最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.11
「玲奈!!」
「おっと、動かないでください?」
三春に向けられていた弾切れの拳銃がこちらに向けられる。
そんなものが脅しになるはずもなく、俺は近接で攻撃するべく動こうとした。
「動くなと、そう言いましたよね?」
薄墨の顔が露骨ににやつくと、俺は猛烈に嫌な予感を感じとった。だが、時既に遅く、彼の手に握られた拳銃の引き金が引かれる。
だが、飛んできたのは、弾丸などではなかった。
「ぐっ!!?」
突然、左腕に衝撃波を受け、強烈な痛みが俺を襲う。
拳銃で撃たれた時と遜色ない痛み、だが、服は破られていない。おそらく先程の空気盾みたいなやつと似たような代物なのだろう。
だが、重要なことはそこでは無い。
これをもし、頭に受ければ、俺の意識は一瞬で消し飛んでいただろう。
ましてや弾数を数える行為も意味を成さない。
俺は撃たれた左腕を押さえながら、薄墨を睨みつけた。
薄墨はそんな俺からの視線を見て、心地良さそうな笑みを向けてきた。
「そうそう、動きは学生のそれとは違うようですが、所詮子どもは子ども、こうすれば手も足も出ない訳ですよ。お~っと、三春君、君も彼みたいになりたくなければ早く薬を拾って私の元に持ってきなさい」
横をちらりと見れば、三春は心配そうな面持ちでこちらを見ていた。
「三春、俺は大丈夫だ。だからお前はおとなしくしているんだ」
正直なところ、今にも涙目になりそうな痛みではあったが、俺は三春を不安にさせないように堪えながらそう告げた。
そして、俺は薄墨を睨みつけながら、こう告げた。
「俺が取りに行く。それでいいだろ?」
「かっこいいですね〜。いいでしょう。君が拾いに行きなさい。ただし、割ろうとしたり飲んだりしてはいけませんよ」
「誰が飲むかってんだよ……」
俺はボソリとその言葉を呟いてから、薬が落ちている場所に向かった。
さて、どうしたものか。
不意をつかれた可能性があるとはいえ、玲奈の戦闘力は俺を遥かに凌駕する。少なくとも近接戦闘においては三年後の俺ですら敵わないと思える強さを持っていた。
そんな玲奈があっさりとやられる実力を、あの薄墨とかいう男は持っている。しかも、洗脳や変なバリアみたいなものも使えるときた。
対するは空手を多少やっていたくらいの実力しかない高校生。常識的に考えて無理寄りな対面だ。
だが、無理みたいな状況なんて、あっちでは日常茶飯事だった。
あの薬をおとなしく渡せば、世界は間違いなくあの未来へと至ることになる。
それだけはなんとしても避けたい。
そうこう考えているうちに俺は薬の元まで歩ききってしまい、そこに落ちていた薬入りの注射器を拾った。
「これが欲しいんだろ?」
「ええ、早く渡してください」
「その前に聞きたいんだが、この薬はいったいなんなんだ? お前はさっき、三春の母親である静香さんを殺してまでこれをおじさんに作らせたと言ったな? 何故そこまでする必要がある? だいたいお前は何者なんだ? 催眠は……まぁ、なんとなくわかるがあのバリアみたいなのや拳銃から放たれたあの衝撃波みたいなものに関してはまったくわからないんだが……」
「質問が多いですね。だいたい質問出来る立場かどうか考えてものを言いなさい」
確かにその通りだが、ここで素直に渡せばこの男は間違いなく俺達を殺し、雲隠れをするだろう。
薬を壊してしまうことも考えたが、こういった薬ってデータかなんかが保管されているだろうし、結局は無意味となるだろう。
あの未来に万が一にも繋がる可能性は出来る限り排除していきたい。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。




