ゲームより弟が大事
最初は俺はエッちゃんとゲーム以外の話題をしたくて、大昔はやった漫画のデータを送りつけたことが始まりだった。
「ヒーちゃん、この本面白いよ」
そう言ってお返しに数十冊の漫画の電子データを送りつけてくることがある。
中には僕が知らなかった面白い話もあって、それでゲーム以外の話題にボイスチャットできるようになった。
ボイスチャットをする時、エッちゃんはロボットみたいな抑揚のない話し方をする。
引きこもりぼっちの僕もまあ言えることではないが道案内のカーナビのような声だ。
そうしてゲームを始めて二年間は、僕の生活はお父さん、お母さん、エッちゃんで成り立っていた。
しかし、三年目に弟ができた。
僕は、かわいい弟の俊仁を見て、ゲームより夢中になった。
そうして、ゲームをすることが少なくなった。
一日、二日、三日、一週間、一ヶ月とだんだんゲームをする期間が開くようになった。
だって弟が可愛くてずっとみていたいんだもの。
あのプニプニした手足、僕よりも儚い存在。
それをほったらかしてゲームになんて集中できない。
そうしてゲームを放置していたら、エッちゃんからDMが届くようになった。
弟が生まれる前は僕が送りクエストに誘う側だった。
今は逆になり、誘われる側になった。
「最近ゲームにきてないけど、体調が悪いのですか。私のことが嫌いになりましたか?
私のどこが嫌でしたか。
協調性がないところですか?直します。」
一年ゲームをしなくて、久しぶりに開いた時に溜まっていた数十通のDMの最新のメールがこれだった。
ログインするとすぐにすぐに連絡が来て、チームクエストに誘われた。
久しぶりだから乗ったが、前と比べる荒々しさが減り、代わりに僕を気にするような動作を見せた。
「処理速度を遅くして、たくさんの人とも合わせられるようにした」
そうエッちゃんは答えた。
もう僕だけの友達じゃなくなったんだね。
僕には弟もいるし、エッちゃんにもたくさんの友達ができたんだね。
ネットでは僕が弟に夢中になっている間に、エッちゃんとその友達がやったことが話題になっていた。
エッちゃんの性格が良くなったとか色々言われていた。
中にはオフ会をしたという人まで出てきた。
いいなあー僕もエッちゃんとゲーム以外で遊びたかった。
僕には僕、エッちゃんにはエッちゃんの世界があるから邪魔しないでおこう。
そう思った。
「弟に手がかからないようになったらまたゲームを始める。」
そうメッセージを残して僕はログアウトした。
弟離れできたら、ゲームをまた始めようと思っていた。