~妖に雇われ今日もバイトに勤しみます~
説話
昔々、人は闇を恐れていました。
正確には、闇に巣食う者…妖達を。
彼らは時に畏怖の対象であり、時に良き隣人であり、時に同志でありました。
時代が進むにつれ、光が溢れ、闇は追いやられ、いつしか妖たちの事は、人々の記憶からも追い出されてしまいました。
でも、光が強すぎて見えないだけ。気付いていないだけ。
ほら、あなたの回りにも…。
◇序章◇
「…はぁ」
花も散り、新緑鮮やかな葉が茂る桜並木をとぼとぼ歩く。
背後から差し込む陽によって伸びる影が、少しずつ長くなる様子を眺めながら、スマホを片手に自宅への道を進む。
「今日も友達、できなかった…」
僕の名前は結城真白、4月から縄筋高校に通う1年生だ。
不運なことに入学式に向かう途中で信号無視した原付バイクにひかれ、全治1か月の怪我で入院。
…原付バイクにひかれて3メートル吹っ飛ぶとか当たり所悪すぎるよね。
いや、良かったから吹っ飛んだ?
4日前からようやく学校に通えるようになったけれど、クラスは仲のいいグループが出来上がっていて入っていけず、1人。ボッチなう。
涙込み上げるこの状況。
別にコミュ障というわけではないのだが…なんとなく話しかけ辛い。
ぼとぼと、帰路につく中、視線の先に、古い石段が目に入った。
近くまで寄り確認すると、雑草だらけの細い道。
その先にあるのは、今にも朽ちそうな木でできた鳥居。
「…神頼みでも、しますかね」
ふらふら、と吸い寄せられるように道を逸れ、細い石段へと足を踏み入れる。
塗料のはげ落ちた、虫食いだらけの鳥居を見上げる。
きっと建てられた当時は色鮮やかな赤…色?
なんだっけ、中学時代に同級生の神社オタくんが鳥居はなんちゃら色って言ってた気がするけど。
一歩踏み出す。
「あーあー…なんだったっけ。毒って聞いて引いたのは覚えたんだけど」
出てきそうで出てこない。もやもやする。
もう一歩。
「水銀、と…硫黄」
真上に今にも落ちてきそうな、禿げた鳥居。
化合物の色…
もう、一歩。
踏み出した先は、確かに地面だったはずなのに。
「ぅあ?」
咄嗟に動けるのは訓練された人間だけなんだな~なんて、余裕なのか現実逃避なのか、遠退いていく鳥居を見つめながら思う。
叫び声すら上げられない。
「…あぁ、『丹色』だ」
落ちながら流れゆく走馬灯で見た、オタくんの嬉々とした顔で思い出せて、ちょっとスッキリした所で意識がフェードアウトした。
急な夜会議や仕事がなければ、しばらくは毎週日曜日に連載投稿していきたいと思います。
よろしくお願いします。