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英雄騎士様のお見合い事情  作者: 宮城谷七生
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第1話 ベロニカ・シーウェル/エトルリアにてその1

最初のヒロインが登場します。

お見合いに関しては現代のお見合いに内容を合わせています。

ユリウス王国エトルリア州。


王都から旅路で1週間ほどの距離にあるこの場所にルーファスの見合い相手となる女性がいた。


ルーファスはジェローンの釣書をもらった翌日の朝にエトルリア州へ向かっていた。


出発前にルーファスは祖母の方様に挨拶をした。


「行って参ります」


「はい。でも、無理はしないでね」


相も変わらず祖母の方様は優しい笑みを浮かべながらルーファスを送り出した。


旅の表向きはエトルリア州への慰問にしていたので今回の旅には随員として同行者がつくことになった。


一人はルーファスの家宰であるオリオンサ・オリオンスともう一人は後輩騎士のラミアカーサ・ベルモンドが付き添っていた。


マコーマック家の家宰のオリオンサはともかく、何故か後輩騎士のラミアカーサは自ら今回の旅に同行を願い出た。


その理由は「なんか面白そうだ」と言う端的なものだったが、本当のところは異性との付き合いが苦手そうな先輩のために少しでも側にいてアドバイスでもしようと言う彼なりの優しさが理由であった。


ラミアカーサとしては戦いに優れているのに、異性に対して役に立たないルーファスが心配で仕方なかった。


ラミアカーサは騎士団に入団してから7年近くいつもルーファスの側にいた。


ルーファスが魔物や魔獣と戦う姿に尊敬の念を抱いていた。


それが異性の前になるとどうだろうか。


これまで多くの令嬢たちがルーファスと接してきたのに、この英雄殿は何故か令嬢たちにアクションを起こさなかった。


忙しいのはわかる。


騎士団の出動回数は多いし、特にルーファスが出動する日に限って大きな事件が起こっていた。


それでも令嬢からのお誘いの手紙は来ており、ルーファスも返信はしていた。


なのにだ。


令嬢たちとその後は続かない。


気に入った女性がいれば良いが、そんな話も一切出さない。


ルーファス曰く、「何を話せばいいかわからないんだ」と奥手なことを言い出した時はラミアカーサはびっくりしてしまった。


つまり、令嬢たちの返信も付き合いも成り行き任せで彼女たちに任せていたことになる。


そうなると令嬢たちもそんな態度を取るルーファスに戸惑ってしまい、その後は続かなくなるのは当然のことだった。


まさかのポンコツぶり。


この奥手ぶりでは婚期など逃して同然の結果と言えた。


だからこそ、ラミアカーサとしてはルーファスにこの見合いで頑張ってもらいたい。


ラミアカーサ自身、それなりに女性と交際もしてきたし今では婚約者もいる。


それだけにルーファスには早く結婚してもらわなければ困るのだ。


「しかし、先輩もようやく決意されたのは嬉しいです」


「うん」


ルーファスは気のない返事をした。


どうも実感のないように思えてならない。


「どうしたんですか?浮かない顔をして?」


「お見合いってどうするんだっけ?」


「えっ!?」


ラミアカーサは絶句した。


すぐに隣にいるオリオンサに目を向けるが、彼は「そういうことです」としか言わない。


「お見合いってどうすればいいんだ?」


ルーファスの質問に改めてラミアカーサはオリオンサを見る。


オリオンサは肩をすくめる。


「説明した方がいいの?」


「是非ともお願いします」


そこからかと思いながらラミアカーサはだいたいの流れをルーファスに伝える。


「いいですか、まずは世話人から指定された場所へ行って、相手と会ってからお互いに挨拶を自己紹介をします。その後は1時間ほど談笑とかしてもしお互いに次回も会うと同意したら次の日程をセッティングします。その後は食事に行ったり買い物とかしたりするんです」


