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長所の言いあいっこ

頭の中がもやもやしてばかりの俺は、トレーニング中もぼーっとしてしまい、危うく怪我を悪化させるところだった。しかし、山都先輩が現れた以上、呑気にしていられないことはわかった。県大会まで持つかどうかだ。最終決定は御幸の下にあるが、御幸が山都先輩に惹かれてしまえば、そこで終わりだ。別に俺に惚れて欲しいわけじゃない。ただ、俺の下で幸せになってもらいたい。俺の幸せを共有したいし、御幸の幸せを祝福したい。


捻挫だが、だいぶ回復していた。もう普通に歩くことは出来るし、体重を乗せることも容易になってきた。ここからは、正しい体重の乗せ方で、靱帯を正しい形で戻していく。今日が県大会まであと2週間。ここで回復すれば、可能性は見えてくる。そして、溜に溜めた想いを出す。成功しようがしまいが、言ったもん勝ちだ。俺の中に迷いはない。



「父さん、明日稽古しに行ってもいい?」

「・・・明日は病院に行ってこい。そこでの診断が俺の回答だ」


あえて駄目や良いと言わなかった。きっと曖昧なとこなのだろう。余計なことを言って怪我をさせたくない父親としての思いがそこにあった気がした。



そう信じて次の日、俺は病院に行った。お医者さんによると、もう運動を再開して問題ないそうだ。俺はまず、サポーターを着けた状態のまま、素振りをしてみた。怪我をする前より動きは鈍っているが、怪我中のトレーニングを欠かさなかったからか、思ったより悪くはなかった。筋肉の質は良くなってるはずだから、今後続けていけば元に戻るだろう。


病院で遅刻していった学校。教室に入ると陽成が大声で「蓮大丈夫かぁ!?」と言うもんだから、俺も大声で「大丈夫だぁ!」と言った。それがおかしかったかみんなゲラゲラ笑ったおかげで、雰囲気は明るいまま席に着けた。だが、御幸は1人笑わずにこっちを直視していた。きっとまだ心配してくれているのだろう。本当に大丈夫だという意を込めて、左手で小さくグッドサインを送った。


「ったくよ~、遅れてくるなら連絡してくれりゃ良いのにぃ!」

「ごめんごめん。だけど、もうお医者さんが運動して良いって。だから剣道も無事出来るようになった」

「良かったね」


陽成の隣に座って、にこりと微笑む紺野さんがいた。付き合ってから、俺には少し当たり障りが良くなった気がする。だが、変わらず陽成には「近づかないで」と言っていた。これも照れ隠しの一種だろう。陽成が沼る理由もわかった気がする。

一方、御幸はさっきから真顔でずっとこっちを見てくる。俺は目線のやり場に困って、挙動不審のようになってしまっていたが、先に陽成が聞いてくれたみたいだ。


「御幸ちゃんどうしたのさ~。良かったな蓮が治って」

「本当に大丈夫なの?」

「ああ。病院ちゃんと行って直接言われた。俺自身もだいぶ普通に戻ったと思ってたところなんだ」

「そう。良かった」


相変わらずの俺に対しての無愛想も、いい加減慣れてきた。そして、それすらも愛おしく思っている。俺だってあまり感情は顔に出さないタイプだ。きっと愛おしく思われているなんて、思ってないだろう。


「じゃあ、今度どっか出かけないか?俺たち4人で」

「私たちは2人の邪魔にならない?」

「邪魔に何てならないよ。むしろいて欲しい」

「ちょっ、それは不仲という誤解を生みそうになるじゃないか」

「不仲、ではないけど」

「ふぅ」


この砂糖と塩のカップルはいつも面白い。御幸も思わず表情が緩んでしまっている。陽成はにこにこして、紺野さんは無表情かむすっとした表情を見せている。俺たちはそれに対してにやけている。どんな光景だろうか、まったく。とにかく、4人で出かけると行ったら、やはり遊園地が思い浮かぶ。大体、2人同士で座るアトラクションだし、観覧車なんかは向かい合って4人で乗れる。


