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悪役令息の役目は終わりました  作者: 谷絵 ちぐり
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終了のお知らせ

パチンと泡が弾けるような、両手を打って乾いた音がするような、スッキリした朝の目覚めのような、そんな感覚が体全体を襲った。

そっと自分の手を見てみる。

男にしては白く小さい。

その指は細くたおやかで、爪は磨かれているのかつるりとしてピカリと光った。

グッパグッパと開いて閉じて開いて閉じて。

思うように体が動く。

両手を組んで天に向かってぐぐっと伸ばしてみる。

パキパキと小さな音が腰骨から背骨から響いてくる。

とても気持ちが良い。


周りを見渡すと自分の周辺だけぽっかり穴が開いたように人がおらず、前方には憎々し気にこちらを見つめる双眸があった。


「聞いていたのか?ルナリース」


声を発した男は大層見目麗しく、サイドに流した銀髪をかきあげた。

その男の隣には華奢で愛らしいという形容がぴったりな男がぶら下がっている。


「公爵家は早々にお前を見限ったぞ。貴族籍はもう抜いてあるそうだ。流石は宰相殿だな、仕事が早い」


愉悦に滲んだ男の顔には、おかしくて堪らないと書いてあるようだ。


「お前はもう、ルナリース・ジョルジュではない。ただのルナリースだ」


そうと決まれば、こんな所に用はない。

とっとと出ていこう、ルナリースは屈伸をして凝り固まったような足を念入りに伸ばし始めた。

準備運動は大事だからね、とルナリースは屈伸し、腰を落として片足づつ足を伸ばす。

ぴょんぴょんとその場で軽くジャンプしてみると、シャラシャラと鳴る。

音の出処である髪に触れて、それをむしり取るとなんと大粒のサファイアの髪飾りであった。

金細工も施してあり、小粒だがダイヤも散りばめられている。

売ろう、即決してジャケットのポケットに髪飾りをしまう。

ルナリースの一連の行動に唖然とする人々にルナリースは笑いかけた。


「それでは、皆さま。もう()()()お会いする事はないでしょう。私は私の役目を終えました」


そう言ってルナリースは中指をたて、もう片方の手であっかんべーとした。

静まり返る城内のパーティホール。

そうだ、今は学園の卒業パーティの真っ最中だった。

ルナリースは走馬灯の如く駆け巡る記憶の波をかき分けるように走り出す。


「衛兵!そこの扉を開けよ!!」


凛とした声音で命令する。

音もなく開いた扉。

そこ目掛けてジャンプして、衛兵の前をすり抜ける。


走れルナリース、お前はもう自由なのだ。

役に踊らされることなく己の意思で走るのだ。

騒めきを置いてけぼりにルナリースは走った。

とても気持ちが良い。

長い回廊の先、何やらかっこつけている男がいる。

背中は回廊の壁につけ、長い黒髪を無造作に垂らし長い足は片足だけ壁につけている。

極めつけは腕組みだ。


「ルナ・・・」


その前を颯爽と駆け抜ける。

何か言ったかもしれないが、関係あるかと足は緩めない。


「っ待て!待つんだ!!」

「待てと言われて待つ奴がいるものか!バーカバーカ!かっこつけ野郎!お前なんか大っ嫌いだ!」


長い黒髪は『麗しの黒騎士』とかいう寒い通り名を持つ男だ。

ルナリースを影に日向にと()()()()()()

そう、見ていただけだ。

今更なんの用だ、ふざけるな!!怒りに任せてルナリースは速度を上げた。


城外へと続く門にいる門兵は城内から駆けてくる麗しいルナリースに度肝を抜かれた。

ものすごい速度で髪を靡かせながら走ってくる。


「門兵!扉を開けよ!!」


命令に背く理由がない門兵は慌てて、人一人分が通れるくらいに扉を開けた。

そこをするりと通り抜けるルナリース。

夕暮れの中、ルナリースは疾走する。

己の人生を取り戻す為に。


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