「そこまでやらないといけないのか?」


困惑するルーファスにラミアカーサは呆れる。


「そうです!そこまでするんです!お見合いと言うのは第三者からの紹介で結婚相手にふさわしいかどうかを決めるんです!先輩みたいな態度だと相手は怒ってしまいますよ!」


「そ、そうなのか?」


「当たり前です。相手は先輩が伴侶に値するかどうか、それに相応しいかどうかを見てきます。それをそんな態度で臨むだなんて信じらせないですよ。絶対にやめて下さいね」


「わ、わかった」


「先輩、戦場にいる時とまったく違うじゃないですか・・・こっちが不安になりますよ」


やはり一緒に来て良かったと思うラミアカーサであった。


それはオリオンサも同じだった。


ルーファスの祖母の方様が何故、自分に対して旅に同行して欲しいか今回もことで理解できたのだ。


・・・ああ、この後も不安だ。


こちらも頭の中で非常に困るしかなかった。



ルーファス一行がエトルリア州に到着するまで、彼はラミアカーサたちからお見合いの話だけでなく女性に対してどう接するべきか講義を受けることになった。


旅の大半はその内容に費やされたので、エトルリア州に到着の頃にはルーファスは知恵熱、軽い微熱を出すほどだった。


「ああ、戦場の方が楽かも」


宿屋に着きすぐにベットで横になるルーファスは本音を呟く。


「そんなこと言わないで下さい。これもルーファス様のためなのですよ」


看病するオリオンサがルーファスを宥める。


「ラミアカーサは?」


「町の様子を見に行かれましたよ」


「さすがだな」


この辺りはラミアカーサは優秀な騎士である。


この町で見合い相手の評判など聞くのは正しい選択を言えた。


ただ、今回の見合い相手のことはルーファスは知っていた。


・・・彼女は元気だろうか。


「それまでは休んで下さい、相手側には事情を伝えましたから明日、体調次第ですがお昼に食事を兼ねてご挨拶しましょう」


「わかった」


そう言うとルーファスは軽く眠りについた。



夕方になるとラミアカーサが報告と見舞いも兼ねてルーファスを訪れた。


「先輩、色々聞いてきましたよ」


ラミアカーサは昼から街中を歩きながら、ルーファスの見合い相手の評判を聞いて来たのだ。


「ベロニカ・シーウェル殿ですが・・・」


「知ってるよ。別名、花園の騎士フラワーナイトだろ?」


その言葉にラミアカーサは「おっ」と声を上げる。


「お知り合いなのですか?」


「うん、昔ね魔獣討伐の際に一緒に同行した」


「じゃあ、ベロニカ殿の強さもご存じなんですね?」


「ああ。何度か訓練の際にも手合わせした」


「なるほどね・・・」


ラミアカーサはジェローンがどうしてベロニカを見合い相手に選んだのかすぐに理解できた。


今回の見合い相手は知った女性にすることでルーファスの緊張を和らげようとしたのだろう。


「まあ、見合い相手が知った人なら気負いしないって訳か」


ラミアカーサはジェローンの考えに納得して頷く。


「花園の騎士フラワーナイトは元気そう?」


「ええ。ベロニカ殿はエトルリアでは皆に好かれています。騎士としての評判も良いですし魔物退治の実勢もあります」


「そうだよね。彼女は強いもの」


「ただ、異性関係はまったく話がありません」


「そう」


「ご存じそうですね。やはり・・・見た目の問題ですか?」


「そうだろうね」


ルーファスはベロニカと出会った時期のことを思い出していた。


ベロニカと初めて会った時のことを。


あれは州対抗馬上槍試合のことだった。


彼女は他の男性騎士がいる中で、馬上槍試合で次々と勝利をしていた。


最後に当たったのは当時のルーファスであり、対戦の結果はルーファスが勝利したのだが、その凛々しいベロニカの姿がルーファスの脳裏に今でも焼き付いている。


外見差別ルッキズムってものはどこにもあるものさ」


そう、騎士であるベロニカは見た目が他の令嬢と違っていた。


彼女は男の平均的な身長ほどの高さがあり、兜を被るのに邪魔だと栗色の髪を短くしていた。


鎧を着こなすための筋肉も完成されており、その剣術も申し分ないものだった。


