試合前日~当日
迎えた試合前日。俺は気持ちを引き締めて部活に挑む。前日に怪我をしないよう、ほどほどの量だが、陽成はわかってくれているから、やる時は本気でやってくれる。俺らの仲では手抜きは一切禁止だ。
今日はやけに武道場の外にいる女子が多い気がする。時間が経つにつれだんだん人数は減っていくものの、それでもまだ10人から20人ほどはいた。気が散る時もあり、陽成は所々気を利かせてくれて休ませてくれる。どうしたもんかと頭を抱えていると、後ろから急に怒り声がした。
「明日大事な試合あるのに邪魔したいの!怪我して欲しいならここに残って、頑張って欲しいなら早くここから出て!」
怒号の麓は御幸だった。女子たちは御幸に鋭い視線を寄せるも、納得したのかどんどん人が減っていった。そして、御幸は最後の1人となって、力強いガッツポーズをくれた。そんなものをもらっちゃ、とろけてしまいそうになる。俺は同じガッツポーズにグッドサインをつけて返した。満足してもらえたのか、くるりと踵を返して御幸も出てしまった。
「良かったな、蓮」
「ああ。最高のものもらったよ」
「主将ってあの御幸先輩と付き合ってるんですか?」
「付き合ってない」
「最近御幸先輩が変わったって言ってる人が多くて」
「ええ、それ俺も聞きたいくらいだよ」
俺は頭の中がまだまとまりついていなかったが、グダグダしている余裕はない。自信を持って当日を迎えられるためにも、しっかり前日までやっていないと駄目なのだ。
陽成も一生懸命俺の稽古のサポートをしてくれて、6時半に部活を終えた。
「陽成ありがとう」
「何のこれしき。この程度ならいつだって受けるさ」
明るい陽成に明日への緊張をほぐされ、校門へ歩いていた時、校門前で御幸と山都先輩が話している様子が見えた。大会前日に不安要素を作るべきではないと知っているからこそ、俺は見たくない気持ちと見届けたい気持ちが絡まって、混乱してしまった。
陽成は必死に俺の目を手で隠し、木の陰に隠れた。前の廊下での出来事と状況は同じだ。
「俺、どうしても諦めきれないんだ。御幸綾さん、俺を好きになってくれ!」
「もう以前お断りしたはずです」
「本当に断ったのか?ああ、俺を振る人は初めてだな。少し変な感じがする。俺はどうしても君としか恋をしたくないんだ。今日だって武道場にたむろう女子たちを追い払っていたね。強く自分を持っていて、周りに安易に妥協する姿勢を持たない君は、俺の理想の彼女なんだ。どうか、もう1度考えてくれ」
「……分かりました」
「ありがとう。今日はもう夜遅いから送っていくよ」
「大丈夫です」
「でも、」
「結構です。寄るところあるのでこれで失礼します」
押しに強い御幸に流石と思ってしまった俺がいた。だが、山都先輩も案外しつこい。まだついていこうとしている。これ以上は一緒にいさせてやるものか。
「お疲れ様です、山都先輩。御幸も」
「いつからいたんだ?」
「先ほどからです。明日試合を控えているので稽古をしていました」
「明日に疲れを残さないようにしなければならないね。頑張ってくれ」
「ありがとうございます。山都先輩のおうちはどこですか?」
「向こうだ」
「では俺たちとは正反対ですね。行こう、陽成、御幸」
「うん」
「おう」
山都先輩は、帰る方向が逆だと言われてしまった以上ついてくることはなかった。しかし、ストーカー気質のある人が1番厄介だ。
「御幸大丈夫?」
「うん」
「今日は送るよ」
「蓮は不安でいい試合出来なくなるかもしれないからな」
「陽成!」
「ぶふっ。そうなの?」
「ん、否めない」
御幸のことは結局、家まで送らせてもらった。そして、無事が確認できてから俺たちは帰る。2人でいて寄り道をしないのは今日が初めてかもしれない。
「蓮明日頑張ってね」
「ありがとう、母さん」
「気を抜くなよ」
「うん。確実に優勝する」
そして、とうとう当日がやってきた。緊張と興奮が見事に入り混じっている。だが、何度も経験している場所だ。俺と戦う人達の顔もだんだん覚えてきた。御幸をきっかけに周りの人に目を配るようになったんだ。
「勝てよ!」
観客のところから陽成の威勢の良い声がくる。もう試合が始まるので反応はできなかったが、結果で返事をしてやる。つまり、勝つ。それしか道はない。
まず初戦は難なくクリア。雰囲気で圧倒させた面もあるが、何よりも今日物凄く調子がいい。昨日の夜まで研鑽を重ね、今までの集大成がまとまっている。
相手との礼が終わると、水分補給した後、すぐまた試合が始まる。徐々に剣士たちのレベルが上っていく。今の俺はどこまで勝ち登れるんだろうか。だが、予定を上回る結果にしてやる。優勝のためにも、今一度頬を叩き、真剣モードに入る。
「いっぽぉ〜〜〜ん!」
またもや、声が聞こえる。ふぅ。大きく深呼吸をすると、見えるのは相手だけ。音も何もかもがなくなった。
パチンッ
大きく相手の面に振りかざす音が鳴り響き、試合が終わる。終わってからようやく自分が勝ったのだと自覚する。まだ足りない。最高のパフォーマンスはこれからだ。
今はものすごく物事を冷静に見ることができるし、自身は興奮状態のため、かますことができる。
せぇーーーい!
