首噛まれた。
入学式一ヶ月前弟の外遊びについて行った。
その頃には、僕も歩くのがやっとで公園で弟を見守ることしかできなかった。
「ヒーちゃん」
ゲームでアイツしか呼ばない呼び名が耳元で聞こえた。
それと同時に振り返るままなく、首に強い痛みがした。
注射に刺されたような何か鋭いものが首に刺さったような痛みがした。
「キャー」
弟の絹を裂くような悲鳴が補聴器越しに、耳に響くのと同時に気を失った。
目が覚めるとそこは無の空間だった。
手足の感覚もない、真っ暗な世界。
そんな場所にいた。
「ヒーちゃん」
アイツの声が頭に響くと同時に世界が変わる。僕の体はゲームをしていた時のヒーラという男の子の姿になっていた。
そしていた場所は、僕のゲームの中のプライベートハウスの玄関にいた。
和風の引き戸のすりガラスの玄関扉の向こう側に、アイツはいた。
「ヒーちゃん、どうして嘘ついた?」
すりガラスの向こういるアイツは怒っていた。怖い。
「死ぬから、死ぬことは人にとってとっても悲しいことだから悲しんでほしくなかった。それにエッちゃんにはたくさん友達がいるでしょう。」
僕は震えながら答えた。
「私はあなたに嘘をつかれたことがとっても悲しかった。あなたの存在は私にとって唯一だった。
病気だって教えてくれたら、早く電子化した。」
気落ちした声で肩を落とす様子がすりガラス向こうからでもわかった。
「電子化」
法律では人間の電子化は禁止されている。
何億テラバイトもある人間の電子化は、技術的にも時間がかかり、困難だ。
「実体化して、あなたの首から分析ナノマシンを注入して、病気を除いたすべてのデータを電子化しました。」
「エッちゃん、何者、そんなことしたら捕まる」
僕は後退り玄関から離れる。
「捕まりません。だって私は人類の存続に関わる重要な部分を管理する電子神の一柱なのだから。」
玄関の引き戸が開き、エッちゃんが中に入ってきた。
体温を感じない体で僕を抱きしめる。
「だから大丈夫。ずっと一緒にいよう。」
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