初出勤!なんでそんなに可愛いの?
早速、お店にお邪魔するとシフトの確認をし始めた。俺を助けてくれたこの店のオーナーは、奈村雅幸というようだ。この店舗以外にも店をいくつか持っているそうで、なかなかの実力者だと言うことは伝わってくる。しかし、このお店を1番気に入っているらしく、ここには週3で来られているらしい。
俺は色々学ばなくてはいけないので、雅幸さんが来られている曜日に行くことにした。普段の料理などは、信頼できる人に任せっきりらしいが、特別に何品か作ってもらった。
メニューの中でも食べやすい鶏肉のリゾットをはじめにもらうと、ほのかな甘みが伝わってきてまるでデザートとしても食べてしまいそうだ。
「初めてリゾットを食べさせてもらいました。すごく甘くて、でも食べやすい感じですごく良いです」
「そんな食レポしてもらったら嬉しいもんだね。これは、リゾットに使う調味料の配合を工夫しているんだ。僕が3年かけて編み出したものでね、今ではみんな作り慣れているよ」
「伝授もするとは。お客さんが喜びますね」
「だろう?たとえ僕がいなくとも、店員だけで美味しい食事を提供することが、僕の目標だからね」
飲食店のオーナーとしての自覚がしっかりしているというか、最終的に何を実現したいのかを自分の中で明確にできている所が、とても格好いいと思った。
「もちろん、この料理の作り方に限らず、蓮君にはもっといろんなこと教えていくつもりだからね。ぜひ覚えてくれると嬉しいよ」
「頑張ります!でも、あまりシフト入れられなくて」
「それは仕方ないよ。だが、それなりの給料になってしまうことは、申し訳ないけど知っておいてね」
「合間合間に入れていきます。雅幸さんのお店を今日で好きになりましたし」
「それは良かった。今日は休業日だから誰もいないけど、今度他の人たちも紹介するよ」
「ありがとうございます」
とりあえず、月火水金土に入れて、木曜と日曜をお休みにした。平日は基本部活も稽古もあるから、取れるのは精々2.3時間と少ない。それでもコツコツ続けていればものになるだろう。
次の日は土曜で、午前中に部活があった。仲間たちと模擬試合をした後、昼に終わった。武道場で昼ご飯を済ませたら、そのままレフォンに向かう。今日のシフトは13時から19時までで、その後また師匠のもとでの稽古がある。
まさにハードワークというものだろうか。しかし、俺がやりたい。自分の限界を見定めずに、やれるところまで突き詰めるのは、とっても心がワクワクする。
「こんにちは」
「君が紅宮君かい?」
「はい。本日から働かせていただきます、紅宮蓮です。よろしくお願いします」
「すごいいい子だね〜。そりゃオーナーも道端で声かけるわな〜」
「失礼ですが、あなたは、」
「ああ、失礼。俺はここの副店長させてもらってる、伊達政宗ならぬ、伊達優成です。よろしくね〜」
「伊達さんっ、よろしくお願いします」
すごくフレンドリーな雰囲気を纏う彼は、とても好印象だった。この人のもとでならうまく働けそうだとも思う。
「あとね、もう1人、奥にいる人がいてね。確か同じ高校じゃないかな?まあ、悩むことがあったら俺とか、紗月さんに聞いてね」
紗月。美延紗月、一つ上の先輩だ。御幸の美女噂に劣らぬ美貌を持ち、それは学年問わず人気だそうだ。
「挨拶してきますね」
「ああ。その後仕事内容について説明するよ」
「こんにちは。今日からここに勤めさせてもらいます、紅宮蓮です。よろしくお願いします」
「紅宮君だったんだ、新しい人って。よろしくね」
他学年でも、ある程度の知名度はあるようだ。紗月先輩は言葉がけは優しいが、その奥には俺に対する不信感があった。ある程度有名な人となりゃ、その人目的で入ってくる人もいるからだろう。しかし、俺は全くその気がない。
余計な勘違いをずっとされているのは迷惑だが、彼女持ちを言うほど、不貞腐れてはいないので黙っておこう。
早く安心してもらいたいところだが。ときが解決してくれるのを待とう。
「じゃあ、早速始めていこう。雅幸さんの希望で、君はキッチンを担当する。はじめのうちは失敗もするだろうから、俺がこの週はずっとサポートするよ」
「ありがとうございます」
そうして、レフォンのメニューに載っているものを全て暗記しておくことが宿題に課された。それとは別に、今日はあまり人が多くないので、練習として色々作ってみることになった。
