序章
「おい玲子.......」。たった今、俺は愛人の玲子にめった刺しにされている。『愛して愛して愛しているは育浩』。
俺は消えゆく意識の中でこれまでの人生について思い返していた。俺には博文という双子の兄弟がいる。そして僕らはともに切磋琢磨しプロ野球選手という女性からモテまくる職業に就いたのである。
そして、そこからがこの双子の分岐点であり、崩壊の始まりなのだった。
俺は、神奈川ロッテオーシャンズというチームにドラフト1位で投手として入団した。俺は入団1年目こそ13勝5敗、防御率2.76とまずまずの成績を残したが、2年目以降は、目立った成績は残せずにいた。
私生活では、入団3年目で結婚をしたが、下降する成績とともに、素行も悪化し、妻に見放され、ただ一人愛してくれる玲子とのセックスに明け暮れた。そして今、俺の愛人は狂ってしまった。
一方の、博文は広島南洋ソースにドラフト3位で内野手として入団した。当時の広島は、『胃から汗をかく』といわれるほど厳しい練習で、博文は努力を積み重ねた。そして、年々成績を上げ、
今年は首位打者とゴールデングラブ賞を獲得した。
私生活では、愛妻家として知られ、テレビにもよく出演していた。
俺の人生はどこからおかしくなってしまっていたのだろうか。たぶん、年々成績を上げる博文に嫉妬し、自分を見失っていたのだろう。まあ、今更後悔しても意味はないか。俺は考えるのをやめた。
こうして、プロ野球選手清山育浩の人生は、家族に看取られるのではなく、愛人にめった刺しにされるという不名誉な形で幕を閉じたのである。享年28