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最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.21


 転がり落ちた首は、動くことはなかった。

 実際には数秒程度だったのだろう。

 俺はその首から目を離すことができなかった。

 そして、首を失った怪物の体が大きな音を立てながら崩れ落ちた瞬間、俺はようやく現実に回帰した。


「……終わったのか?」


 そう呟いた途端、視界内で刀を納めていた涼太がなにかに気付いたように慌ててこちらへと駆け寄ってきた。

「誠!! お前左肩から血が出てるじゃねぇか!!」

 その言葉で俺は左肩を確認した。

 見れば、涼太の言うとおり、シャツが不自然に赤く染まっていた。

 しかし、俺は慌てることなく涼太に笑いかけた。

「大丈夫。これは玲奈が俺の正気を取り戻すとかなんとかって理由で撃ち抜いただけだから。別に怪物の攻撃を受けた訳じゃないよ。多分、乱射の衝撃で傷が開いたんだよ」

「撃ち抜いたって……あのお前が持ってた電気が出る銃でか?」

「お前知ってんの?」

「知ってるも何も、あれを見せられたから誠の協力者だって言葉を信じたんだよ。……にしても怪我じゃないなら良かった〜」

 心の底から安堵したように、涼太はその場で尻餅をついた。


 ……そっか、これで全部終わりなのか。


 俺の目は再び動かなくなった怪物の姿を捉える。

 燃やすまでは絶対に安全とは言えないが、それでも首を落としたこの状態であれば最低でも一日は復活することは無いだろう。

 元は不老不死の秘薬として作られながら、何の因果かゾンビと化してしまう薬に変貌してしまった薬品。その薬品を飲んでしまった者の末路はとても痛々しいものだった。

 俺がこの男を撃たなければこの男はそもそも飲むことは無かったのだろう。だが、それに関しては後悔だってするつもりはない。

 幸せに暮らしていた何の罪もない家族に絶望を味わわせ、さらにその感情を利用したこの男を、俺は今でも許すつもりは無い。

 全ての元凶であるこの男は死んだ。

 後は二度とあの薬品が作られないように、薬品のデータを消すだけ……。


「それは我々の仕事だ」

 突然、聞き覚えのある声が聞こえ、俺は意識をそちらへと向けた。

 そこには先程までの傷や汚れが綺麗さっぱり無くなっていた胡蝶玲奈が凛とした立ち姿で立っていた。

「データやこの遺骸の処理は我々がやっておく。君達の手をこれ以上借りるつもりは無い」

「あっそ、ならちょうど良かった。俺はあの怪物に機械でぶん殴られたうえに無茶したせいでどっかの誰かさんに撃たれた傷が開いてめちゃくちゃ痛いんだよ」

「そうか」

「おい、少しは心配する素振りでも見せやがれ」

「それでなんだが……」

「無視かよ!!」

「まぁまぁ」

 涼太が笑いながら落ち着かせようとしてくるが、俺ももはや怒る気力すら湧いてこない為、玲奈の話を黙って聞くことにした。


「今回、君達が事件を解決してくれたお陰で未来は変わった。今後どんな未来に向かっていくかについては言わないが、少なくともあの世界よりは遥かに良いものになっているとだけは言っておこう」

「……そっか、それなら俺も頑張った甲斐があるってもんだ」

「また、今回の件は色々と厄介な存在が関わってきている為、後の処理はこちらで行っておく。また、滝井三春への説明は済ませてある。当然、被害者であり、我々のせいで迷惑をかけた以上、彼女が叶えてほしいと言ってきた要求は飲むつもりだ。」

「三春が? なんて言ってきたんだ?」

「それを答えるつもりはない。女性同士の秘密というものだ」

「いや、玲奈は器なんであって、別に中身は女じゃないだろ」

「それはどうかな? 我々は総称だと言ったはずだぞ?」

「はぁ? それはどういう――」

「ともかく、彼女の頼みに関しては聞き入れるつもりだ。君達も望みがあるのであれば我々に叶えられるものであれば応えるぞ?」

「そのことなんだけどさ、この事件が終わったら俺の記憶を消すって話だったよな?」

 そう告げたのは、俺の横で話を聞いていた涼太だった。

「そのつもりだ」

「じゃあ俺のは消さないでくれ」

「どういうことだ?」

 涼太の言葉が理解できなかったようで、玲奈は不思議そうに首を傾げた。

「確かに三年後の世界の記憶は辛いものばかりだけどさ、それでも楽しかった記憶は少なくないし、何より誠と出会えた。記憶を消せば、思い出も消えるんだろう? だったら俺はこのままの方がいい」

「俺も涼太と同じ気持ちだ。忘れてしまいたい記憶は確かに俺の中に存在する。それでも今は、涼太や皆のことを忘れたくない」

 俺と涼太の言葉を聞き、玲奈は迷っているような素振りを見せた。だが、すぐに結論を出した。

「……そうか。それが君達の意思だと言うのであれば無理強いするつもりは無い。ただ、一応言っておくが、この器である胡蝶玲奈は記憶を消して欲しいと望んだ一般人だ。我々が帰ると同時に彼女を元の居場所に戻すが、彼女に君達と過ごした記憶は存在しない。肝に命じておくように」

「はいはい、わかっているよ」

「それから……」

 まだあるのかよと文句を告げようとした瞬間、突然、目の前にいた玲奈がぐにゃりと歪んだ。

「誠? 誠!!!」

 そして、強烈な眠気に抗うことができなかった俺の視界は、そのまま暗転してしまった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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