館行ってくるんだ。デート先としては普通だけど、俺絶対に、最高の思い出作ってくるかんな!土産話期待してろよぉ〜!」
紺野さんとの話になった途端にこのテンションだ。俺は参っちゃいそうだよ。でも、学校一仲が良い友達の嬉しい話ってのは、俺も幸せな気持ちになる。
「陽成君余計なこと話してない?」
「ぐ、大丈夫。話してないぞ!」
陽成の声が大きかったからか、紺野さんが要請に怒った。だが、俺には半分照れ隠しのようなものがあるようにも見える。何だかんだ言って上手くいってるいいカップルだ。
廊下に出ると、何か用があったのか、美延先輩がいた。目が合うと、先輩は微笑みながらこっちへ近寄ってきた。
「紅宮君って2組だったんだね」
「はい。先輩は何か用事ですか?」
「そうそう。妹に」
「えっ」
「妹いるのよ。知らない?美延由香」
「知ってます。まさか妹さんだったとは」
「よく驚かれるわ。仲良くしてあげてね」
「はい」
そう言うと美延先輩はどこかへ行ってしまった。美延という名字には希少性はあるが、ここら辺では聞く名前だったので、特段家族とは思っていなかったのだが、本人(姉)から聞くと説得力がありびっくりする。驚いたまま、俺は教室に戻り御幸たちのもとへ行くと、御幸に怪訝そうな顔をされた。
「御幸今日一緒に帰らないか?部活が無いんだ」
「……あの先輩と一緒に帰った方が楽しいんじゃない?」
いくら何でもわかりやすかった。美延先輩と仲よさそうに見えたのだろう。そりゃバイト先で知り合った人だ。無愛想な方が嫌なやつに思われてしまうから、ある程度愛想良くする。
「あの人、俺のバイト先に勤めてたんだ。入ってから気づいた。それで挨拶しに言っただけだよ。廊下で目が合ったのにスルーなんて態度悪いだろ?」
「……うん」
嫌そうに頷かれた。
まだ、俺の気持ちが伝わりきっていないのか?いや、夜の旅館でだいぶ気持ちが晒け出されてしまったから向こうも分かっているはずだ。
「一緒に帰ってくれないか?最近ゆっくり会えてないから、せめて帰りだけでも」
「良いよ」
唇を尖らせながら頷いてくれると、ぷいっと紺野さんの方に体の向きを変えてしまった。俺は戸惑って仕方なく陽成の方を見た。目が見開いていた。
陽成は俺を廊下に連れ出すと、真剣な表情で口を開いた。
「お前、浮気か?」
「んなわけないだろっ」
「だが、あの美延先輩とバイト先が同じなんて偶然じゃないだろ」
「偶然道端で通り過ぎたおじさんのおかげでバイト先は決まった。だから、美延先輩が働いてるなんて知りもしなかった」
「でも、御幸ちゃんのこと不安にさせて良いのか?美男と呼ばれている人と同じバイト先で何時間も働き続ける彼女なんて、俺なら耐えきれないぞ」
「御幸はあまりそういうの気にしないタイプだと思うから大丈夫だよ」
「さっきの態度で分かったろ。明らかに嫌がってるだろ」
確かに、全く気にしてないわけではなかった。迂闊だった。御幸を喜ばせるためにバイトを始めたのに、始めたことで傷つけたら本末転倒じゃないか。だが、雅幸さんも伊達さんもいい人で給料もチェーン店より良い。だから、俺としてはやめたくなかった。
「いいか、御幸ちゃんを傷つけたくなかったらバイト先を変えるべきだ。亀裂が入ってからじゃ遅いぞ」
「確かにそうだな。シフト被んないように相談してみる。無理そうだったらやめて、別のところに移ることにするよ」
「おう」
今日はその後御幸と目が合うことはなかった。いつもどこかしらで目が合うことがあるのだが、今日は1度もない。こんな悲しいことなどあるのだろうか。せっかく、御幸の心の中に入れたと思ったら、また外野に放り投げ出されたような気持ちだ。俺は何をやってるんだろうか。美由紀の気持ちまで考える余裕がなかったのか。いや、少し考えたらパッと答えは思いついたはずだ。
そのまま放課後になって、御幸はもう帰ってしまったと思ってたが、紺野さんと御幸が校門前で待っていてくれていた。俺の姿に気がつくと、紺野さんは御幸に別れを告げて帰ってしまった。残った御幸は、どんな顔をすれば良いのか分からないような感じでいた。怒れば良いのか、普通でいれば良いのか、御幸なりに凄く悩んでいた数秒だっただろう。
「待っててくれてありがとう」
「約束したでしょ」
「ああ、そうだな。でも帰っちゃってるかと思ってた。だから嬉しい」
相変わらず目を逸らしたままの御幸だが、俺の顔の前にある耳は赤くなっていた。すぐに照れてしまうのだろうか。
「行こ」
「ああ」
いつもより口数は少なかったが、会話はしてくれた。そういう律儀なところがあることは最近気づくことができた。知れば知るほど御幸の魅力が増えていく。こんなにも素敵な人に出会ったことがない。だからこそ、絶対に失いたくない。
「大人げないね、私。お母さんを友達に取られた並みに思っちゃってる。事情考えたら話すことなんて当たり前なのに」
「先に言わなくてごめん。でも、これからもそこで働かせて欲しい。俺、美延先輩とシフトずらすから。間に合わなくなりそうで、もう新しいバイト先は探せないんだ。
「何かあるの?」
「うん。大事なイベントがある。俺の大切な人とのね」
「…………そうなんだ」
何を考えたんだろうか。俺としては、御幸自身のことを想っていると想像してもらいたい。御幸のことだ。例えそれが自分のことを指していると確信していても、自ら口に出すことはないだろう。
「だからお願いします。御幸が不安にならないようにする。というより、俺も不安にさせたくないからそのためにしてほしいこととか、何でも言って良いから!」
「じゃあ………、私を安心させて」
「もちろんだよ」
普段からあまり過剰なスキンシップは避けていたが、今日は特別としよう。御幸の手を引き、歩みを止めると、御幸の体をくるっと変えて1歩近づき抱きしめた。俺がずっとしたいと思っていたことだ。
「大好きだよ、綾」
このときの俺は名前で呼んだことに気付かなかった。優しく抱きしめることに頭がいっぱいだった。ふと気を抜くと、想いが溢れてきつく抱きしめてしまいそうになる。御幸の反応なんて気にする余裕はない。今俺の心にある気持ちを全力でぶつけてるんだ。胸の中にすっぽりはまっている御幸の体は、思っていた以上に華奢でいて、しなやかだった。
誤字報告ありがとうございます!
しないに越したことはありませんが、報告されたのが初めてで嬉しいですっ。
案の定投稿頻度は減ってしまいましたが、それでも読んでいただいてありがとうございます。