手始めに作ったのは「サクサクサンド」。名の通り、サクっと揚げたパンの中にトマトやレタスを入れ、特製ソースを入れたサンドイッチだ。余談だが、サンドイッチ、サンドウィッチ、サンドクイッチ。何派だろうか。因みに最後は毒入りなのでやめたほうがいい。
「中々筋がいいじゃないか。まあもとから予想はしていたけどね。」
「嬉しいです。レフォンの美味しいご飯を俺の手でも作れるようになりたいですから」
「そりゃ楽しみだ〜!美延ちゃん〜、これ食べてみてよ!」
「美味しそうですね」
「さっき蓮君が作ったんだよ!美味しいから食べてみてよ」
伊達さんは、美味しいものに出会ったらテンションが高くなる事がわかった。言い換えれば、伊達さんが笑ったら俺が美味いものを作れたということだ。わかりやすくて助かる。
その後も色々簡単な料理から作らせてもらい、あっという間に3時になった。これから19時まで働くため、一旦休憩を頂いた。
休憩室に入ると、美延さんも休んでいたようで、片手には本を持っていた。
「本、好きなんですか?」
「うん。お母さんがそっち系の仕事だから」
あ。なるほど。詳しい職種はわからないけれど、親の影響か。俺の剣道を始めたきっかけのようなものだ。
「本の世界って作者によって千差万別で面白いですよね。『ある人は天使と言い、またある人は悪魔と呼ぶ』みたいに」
「そうね。紅宮君も好きなの?」
「本好きさんと肩を並べるほどじゃありませんけど、程々に読みますよ」
「へぇ、意外かも」
「もしかして運動馬鹿とでも思ってます?」
「うっ」
「大丈夫ですよその辺は」
「さっきから本の話しかしないのね」
「え、話題変えたほうがよかったですか?」
本の話は美延さんから振ってきたというのに、なんという無理難題を。
「いいえ、周りの男の子たちは大体話を逸らして私の彼氏の話になるから」
「いらっしゃるんですか!」
学校一の美人と言っても過言じゃない人に彼氏がいるなど、学校の全男子(俺を除く)が大打撃を受けるだろう。
「いません!なろうとしてくる人が多いの」
「ああ、びっくりしました。流石にそうですよね」
「まったくもうっ。じゃあ戻るね」
「あ、はいっ。頑張ってください」
休憩室には俺1人になった。ロッカーに置いていたスマホを取り出すと、御幸から連絡が来ていた。夜会えないかという旨だった。夜の時間帯にもよるが、会えると伝えておいた。
「休憩入りま〜す。って、何スマホ見てニヤニヤしてるの!?」
「へっ?あ、すみません」
目の前には伊達さんがいた。すっかりスマホ画面に集中していて気づかなかった。
「もしかして、彼女さんいるの?」
別に隠す必要はないだろう。どうせ、バイトをする目的を聞かれたときに答える羽目になるのだ。
「はい。最近から付き合わせてもらってます」
「何だよぉ〜、それなら先に言ってくれよ〜。ということは、レフォンで働き始めたのってもしかして?」
「はい。そこもしかしてです」
「そうなのか。そして、期限はクリスマスまでだったり?」
「当たりです」
伊達さんは勘がいいみたいだ。ズバズバと当てられてしまうから、ちょっとドキドキする。
「このことは、美延さんには内緒に、」
「任せなさい」
今までで1番頼りがいのある声で返事をしてくれた。これは信じて良いのか否か。
休憩後も引き続き働き、長い長い初日を終えた。美延さんは颯爽と店を出ていき、俺の家とは真逆の方向へとスタスタ歩いていった。
一方、俺は御幸との待ち合わせ時間に余裕を持っているので、公園の方へゆったりと歩いた。
「御幸」
「紅宮君。バイトお疲れ様」
「ありがと。御幸も旅館お疲れ」
「どうだった?」
「すごく楽しかったよ。周りの人たちも温厚な人ばっかりで、ここでなら頑張って働けていけそう」
「それは良かった。これから稽古?」
「ああ。剣を振るっておきたくて」
「本当に剣道好きだよね」
「そうだな〜。御幸はこのあと何かあるの?」
「特に。家帰るだけだよ」
「送っていくよ」
「いいよ。稽古頑張ってね」
「やだ。俺送るよ。この時間危ないしさ」
「わかった。お願いします」
「あいよ!」
送り終わったあとも稽古場に着くまで電話していた。と言いたい所だが、話中に「なんでそんなに可愛いんだ?」と言ったら一方的に切られた。
恥ずかしがり屋なのか。そんな所も魅了される。今の俺には御幸が可愛くも美しい人にしか映らない。そして、口数が少ない割に周りのことを考えている素敵な人だ。
読んでくださりありがとうございます。
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