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最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.16


 三春を見送った俺は、涼太と怪物の方に目を向けた。

 怪物と戦う涼太の動きは、やはり三年前に比べれば鈍いと言わざるを得なかった。

 当然といえば当然だろう。

 いくら記憶の中に大島隊長にしごかれた訓練の日々があろうと、それは三年後の俺達がしてきた訓練なだけで、今の俺達にはその経験が無い。

 あるのは知識だけで、今の俺の近接戦闘力じゃ邪魔になるだけだろう。

 だが、拳銃の扱いに関して言えば、その限りでは無い。

「てか、それでもあの怪物を押さえてるって涼太やばすぎだろ。……もうあいつ一人でいいんじゃね?」

「ざっけんな!! こっちはてめぇがいちゃこらしている間も戦ってやってんだぞ!!」

 まさかこの距離で聞こえているとは……

「てか、別にいちゃこらしてた訳じゃ……」

「んなこたどうでもいいからさっさと加勢しやがれ!!」

 涼太の怒鳴り声から察するに、どうやら本当に余裕は無いようで、俺はとりあえず彼が休む隙を作れそうな道具を辺りから探すことにした。

「そういや、こういった建物って法律かなんかであれの設置が義務付けられてたはず……おっ、あったあった」

 俺は戦闘でゴチャゴチャになっている室内の中で目当てのものを見つけると、それがある場所まで急いで向かった。

「……これどう使うんだ?」

 俺はいざ消化器を持ってみて、その使い方に悩む。

「確か消化器って一回しか使えないんじゃなかったっけ?」

「急げ!!!!」

 もはや怒気が強すぎて急げと思しき言葉にしか聞こえないが、それが逆に俺を焦らせた。

「あ~っもうめんどくせぇ!! とりあえず涼太下がれ!!!」

 大声で指示を出し、涼太が下がるのを確認する前に俺は消化器をぶん回し、怪物めがけて放り投げた。

「バカッ!! 高すぎんだろ!!」

 ちょっと遠心力が働きすぎて上に行きすぎたが、別に当てることが目的では無い。近くにあるだけで充分だ。

「動く的に当てるのは投げるのより得意なんだよ」

 銃に入っていた二発の銃弾が俺の狙い通りに飛んでいき、消化器に穴を開けた。

 次の瞬間、怪物の体は白い煙で包まれた。

「これで少しは時間が稼げるといいが……」

「まだ油断すんなよ。あいつが目で獲物を捉えるとは限らないんだからな」

「わーお、お前の口から油断すんなという言葉が出るなんて驚きだ」

「冗談言ってる場合かよ!!」

「わかってる。俺もお前も確かに弱体化してるせいでいまいち動けてねぇ。おまけに外へと出すことも許されず、怪我も当然不可。ただ、嬉しいことにスピードは三年後程じゃない。おそらくあのデカいゾンビは元が猿かなんかだったんだろう。猿顔だったし」

「……だから?」

「簡単な話だ。人間のゾンビで威力が高く、死ににくい。その程度なら俺達は何度も屠ってきただろ?」

「いや、あいつはレベルが……」

「わかってるよ。あいつが他と桁違いなことくらい……だからなんだ? それが俺達の後退する理由になるとでも? 違うだろ。例えどんな状況においても油断せず、目の前にいるゾンビを確実に滅していく。それが俺達に課せられた使命だ。今回もいつも通り目の前にいるゾンビを殺し、二人で笑って帰路に着く。だから、お前は思う存分突っ込んでこい。俺が今度こそ、最高の援護をしてやる」

 拳銃のリロードを終えると同時に、涼太がため息を吐いて俺の一歩前に出た。

「俺に当てたらお前の首を斬ってやるからな」

「ははっ、お前が一回でも俺の弾に当たったことがあるかよ」

「ふっ、そうだったな」

 表情に小さく笑みを見せた涼太はその言葉を最後に、ゾンビの方へと突っ走っていってしまった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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