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約束と計画

付き合ってからしばらくして、御幸が俺の方に来てくれるようになり、一緒にいる機会が増えた。元はと言えば、俺が中々部活や夜の稽古で会う時間を作れなかったのが理由なのだが、「会えない」と怒らずに会う機会を増やしてくれるのはとっても嬉しかった。

俺も剣道を言い訳にして、御幸と話す時間を減らしたくない。今はどうやって剣道と御幸を両立するか悩んでいる。


御幸は部活動に所属していないが、旅館の仕事が週4で入っているので、御幸自身も忙しい日々を送っている。一緒に登下校したいところだが、俺は部活、御幸は仕事に直行と互いに忙しいスケジュールが組まれているので、中々ゆっくり会うことができない。

困った。そんな時の陽成がいる。俺は救いを求めて陽成に会いに行く。


「というわけなんだが、どうすればいいと思う?」

「う~ん。互いに忙しいのは大きな壁だな。だが、悩むことはない。連絡先を交換するんだ」


そういえば、俺はまだ御幸と交換していなかった。なぜそんな簡単な解決策を思い付かなかったのだろう。放課後に頼んでみよう。


「御幸。俺と連絡先交換してくれないか?」

「いいよ」


QR コードをかざして、相手のアイコンが出てきた。可愛い犬の写真で、背景は花畑だった。自然というシンプルな写真を使っているわけだが、そこに御幸らしさがあった。

俺はてっきり旅館の写真を使っていると思っていたから、少し意外だった。


「ありがとう」

「紅宮君って本当に剣道好きなんだね」


自身のスマホをまじまじと見つめながら言う。おそらく俺のアイコンが、試合中の竹刀を振りかざす俺の姿で、背景がコートの縁に立ってあいさつする直前のものだからだろう。剣道のことしかないため、必然的にそう思うだろう。