大きな声とともに胴を打つ。あまりの衝撃で竹刀が折れてしまった。竹刀を替えると、また心も切り替えて握り心地を確かめる。これならいける。
最大の自信をもった状態で試合が再開する。
今だ!
大きく踏み込んで打った面が見事的中し、試合が終わる。その後も次々と試合を行った。すべて順調に進み、やっと決勝まできた。今年はどんな強者と戦えるのかと興奮していた。待っていると、菅原椋がやってきた。彼は俺の最古で最大のライバルであり、俺の脅威となる人物だ。
「おお、まさか蓮君と戦うとはね。よろしく」
「よろしく、菅原」
俺たちは強く握手した後、持ち場に戻った。ふぅ~。先ほどよりも大きな深呼吸をして、心と体を落ち着かせる。これは単に勝利を決めるだけではない。俺の今後が関わっている。
ぶんっ
大きく竹刀を振りかざし、動きの良さを確認する。うん、体はバッチリ。ただ、気持ちを整理して冷静に見る。
「お願いします」
竹刀を構え、菅原の来ようとしているところを予測する。以前戦った際に、この手を酷使したから恐らく今回は通じないだろう。では、相手を読むふりをして、一気に襲いかかる。
これはある程度成功したようで、何か技をすることは出来なかったが、相手の体勢を大きく崩すことが出来た。そのままぐっと近寄り小手打ちをする。まずは一本成功といった。これは完全に菅原の注意ミスだ。次からはなくなるだろう。
警戒心が強くなった後の剣士は守りが強固になる。そして、攻撃も隙あらば巧みにかかってくるので、俺も注意しなければならない。
その後も、互いに緊張した雰囲気を纏い始まる。先ほどは俺が乱暴に攻めたので、今度はかかってくるのを待とう。菅原の表情は見えない。だが、何かしら考えている。間を読みあいながら、静寂と化す会場内に2人。みんな俺たちが繰り出す試合に視線が集まっている。
「てぇ~~~い!」
大きく振りかざされた竹刀。体は伸びており、胴の間に大きな隙間があった。俺はその隙を見逃さない。面を打たれないよう下と横、同時に逸れながら、力強く胴打ちを繰り広げる。
バチンッ
ばっちり決まった。これで2点。試合は無事終了だ。挨拶を交わし、「これにて試合終了」という審判の声が聞こえた。
「いや~、今日は集中力が保たなかった。あそこで打とうとするのは時期尚早だったようだ」
「また一緒に戦ってくれないか?」
「望むところよ」
すべての試合が終わり、会場から出ると外には2人がいた。
「すんげえな!今日めっちゃ気合い入ってたじゃん」
「ああ、ありがとう」
「お疲れ」
うぉっと、御幸も来てくれてたのか。俺が以前誘ったことを覚えててくれたのか。
「ありがとう。見に来てくれてありがとう。てっきり旅館の仕事で空いてないのかと思ってたよ」
「休んできた」
「えぇ、良かったの?」
「うん。元々いる人たちのサブの役割だから、いてもいなくても正直変わらないの」
「あ~、なるほど」
「頑張ってきた蓮にはご褒美のアイスクリームがあります!」
「マジかっ」
「溶けてたらごめん」
「良いよ」
陽成たちが買ってきてくれたアイスを一口頬張り、県大会はすべて終わったんだと実感する。無事に優勝の座を勝ち取り、美味しいものを食べている。今の俺は最高の気分だ。そして、忘れもしない。あの約束をちゃんと果たせる。
「御幸。後で話させて」
「……うん」
ここまで読んでくれてありがとうございます。今日からまた私用が増えてしまい、先日ほどの話数は投稿できませんが、1話ずついくのでお待ち下さい!よろしくお願いします。




