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最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.18


「…………はぁ!? 準備が出来るまでの数分間を俺に任せるだと!?」

 涼太の提案は流石に無理だと断言出来るような内容だった。


 俺は空手を習っていたとはいえ、所詮は武道から手を引いた身だ。大島隊長達に鍛えられていた三年後のあの肉体でも手が出なかった相手に、この状態の俺が対処出来るとは到底思えない。

 走行中のトラックの前に飛び出せって言われた方がまだ生存の見込みがあるってものだ。


「まぁ聞け。別にあいつを殺せって無茶を言ってる訳じゃないんだぞ?」

「それでも無理があるだろ!!」

「とは言っても、俺の剣技は人を斬る為の技だからあんな化け物相手に何の準備もなく攻撃したところでたかが知れてるんだよな。それに、さっきからぎりぎりの戦いをし続けて疲労が溜まってるんだ。調整さえ終われば、一太刀で仕留めてやるよ」

「だったら今の内に調整しときゃいいだろ。あの怪物はなんか近付いたり攻撃したりしなきゃ周りの物を壊すことに夢中になるみたいだし」

 

「それが問題なんだろうが。俺が攻撃をすれば、あいつは俺に対応してくる。そんな状況じゃ仕留めるまで持っていけないんだよ」

「じゃあなにか? お前は俺に、あの大島隊長よりも厳つい怪物と至近距離で戦ってお前へ意識が向かないようにしろって言うのか!!?」

「誠の危機察知能力と動体視力は人並み外れた一級品だ。そうでなければ、俺の剣技をことごとく避けるなんてできないからな」

「だが、それは三年後の俺であって今の俺じゃ……」

「出来るさ、俺だってただあの怪物と戦っていた訳じゃない。お前の動きを見て、お前が撃てるタイミングを作ってたんだ。そんな俺がお前なら怪物に対応出来ると見た。だからお前なら出来るよ」

 その言葉が、俺の中に残る真新しい傷を抉り、俺は言葉に詰まった。


「……どうしてそんなに信用出来んだよ」

「……誠?」

「お前は俺のせいで死んだんだぞ!! 俺が弱かったせいで、俺が油断していたせいでお前は死んでしまったんだぞ!!! そんな俺がお前の期待に添えると、本気で思ってんのかよ!!!」

「あぁ、思ってるよ」

 涼太の表情を見れば、彼は一切の迷いが無いような微笑みをこちらに向けていた。その表情を見た瞬間、俺の頬から雫が滴り落ちた。


「……どうしてだよ……しくじった俺を庇いさえしなけりゃ涼太は……」

「誠が言ったんじゃないか」

「俺が?」

 衝撃で顔を上げた俺に、涼太は続けた。

「お前を庇ったから死ぬとか、お前が油断しなけりゃやられずに済んでいたとか、それこそ考えるだけ無駄だ。あそこで誠を見捨てたら、間違いなく誠は死んでいた。それだけは絶対に嫌だった。ただ後悔したくないから、俺はあの時、お前を庇ったんだ。だから、あの時取った行動に後悔なんて無いし、お前に恨みなんてこれっぽっちも無いよ」

「涼太……」

「そりゃもちろん、俺だって生きたかったさ。隊長や先輩からのしごきは確かにきつかったけど、それでもあのチームにいられたあの日々は俺にとってかけがえの無いものだった。叶うことならずっと皆と一緒にいたかった。……でもさ、そこには誠も居たんだ。共に叱られ、共に笑い、時には共に泣き、幾度となく喧嘩した。性格も戦方もなんもかんも正反対、それでも、戦場に立った時、お前が隣に立ってくれているだけで、俺は後ろを気にせずに戦えた。だから、この最後の戦場も俺はお前を全面的に信じる」


 俺は自分自身が弱いとよくわかっている。

 長時間戦う体力も無いし、銃を自在に操る技術力も無い。だが、俺の中にいる俺が告げる。

 今まで何度も何度も死地を共にし、命を預けた仲間が俺の力を認め、今まさに、俺の助けを求めている。

 それに対する答えは一つだけだ。

「……いつも通りだ。お前が全力を出せるように、その傷害は俺が取り除く。絶対に見逃すんじゃねぇぞ」

「そうこなくっちゃな」


 恐怖が無いと言えば嘘になる。


 だが、涼太の存在が、俺に立ち上がる勇気をくれた。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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