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最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.14


 俺の前に立っていたのは、三年後の世界で共に戦場を駆けた戦友だった。


「どうして涼太がこんなところに……いや、そんなことより久しぶりってなんだよ。俺が涼太と初めて会ったのは二年前……いや、今が三年前の世界だから一年後か?」

「時系列的にはそんぐらいじゃね?」

「いや、そうじゃねぇだろ。少なくともこっちじゃ知り合いですら無かったじゃねぇか!! それなのになんで俺のことを知ってるんだよ!!」

 そう、涼太と親友だったのはあくまで三年後の世界で、こっちの世界では知り合いにすらなっていなかったはずだ。

 だが、目の前の涼太は明らかに友人のように接してくる。

 一瞬、タイムスリップでもしたのかとも思ったが、茶髪だったあいつが黒髪になっている以上、それはないだろう。

 別人の線も、絶対にありえない。

 それは、命を奪った俺が、断言出来た。

 しかし、涼太は俺の予想を遥かに超えた答えを告げてきた。

「それな。俺も正直なにがなんだかわかんねぇんだよ。夜中にめっちゃ美人でおとなしめの子にラブレターを渡されたと思ったらなんか死ぬまでの記憶っていうの? それが脳裏に刻み込まれた感じ? そんで、あの地獄絵図みたいな世界を回避したいから協力してくれって言われたけど、俺って一応死んだ後じゃん? 気持ちを整理させる時間が欲しいって言ったのにいきなりこんな早朝に電話してきたからなんだろって思ったら、誠が助けを求めてるって言うじゃん? なら行くっきゃねぇってなった訳」

「そ……それでここまで来たのか? 俺はお前を死なせた原因じゃ……」

「だから?」

「だからっておまっ」

「それが死地を共に乗り越えてきた親友を見捨てる理由にはならないだろう? 俺は確かにあの美女が言ってきた言葉を全部信用出来た訳じゃない。それでもお前が危険って話なら、例えどこに居ようとすっ飛んでくる。それが相棒ってもんだろ」


 そう言って拳を突き出してきた涼太に対し、俺は、そうだな、と笑みを向けながら拳を合わせた。

 すると、横から三春がおずおずとした様子で声をかけてきた。

「誠、この人は?」

 その質問に答えるべく、俺は三春に涼太を紹介した。

「三春、こいつは俺の相棒の河津涼太だ」

「よろしく〜」

「よ……よろしくおねがいします」

「涼太、彼女が滝井三春、三年後の記憶を持ってるなら知ってるとは思うが……」

「あれだろ? お前が任務中に必死で探してた女だろ?」

「そうだ。一応吉乃ね……吉乃さんの従姉妹(いとこ)にあたる」

「あの女医さんの? そういえばさっきそこの廊下にその女医さんっぽい人が気絶させられて縛られていたんだけど……」

「それ本人な。きっと玲奈の仕業だろう。さっきそいつに操られてたっぽいんだよね」

 倒れていた薄墨の方に親指を差すと、彼はフラフラとした足取りで今にも立ち上がろうとしていた。


 電気銃を食らったうえに背中を斬られたというのに立ち上がるとは……魔術師ってここまでタフな存在なのか?


「クソっ、人除けを突破したということはあの女の関係者って訳か!!」

 まるで親の仇を見たかのような憎悪に満ち満ちた顔で、薄墨はこちらを睨んできた。

 その、自分が被害者かのように思わせる表情が、俺はただただ気に食わなかった。

「お前達だけは絶対に――」

 薄墨の文句が言い終わる前に、俺は床に落ちていた拳銃を拾い、一切躊躇うことなく彼へと二発の弾丸を放った。

「うっっ!?」

 左の太ももと右腕から赤い鮮血が舞い、薄墨の身体は衝撃に耐えきれず、そのまま床に倒れた。

 その倒れ伏した姿を見た瞬間、俺の口から自分のものとはとても思えない程の、憎しみで満ちた声が出た。

「おい、何寝てんだよ……言っておくが、これで終わりじゃないぞ。お前が立てた変な計画に巻き込まれたせいで三春は大好きだった母親を失ったんだ。お前が人間だとか魔術師だとか関係ねぇ。俺はお前に死ぬのも生温いとも思えるような地獄を味わわせて、殺す。だからまだ死ぬんじゃねぇよ」


 再び二発、銃口が火を噴いた。

 薄墨はとても演技とは思えないような苦しみと痛みに満ちた悲鳴を上げた。


 あの出血量だ。


 後は放っておくだけでも出血死することだろう。


 だが、まだ許すつもりは無い。


 この男が薬をおじさんに開発を手伝わせなければ、あの未来は無かった。


 三春が死ぬ未来もなく、多くの人達がこれまでのように平穏に暮らせていただろう。


 中には両親を殺された者もいた。


 中には恋人を殺された者もいた。


 中には自分の子どもを殺された者もいた。


 共に戦い、背中を合わせ、死地を潜り抜けた仲間も、俺は目の前でなにをすることもできず、殺された。


 まだ起こっていないから許されるのか?


 こいつを生かせば、あの未来が消えることはない。


 あの未来を再び体験するくらいなら……俺は殺人という汚名を被ることも躊躇わない。


(そういえば玲奈が誰かに嫌われるかもとかなんとか言ってたな……こういうことか)

 俺は既に動く気配の無い薄墨の額に銃口を向けた。

 俺の心はこれから殺人を犯そうというのに、不思議と穏やかな感じだった。

 そして、引き金を引こうとした瞬間、その腕に横から手が置かれた。

「……なんのつもりだ、涼太?」

「やめとけ、それはお前がやるべき仕事じゃない」

 涼太の方を見れば、彼は真剣な眼差しで俺の方を見ていた。それだけに、俺の怒りは爆発した。

「こいつのせいで世界はああなったんだぞ!!! お前がゾンビになった母親をその手で殺さなくちゃいけなくなったのだって、元はといえばこいつのせいだし、お前だって!!」

「わかってる。だからお前じゃなくて俺がやるんだ」

「…………は?」

「玲奈って子から聞いてる。お前はこの一年、夢を見る度にあの世界を体験してきたそうだな。それが辛く苦しいものだってのは俺が一番よくわかってる。……俺の死も、きっとお前を苦しめたんだろ? だから、俺はお前にこれ以上苦しんでほしくないんだ。それに見てみろよ」

 涼太に促されるまま、俺は三春の方を見た。

 彼女は先程までとは違い、俺を怯えるような眼差しで見ていた。

「これはその……」

 彼女の目を見た瞬間、俺は言い訳がましく言葉を発そうとした。だが、それより先に、三春は首を振った。

「ううん、わかってるの。誠はなにもできない私の代わりに怒ってくれてるんだよね。でも私は……誠にそんなことしてもらいたくないよ」

 三春の目から流れる涙を見て、俺の手から銃がするりと床に落ちた。

 その姿を見てか、三春は俺の胸に飛び込み、俺もそれを優しく抱きとめた。

 「あいつに恨みがあるのは俺だって同じだ。でも、お前にはその子がいるんだろ? あの世界でその子のことを三年も探し続けるくらい好きなんだろ? だったらそんな子の前で人を殺しちゃだめだろ」

 そう言いながら、涼太は左手に握っていた日本刀を鞘に入ったまま腰につけた。

 そして、完全に準備を終えた瞬間、彼の眉がピクリと動いた。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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