第7話 ジョアンナ・カナカレデス/ティベルにてその2
ジョアンナ編の第二話です。
誤字脱字やご感想などお待ちしております。
宿屋に戻ったルーファスは待機していたラミアカーサとオリオンサにジョアンナとの最初の対面の様子を伝えた。
「噂通りの方ですね」
「聖女ってイメージではなかったよ」
「14年間も奉仕活動をしてたんですよ、やさぐれないだけでも凄い方だと思いますね」
ラミアカーサは感想を述べると自分が仕入れてきたジョアンナの話を報告する。
「ジョアンナ様は老若男女問わず人気がある方です」
「うん」
「あと、ジョアンナ様は大っぴらに愚痴を言う人です」
「確かに話していてそれは気付いた」
談笑の最後あたりは街の有力者や貴族階級の愚痴ばかり言っていた。
その時のジョアンナは煩わしい表情を浮かべていたのをルーファスは覚えている。
「それと冒険者ギルドと深い関係があります」
「ああ、そこが知りたかったんだ」
「何かあったんですか?」
「街の冒険者たちにジョアンナ殿をよろしく頼むと話しかけらてた」
「そうなんですね。さすがギルドの情報網は早い」
ラミアカーサも冒険者ギルドの影響力は知っている。
「で、どんな関係があるんだ?」
「ジョアンナ様はギルド長の娘です」
「ああ・・・やっぱり」
そんな気がしていた。
ルーファスがどう優しく見てもそんな気がしていた。
ジョアンナは話の最後は冒険者ギルドの悪口に終始していた。
「そうなると、ギルド長は私のことを好意的に見ているかな」
「それはどうでしょうか」
オリオンサが異議を唱える。
「男親と言うのは面倒なものです。簡単には娘の恋人や夫を認めない習性があります。お見合い相手なら尚更です」
「そんなものなんだね」
「そうですよ。私もえらい目にあいました」
「オリオンサってそうなの?」
「私も既婚者ですが向こうの親を説得するのは大変だったんですから」
そんな話を聞くとルーファスはジョアンナの父親に無性に会いたくなった。
どのみち向こうから接触があるだろうし焦ってはいないが、冒険者ギルドの長がどんな男なのかも見たいものだ。
その時になったら自分なりの対応をするのみ。
「まぁ、明日もジョアンナ殿に会ってくるよ」
翌日、ルーファスは見合いの一環としてジョアンナがいる治癒院に向かった。
ひとえにジョアンナの仕事の様子が見たかった。
元聖女とはいえ今でも民衆に奉仕活動を続けているのも彼女なりの何かしらの想いがあるだろうし、その様子を見ればより彼女のことを知ることができる。
街の外れにある治癒院は建てられてまだ2年ほどだと言う。
白い壁に印象的な建物からは清潔感があり、中に入ると石灰石の香りが漂っている。
治癒室や廊下には看護師たちが患者の治療に当たっており至る場所が喧騒していた。
この建物の一角にジョアンナの仕事部屋があった。
ジョアンナの私室に案内されたルーファスはそこで彼女の新たな一面を見ることになる。
ジョアンナは紙に数字をひたすら書き込んでいた。
「来たんですか?」
ジョアンナは手を止めることなく、ルーファスへ視線を向ける。
「数字を記入中ですか?」
「ええ。これでも経営者なんですよ」
そう言うと書き終えて弾き出した数字の答えを隣にある帳簿に記入した。
その様子を見ながらルーファスはジョアンナの隣へ移動する。
机には無数のメモがあり整理はされているもののどれも膨大な計算式が書かれていた。
その1枚を手にするとその計算式をじっくりと見る。
ルーファスも数字に関しては学院や騎士団で習っていたので手にしたメモに書かれた内容はすぐに何か理解できた。
「これは・・・人件費ってやつですか?」
「ええ」
相変わらずジョアンナは手を止めない。
「毎月、ここにいる方々に支払う給与や特別手当など必要になるものを用意しないといけないんです」
「王都に比べて安いですね」
「仕方ないわ。王都の物価はこのティベルより高いですし平民の賃金は王都の7割ほどしかないですから・・・よし!」
これで最後だったのだろう。
ジョアンナは計算が終えると最後の数字を帳簿に記入した。
「これで終わりっと」
ジョアンナは帳簿を大きな紙音を立てると締め切った。
「ルーファス様、甘いものが食べたいです」
ジョアンナがルーファスを上目遣いで見る。
「はいはい、奢りましょう」
「さすが英雄殿です」
「おススメのお店はありますか?」