「ああ」

「将来の夢とかあるの?」

「自分の道場をもって指導することかな」

「紅宮君らしい」

「御幸は?」

「私は似てるけど、今の旅館を継ぐこと。立派な女将になりたい」

「俺あともう一つある。将来の夢」

「なに?」

「立派な女将さんのそばにいること」

「……言ってて恥ずかしくないの?」

「ちょっぴり」

「ふっ」


御幸が笑った。いつも冷たい言葉で一蹴するのに、ちょっと間があったあと、おかしくなったのかくすくすっと笑っていた。

本当は俺も笑うべきなのだろうけど、あまりに驚きすぎて笑うのも忘れていた。いつも俺の前では笑わないからこそ、今この目で綺麗な微笑みを焼き付けておきたかった。


「なにじっと見てるの」

「御幸、俺頑張れる」

「急にどうしたの」

「笑顔すっごく可愛い」

「ちょ、みんないる場で恥ずかしいこと言わないで」


ぷいっと向こうを向くと、「私は知りません」と言っているかのような素振りを見せた。そうやって照れ隠しするところも愛しく思う。


「どうして可愛いんだ」


そのまま俺は武道場に行くと、いつも以上に調子が良かった。



稽古を終えて家に帰ると、すぐにスマホを開き、新たに友だち追加した御幸とのトーク画面を開く。互いにまだ挨拶スタンプしか送ってなかった。


何か送りたくてキーボードを出して固まっていると、御幸の方からシュポンッという効果音とともに届いた。

内容は、「終わった」だ。あまりに淡泊に見えるが、俺は「お疲れコーヒー」と書いて送った。そして、俺もちょうど部活から帰ってきた旨も伝えた。

まだまだこの調子だと、友達との会話にも至っていないカチコチさだ。でも、ここからどんどん色んなことを話していくと考えると楽しみだ。


御幸はこうゆう少しの会話にも興味を持たないのかもしれない。だが、俺にとっては胸を躍らせるような気分になる。


『電話してもいい?』


俺は「終わった」にいつまでも見惚れていたところに、更なる攻撃がきたからベッドに倒れた。


「いいよ」


と送ると電話ボタンを押す。コールが2回にも満たないうちに応答された。


「もしもし?」

「もしもし」

「御幸?」

「私」

「やった。繋がった」

「今どこにいるの?」

「ベッドにいる」

「意外」

「まじ?」

「竹刀握りしめてるのかと思ってた」

「家の中まで持たないよ。笑」

「これからなにするの?」

「御幸と電話するの」

「ずっと?」

「ずっと」

「暇なの?」

「暇なの。だから話してたいの」

「暇つぶしに?」

「違うよ。御幸の声聞きたいからだよ」

「…………。ならルール決めない?」

「いいよ」


こうして話していることにまだ実感が湧かずにいる俺。浮かれているのは確定だ。


「まず、学校ではいつも通り。それから甘い言葉は禁止」

「理由を聞いても?」

「〜っ、恥ずかしいから」


そんな言葉を聞いたら、今すぐ抱きしめたいと思ってしまう。電話越しだからいつもより声の距離が近い。まるで耳元で話しかけられているかのような感じになるから、非常にくすぐったい。


「じゃあどこからが甘い言葉になる?」

「好き」

「それは難しい。もう少しハードル下げてくれ」

「可愛い」

「もう少しっ」


多分このままじゃ何も言えなくなる。愛でたい、可愛がりたい、支えたい。これらの欲求は抑えなくてもいいと思う。


「なあ、言論統制はやめないか?」

「だって、」

「もちろん、御幸が嫌がるほどのことはしない。だけど、抑えきれる自信はないんだ。せめて、せめて2人きりの時は何を言ってもいいと約束して?」

「…………わかった。約束だよ?」

「ああ」


御幸は渋々認めてくれた。これで、本人の同意も得たことだし、たくさん言う事ができる。たくさんの言葉をかけることができる。


「御幸はさ、どんなことされたら嬉しいの?」

「え、何もしなくていい」

「そっか。そういや、誕生日いつ?」

「12月24日」

「イブ!?」

「そう。でも、紅宮君が思ってるようないい日にはならないよ」

「楽しくないのか?」

「ほら、うちって旅館経営じゃん?だからイブとかそうゆう日にたくさん来るんだよ」

「一家団欒みたいな感じ?」

「そうだね」


想像つく。俺だってつい最近、家族と一緒に行った。そういうことを逆に捉えると、御幸家は全然会う機会がないのだ。


「ならさ、今年は最高の誕生日兼イブにしよ」

「どうやって?」

「まあお楽しみです」

「えぇ」

「よっしゃ、今何月だっけ?」

「10月だけど、」

「うん。充分!俺さ剣道頑張るから、応援しててほしい。そのかわりに俺は御幸をびっくり仰天させるから!」

「う、うん。応援してるよ」


電話を切ると早速、部活と稽古のスケジュールをみる。2つ合わせると、週6活動していることになっている。となると、空いている日は1日のみ。だが、あくまで放課後全て空いている日だから、少しの時間なら毎日取れる。


空いている日を確認した後は、職種について検討していく。

まず初めに、人と接することに対して抵抗はない。だが、接客がうまいかと言われるとそうでもない気がするまて却下。次に、飲食店について検討。チェーン店だ一律の給料になるため、貯めるのに時間が掛かる。個人経営の、ある程度栄えているところが好ましい。 しかし、そんな優良物件はネット上では見つからない。現地に出向く必要がある。



次の日の放課後、俺は早速学校から近い土地をまわった。どこも見たことのあるお店しかなく、求めている店はない。


「弱ったなぁ」


つい、口に出てしまった言葉。負を連想させるような言葉は自主的に言わないようにしていたのだけれど、仕方がない。諦めて帰ろうとすると、髭を生やした人の良さそうな人が声をかけてきた。


「何か困ってるのかい?」

「あ、バイト先探してて。2ヶ月で5万稼ぎたいんですけど、」

「じゃあ、うちで働かないか?僕の店ちょうど人足りなくて困ってんだよね」

「いいんですか?」

「もちろん!むしろ、こちらからお願いしたいよ、こんな良い青年を」

「ありがとうございます!」


そうして、喫茶レフォンに働くことになった。やはり現地で探したのは正解だったのかもしれない。



あ、俺の目標は12月24日までに5万貯めて、何かしらサプライズすることだ。御幸のことだから、大規模のものは嫌がるだろう。だからせめて俺からのささやかなプレゼントを受け取ってほしい。

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