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英雄騎士様のお見合い事情  作者: 宮城谷七生
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第5話 ベロニカ・シーウェル/エトルリアにてその5

ベロニカ・シーウェル編の最終回になります。

誤字脱字、ご感想などお待ちしております。

アーチボルトたちの制裁の後、ルーファスは王都に書簡を送った。


まず、貴族の子息や令嬢たちの処遇であった。


貴族の子息や令嬢たちにはそれなりの罰を与えないといけないので、騎士団長経由で貴族院から直接、戒告文書を送らせた。


元凶であるアーチボルトに関してはより厳しい罰が与えられることになり、辺境の地で見習い騎士として一から鍛え直すことになった。


アーチボルトは最後まで抵抗した。


「俺は知ってるんだぞ!!あの親が・・・」


「そうか。だが、心配するな。その件はすでにわかっている。素直に罰を受けろ」


ルーファスに釘を刺されたアーチボルトはそれ以上何も言わなくなった。


外見差別ルッキズムの思想を持つ者たちには十分な処罰になるだろう。


「それであの後は何があったんですか?」


ラミアカーサがニヤニヤしながらルーファスに尋ねてきた。


「もし機会があれば結婚しようと話した」


「先輩、なかなかいきましたね」


「私も言う時は言うさ」


とは言うもののベロニカとの関係が改善することはこれ以上はない。


そして、最後にやらればやらないことがルーファスにはあった。


ルーファスたちが王都に戻る前日、彼はベロニカの母君と面会した。


表向きは帰国の挨拶であったが、ルーファスには別の目的があった。


ベロニカの母君は応接室にてルーファスを出迎えた。


「ごきげんよう、英雄殿」


ベロニカの母君のカーテシーにルーファスは礼を取る。


「今日はお別れの挨拶に伺いました」


「あら、もう帰られるのですか?」


「はい」


「それで私にお話があるとのことですがいかがしたのかしら?もしかして、ベロニカのことかしら?」


「いえ、ベロニカのことではありません」


「では、なにかしら?」


「あなたのことですよ。母君」


ルーファスの言葉に沈黙が走る。


ベロニカの母君は無言のまま静かにルーファスを見つめる。


「座ってもよろしいですか?」


「・・・ええ」


沈黙を破ったルーファスはソファーに腰を下ろした。


「私に話と言うのは何かしら?」


「お人払いを」


「そう」


ベロニカの母君は側にいた使用人に目を配らせると使用人は部屋を退出した。


「これでいいかしら?」


「はい」


「では聞かせてもらえるかしら?」


「単刀直入に言いましょう。ベロニカを解放して下さい」


ルーファスは笑顔で話を切り出した。


少しの間の後、ベロニカの母君は微笑み返しながら話し出す。


「何を言うかと思えば・・・ベロニカを解放しろとはおかしなことをおっしゃるのね」


「それはあなたとベロニカしかわからないことでしょうね。でも、私はわかっています」


「わかっている?」


「ええ。あなたがベロニカを恨んでいることを」


再び部屋中に沈黙が訪れる。


ベロニカの母君から笑みが消えており、ルーファスを無表情で見つめ直している。


「否定はされないようですね」


「あなたに何かわかるのかしら?」


ベロニカの母君の声が冷え切った。


そこには明確にベロニカへの憎悪が垣間見える。


「あなたの御子息殿が亡くなったことは同情します。ですが、その原因を勝手にベロニカを理由にするのは理不尽ですよ」


「そうかしら?あの子が・・・ベロニカがあの強さがあったから息子は劣等感を抱いてしまったのはおわかりよね?」


「ベロニカの強さはもちろんわかっています。私も近くにいてその目で確かめました。ですが彼女の強さがなんだっていうんですか?」


ルーファスにはベロニカの強さなどどうでも良かった。


むしろ、ベロニカの優しさを見逃している目の前にいる母親が理解できないでいた。


「・・・何を言ってるの?」


ベロニカの母君はわかっていない。


「あなたはご子息殿をちゃんと見ていなかった」


「何を馬鹿なことを言うの」


「でなければ、どうしてご子息殿の遺言を隠した?」


「何故そのことを・・・」


ベロニカの母君が絶句する。


まさか隠していた事実を目の前にいるルーファスが知っているとは思わなかったのだろう。


「知らないと思っていたようですね」


「ベロニカが言ったの!!」


ベロニカの母君が溢れる感情を抑えきれず思わず立ち上がった。


「彼女が言うはずないでしょ」


「では・・・では、どうして知っているの!?」


「簡単ですよ。今のは私の嘘です」


「嘘ですって・・・」


「誘導してみたのですよ、どうせそんなことだろうと思って」


「だましたのね!?」


「それはあなたも同じじゃないですか。ベロニカに御子息殿の遺言をないと言ったように」


「あ、ああ・・・」


ベロニカの母君はその場に崩れ落ちた。


「ベロニカの話を聞いておかしいと思っていたんです。話の中に御子息の遺言の話など出なかった。ベロニカは御子息の遺言は見ていないのでは私は思った。すべてあなたから聞いた内容ばかりのようだったので。そう考えれば自然とあなたが御子息の遺言を隠したのだと私は気付くことはできるものですよ」


「そこまでわかっているとは・・・」


「あなたも酷い方だ。ベロニカ殿にシーウェル家を継がせることで私や騎士団が後ろ盾を得た上であなたの実家にいる男子を継がせる。ベロニカ殿は後見人となった頃には彼女を受け入れる男性などいなくなる。しかも、シーウェル家の親類の馬鹿息子を使ってベロニカの外見差別ルッキズムの噂を流したのでしょう?あなたのベロニカに対する恨みは奥深いものがあるのだとわかりましたよ」