「この近くに私の行きつけのカフェがあるんでそこに行きましょう」
促されるままにルーファスはジョアンナに連れられておススメのカフェに入店した。
そこでジョアンナはフルーツタルトや菓子パンを頼んだ。
一方、ルーファスはティベル州名物の揚げ菓子を注文した。
「先に失礼しますね」
そう言うとジョアンナが注文したフルーツタルトや菓子パンを食す。
「美味しい、さすがね」
満足な様子のジョアンナを見てルーファスが微笑む。
・・・これが本来の彼女の姿に近いのだろうな。
ルーファスはジョアンナの遠慮のない態度を好意的捉えている。
その上で何故、ジェローンの奥方様が彼女を見合い相手に選んだのか納得した。
・・・確かに自分と合うだろうな。
さすが奥方様の視野の広さに感服する。
とはいえ、見合いは見合い。
相手に好意的であっても家の事情などもあるので慎重にならざる負えない。
「どうですか、ティベルは?」
「みんな明るい人ばかりで良いですね」
「その感じだと冒険者たちが絡んできたでしょ?」
「わかります?」
「わかりますってどうせそんなことだと思ったわ」
ジョアンナは菓子パンを大きく頬張る。
「ジョアンナ殿の父君は冒険者ギルドの長をやっていると聞きました」
「ええ。戸籍上は違うけどね」
「それはどういうことですか?」
「聖女に選ばれた時に私は戸籍を変えることになったの。その時に冠婚葬祭筋のカナカレデス家の養子となって平民から貴族階級扱いになったわ」
「それで14年間務めた後も名字はそのままにしている理由はなんです?」
「カナカレデス家はあくまで冠婚葬祭関連の家系だから1代限りの爵位の家が多いんです」
「そうなんですね」
冠婚葬祭の仕事に就く家柄が1代限りだとルーファスは初めて知り驚いた。
「私はこのままカナカレデス家を継ぐ形にしてもらいました。新しい爵位をもらうのは面倒なので」
「でも、どうしてティベルへ戻ってきたんですか?」
「生まれ故郷だし、知った人も多いからかな」
「父君もいますものね」
するとジョアンナが手を止めた。
「・・・私、親父が苦手なんだ」
ジョアンナはそう言うと視線を下に落としながら笑顔を取り繕った。
「えっ?」
まさかの話にルーファスは困惑する。
「急に親父って言われても困るし・・・」
「会ってはないんですか?」
「だって14年も親元から離れてたし、養子に出されたから・・・」
「そうだよね、急に会うって言うのもきついか」
ジョアンナの悩みが出てきた。
それもよくある父親との関係。
よく見られる関係だからこそ解決は難しいものだ。
「親父と会うの?」
「会うと思う。向こうが接触したいようなので」
「今更、親子面されてもね」
「親ってそんなものかもしれないよ」
「でも、苦手は苦手。私は親父に会いたくないかな」
ルーファスが自分の揚げ菓子をそのままジョアンナの皿に移す。
「この話がここまでここまで。ほら、食べて」
「ありがとう」
ジョアンナはルーファスの気遣いに嬉しくなる。
「そうだ、私のも食べて」
ジョアンナはフルーツタルトの一片をルーファスの口元へ送る。
彼女は無意識のうちに異性へのルーファスに嫌われてはいないと判断してアプローチする。
「あーん」
「あ、うん」
ルーファスは戸惑いつつフルーツタルトを食べる。
「美味しいでしょ?」
「はい」
ルーファスが照れながら頭を掻く。
二人は気付いていないが、後で二人の様子を密かに見ていたラミアカーサが「間接キス!」と嬉しいそうに語るのはその夜のことである。
そのラミアカーサが警備のためにルーファスたちに密かに付き従っている時のことだった。
ルーファスたちが立ち寄った店に入った後、二人が店を出るのを待っていると馬に乗った男が大通りを走り抜けるのを見かけた。
男の背中には教会のシンボルが飾られていたのを確認したラミアカーサは馬の行先をすぐに理解した。
「走り馬か・・・。これは何かあったな」
ラミアカーサは店内で話すルーファスたちを見る。
二人は楽しそうに談笑している。
その姿が微笑ましい。
「何も起きなければいいけど。こういう時にハプニングって起きるんだよな」
お見合いを始めたルーファスの運勢が悪くなっている。
これも伴侶を得るための神から与えられた試練だと思うとルーファスに同情するラミアカーサであった。
次回の投稿はは3/23予定です。