他の男性騎士も敵わないほどベロニカには強靭な筋肉と技術が兼ね備わっていた。


その一方で、彼女はドレスを着ることができなかった。


肩幅が広いためドレスを着る体型ではなかったからだ。


だから彼女はいつも男装をしていた。


社交界ではいつも同性の令嬢とダンスを踊っていた。


ある時、ルーファスはベロニカと共に魔獣退治に向かった。


その時の彼女の戦いぶりは素晴らしいものでルーファスも感心した。


そして、ルーファスはベロニカが兜を脱いだ時に汗を拭いながら短髪の栗毛を揺らすその姿に見惚れてしまったことがあった。


「どうかしたか。ルーファス殿?」


「・・・あ、気にしないで」


ぼうっとしているルーファスを不思議に思いながらベロニカが尋ねてきたので彼はその場で誤魔化した。


だからか、ルーファスはベロニカに対しては良い印象があった。


この事をラミアカーサに話すと、彼はこう答えてくれた


「普通に考えればルーファス様は異性を意識している証拠だと思いますよ」


「そうなのかな?」


「はい。場合によってはベロニカ殿に脈ありの可能性もあります」


ラミアカーサはルーファスの性格を理解している。


今の話を聞き限り、無意識のうちにベロニカに興味があると思っている。


ベロニカもこの見合い話を受けたのだ。


単純に考えればベロニカもルーファスに興味がある言う事だ。


「明日はちゃんと話しましょう。お互い知った仲なんですから」


「うん」


ルーファスはラミアカーサの言葉に頷いた。



翌日になり、ルーファスたちはベロニカの屋敷に向かった。


上司であるジェローンが二人の見合い場所をベロニカの屋敷にセッティングをしていたからだ。


「気負いしないで下さいね」


顔が緊張で強張っているルーファスを見て心配になったラミアカーサが声をかける。


「わかっている」


そう強がるものの、初めての見合いでルーファスは緊張していた。


「大丈夫かな、ホントに」


ラミアカーサとオリオンサにもその緊張が伝染してしまった。


・・・フォローできるか心配だよ


ベロニカの屋敷に到着したルーファスたちはシーウェル家の執事とメイドにより応接室へ案内された。


そこでしばらく待って欲しいと言われたのでルーファスたちは待機することになった。


10分も時間が経たないうちにルーファスが部屋の外に出ようとする。


「どこへ行くんですか?」


「顔を洗ってくる」


ルーファスは席から立ち上がるとドアの前へ向かう。


「一緒に行きましょうか?」


「大丈夫。一人で行くよ」


「わかりました。顔を洗ったらすぐに戻ってきて下さい。相手がいつ来るかわかりませんから」


「うん」


ルーファスはそのまま外に出ると、執事に部屋へ案内の際に教えてもらったトイレへと向かう。


洗面台で顔を洗いながらルーファスは冷たい冷水で心を落ち着かせる。


「ここまで来たし頑張ろう」


家のためにも、なにより祖母のためにも見合いは成功させたいとルーファスは覚悟を決めた。


トイレを出たルーファスは応接室へ戻ろうと廊下を歩き出した。


その時だった。


廊下の右角からドレスを着た大柄な女性が現れた。


栗毛を揺らすその後ろ姿に懐かしさを感じたルーファスは彼女に自然と声をかけた。


「ベロニカ殿?」


ルーファスの声に彼女は立ち止まるとすぐに振り返る。


栗色の髪が静かに揺れる。


「やあ、ルーファス殿」


栗色の髪の主はルーファスの姿を知ると優しく微笑んだ。

登場人物


ベロニカ・シーウェル・・・

ルーファスの最初の見合い相手。見合い場所はエトルリア

別名花園の騎士フラワーナイト。男装の麗人。栗毛が印象的。


ラミアカーサ・ベルモンド・・・

ルーファスの後輩騎士。同じ部隊であるため名目上は部下。

ジェローンを説得して見合いの旅に同行する。


オリオンサ・オリオンス・・・

マコーマック家の家宰。ルーファスに幼い頃から仕えている。

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