ルーファスの言葉を聞いたベロニカの母君は涙を流しながら彼を睨み付ける。


「ただ、あなたが思うほど我々は甘くないですよ。あなたの思惑はそううまくはいきません」


「何を言うの?あなたとの結婚を諦めたベロニカはこの家を継ぐことになったのよ?」


「違うんです。あなたがそもそも考えが間違っているです」


「・・・それはどういうことでしょうか?」


「我々は養子殿を後ろ盾になることはありません。あくまでベロニカ殿のみです」


ルーファスの話を聞いたベロニカの母君はまだ理解できていない。


「それはどうして?そんなことないでしょ?ベロニカが後見人になれば自然とあなたたちは我が家の後ろ盾になるはずよ」


「あなたはもうお判りだと思っていましたが・・・」


ルーファスのため息が部屋中に響き渡る。


「わからないわ。どうしてそんなことを言うの?」


「理由は簡単です。ベロニカ殿はこの国の民衆のために命をかけて戦った」


「・・・それだけなのですか?」


「いけませんか?」


やはりベロニカの母君は理解ができないようだった。


ベロニカの功績などまったく気にしていなかった証拠と言えた。


「民衆のために命をかけて魔物や魔獣と戦う。それは簡単なことではないのです。彼女はこの国の民衆のため命をかけて戦った。我々にはそれだけで信頼に値するのです」


「それだけの理由で・・・そんな・・・」


ルーファスの前でベロニカの母君が顔を両手で覆った。


彼女にはルーファスや騎士団の意図など永遠に気付かないだろう。


・・・この母親も外見差別ルッキズムの犠牲者か。


だが、ベロニカの兄の遺言を隠してまでベロニカを苦しめたことは許されることではない。


「あなたは気付いていないようだがすでにベロニカ殿は養子殿が成人すれば後継人として跡を譲ると考えています」


「ベロニカが?」


ベロニカの母君は顔を上げて愕きする。


「彼女はあなたよりも先を見据えているのです。あなたはそれを邪魔したに過ぎないのです」


「わたしは・・・わたしは・・・ただ・・・」


ルーファスの前でベロニカの母君はただ声を震わせながら頭を抱えてしまう。


「遺言書はどこですか?」


「・・・あの本棚の中にある一番古い本の中にあります」


ルーファスは本棚に行くとすぐに目的の古本を見つけた。


その本を開くと茶色に色褪せた封があった。


「では、失礼します」


「・・・ベロニカに見せるの?」


ルーファスは足を止める。


「ベロニカには見せません。そんなことをすれば彼女の心が壊れます」


「・・・残念ね」


「では」


ルーファスは応接室を出た。


・・・最後まで恨みを抱いたままか。


ベロニカの母君はベロニカにこの手紙を見せるようルーファスを誘導しようとした。


そのためにわざと手紙のありかを教えた。


そのことだけでもベロニカの母君は娘に対して一矢を報いようとした。


・・・それだけにシーウェル家に対しする思い入れがあったのだろうか。


それとも息子への愛慕が飛躍してしまったからか。


その辺りはルーファスにはわからなかった。


ただ、この手紙だけは見せる訳にはいかない。


ベロニカをこれ以上傷つけることは許されない。


ルーファスは手紙を胸ポケットに入れると無言のままシーウェル家を後にした。



王都への帰国の日。


州境でルーファス一行とベロニカは別れの挨拶を交わした。


二人ともあの日の夜の庭園で話を終えていたので別れの挨拶以外は言葉を交わさなかった。


ルーファスたちは王都に向けて歩み出した。


「今回は残念です」


ラミアカーサがルーファスを気遣う。


「いいさ。ベロニカがこれで救われたのなら」


「でも、騎士団長はきっと新しい見合い相手を用意してると思いましうよ」


「だろうね。奥様が世話好きだから」


きっとジェローンの奥様は釣書を用意するために候補者選びに励んでいるだろう。


その様子を想像するだけでルーファスは苦笑するしかなかった。


「そう言えば、先輩に聞きたいことがあったんです」


「なんだ?」


「どうしてベロニカ殿は花園の騎士フラワーナイトと呼ばれたんですか?」


「そうです、そこは私も気になっていました」


オリオンサも同調する。


「そっか、二人とも知らなかったか」


ルーファスが頷きながら話を続ける。


「名付けは私なんだ」


「えっ、どういうことですか?」


「ある戦場にいた時、ベロニカが菜の花畑で花を摘んでいたのを見たんだ。その時、彼女の姿を見て美しいと思った私が周囲にいる者たちに対して無意識のうちに「花園の騎士フラワーナイト」と言ったらしい」


「なんですか、そのロマンティストな言動は」


「私もまさかそんなことを言ったとは思わなかったんだ。でも、ベロニカ殿は私の言葉を喜んでくれた」


「それはそれは・・・確かに見合い相手の最初に選ばれますよ」


「そうですね」


ラミアカーサもオリオンサも納得した。


「そう言えばルーファス様、祖母の方様に手紙は出しましたか?」


「あっ」


「ほら、やっぱしですか。知りませんよ、私は」


「帰り道に出すよ」


「そうして下さい」


オリオンサの話を聞き終えたルーファスが街道を振り返る。


すでにエトルリアは遠くにある。


・・・またお会いしよう、ベロニカ。


その想いを胸にルーファスは微笑みながら彼女との再会を願った。

ベロニカ・シーウェル編はこれで最後となります。

毒親の表現はあまり気持ち悪くないようにしました。

ベロニカの兄の遺言とベロニカの母君については次回の幕間で描きます。

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