「遊園地とか?」

「おっ、いいねえ~。その後カフェ行って一緒に何か食べて、ショッピングモール行って、スイーツ食べて、ドリンク飲んで帰る」

「食べ物祭りじゃないか。歩き回った挙げ句に食べまくるのは悲惨な帰りになりそうだぞ」

「最近食欲が抑えきれなくて~」


陽成は必死にぶりっこして通そうとするが、3対1ということで、陽成による案は否決された。だが、遊園地は満場一致で納得したのでとりあえず決定した。


「あと日時だけど、蓮は県大会あるもんな。あと2週間は無理か」

「大会の次の週のお休みは?」

「空いてる」

「良いね」


こうして着々と決まって、とうとう遊園地デート(勝手に)が決まった。御幸の私服をちゃんと見るのは、それが初めてになるか。この前は真っ暗でほぼ見えなかったからな。


「んじゃっ、よろしくな!俺たちは放課後にデートが待ってるんだ♡」

「それあんまり他の人に言わないでよ、恥ずかしい」

「4人の中なら大丈夫だろっ。藍月今日はポニテの位置がいつもより高くて可愛いね。それに、匂いも変わってもぉ~~~っと良くなった。俺この匂い好きぃ」

「いい加減にしてっ」


紺野さんがポコッと殴った。それに対し陽成はニッコニコの笑顔で、酒に酔ってるかのように顔が紅くなっていた。それは紺野さんも同じで、頬を赤らめながらその後もポコポコと殴っているので、また俺たちは微笑ましくその光景を眺めていた。いつか俺たちにもこんな春が訪れるのだろうか。


「御幸、行こう」

「うん」


中々愛の攻撃が収まらないので、俺たちは居場所がなくなってしまった。2人で席を離れて何となく屋上に行く。まだまだ暑い空気が残っていて、もあっとする。居心地は・・・あまり良くないのだが、他に行くところもないので、フェンスにもたれて座る。


「御幸って屋上に行くことあるの?」

「ある。お昼食べる時に藍月と」

「そうだったんだ。前は教室で食べてなかった?」

「そりゃ日替わりだよ」

「そりゃそうか」



他愛のない会話に、必死に話題を探していると御幸の方から先に口が開いた。


「紅宮君って恋するの?」

「俺は~、うん。するよ」

「意外」

「えぇ。俺だって普通に好きになったりするよ。付き合った人はいないけど」

「え」


少し引かれた気がする。好きな人は出来るのに、付き合ったことがない。つまりは片思いですべて終わっているということだ。勇気の無いやつだと思われただろうか。


「そういう御幸は?」

「っ。私は別に」


御幸の心の門が閉ざされた気がする。簡単に言うものでもないか。


「御幸って誤解されること多い?」

「どうして?」

「声に抑揚ないし、表情は無だし。俺最初怒ってんのかと思って萎縮してた。けど、だんだん関わってくうちに、ちゃんと感情表現してるって分かったんだ。だから、初対面とか浅くしか関わってない人とかは、勘違いするのかと思って」


つい喋りすぎた。また引かれただろうか。おそるおそる横にいる御幸を見ると、普通だった。だが、少し瞳孔が開いている気がする。図星だったのか。


「凄いね、紅宮君は」

「別に凄くないよ。誰だって一緒にいたら分かることはあるし」

「私告白されたの、昨日」

ごめんなさい、それで断ったのも俺知ってます。

「そうなんだ」

「それで、結局断ったんだけど、どうして私なんかのことを好きになるか分からなくて」


これは、俺が御幸の惹かれるところを言った方が良いのだろうか。もし、少しでも口を開いた途端に、雪崩のように止まらなくなってしまうから、それはどうしても避けたい。だが、何か安心材料のものを行った方が良いよな。


「御幸は、素直なところだと思うよ。相手に対して誠実でいようとする姿勢が、多分みんな好きになるんだと思う」

「別に素直じゃないし」

「照れてる時とかはみんなそうだろ」

「照れない!」


珍しく強い声が返ってきた。これはこれでいいかもしれないな。


「そういうところとか、すごくまっすぐじゃないか」

「・・・紅宮君はそういう人のこと嫌い?すぐ怒る人とか、しっかりしてそうに見えて実は堕落した生活を送ってる人とか」

誰のことを言ってるんだろう。

「う~ん。その人のことを好きだったら、そんなところまでも愛おしく思う。すぐ怒るなら、それをなだめたいし、堕落した生活を送ってる人は、俺が支えたいと思う。変えて欲しいとは思わないな。友達とかは少し困るけどね」


微笑しながらそう答えると、御幸の耳が真っ赤になっていた。何を思ったのだろう。でも、これで俺の気持ちが少しでも御幸に伝われば良いと思う。


お互い微妙な雰囲気になったまま、座っているとチャイムが鳴って教室に戻った。2人は仲良く話していた。紺野さんはずっとツンケンしてるわけじゃないんだと知って、少し安心した。

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