最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.10
(くそっ!! いったいどうなってる!!)
鳴り続く銃声のせいで、俺は撃っている奴の顔を見れない。
手元には九発の弾が込められた拳銃があるものの、こう連射されると撃ち返すこともできない。
いったいどうすればいいかと考えていると、聞き慣れた弾切れの音が聞こえて来た。
「ん? 弾切れか? やっぱり拳銃は使いにくくて困るな」
「え?」
聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた瞬間、なにかに気付いたのか三春が堂々と姿を晒し、激しく動揺した姿を見せた。
だが、そんな彼女を放っておく訳にはいかなかった。
もし、弾切れというのが本当だとしても、予備の弾倉や銃を持っている可能性は充分にあるからだ。
俺は急いで三春の盾になるよう立ち上がり、ついでにその撃ってきた相手に向かって拳銃を構えた。
そして、その撃ってきた相手の姿を見て、やっぱりかという感想を抱いた。
玲奈は吉乃姉が洗脳されていたと言っていた。
それが本当だと言うのなら、出来る人間は限られてくる。
ビルの前で会った際、吉乃姉は一人の男性と共に、俺達から少しの間、離れていた。
「……やっぱりあんた、普通の警備員じゃなかった訳か」
俺が向けた視線の先、そこに立っていたのは、左手でなにかを引きずっている様子の警備員だった。
「多少まともに動けたとしても所詮は学生風情、通したところで何が出来る訳でもないだろうと思っていたが、どうやらその判断は誤りだったようだな……おや?」
警備員の男がなにかに気付いた様子を見せた直後、三春が震えた声で衝撃的な事実を告げた。
「こ……こんなところで何してるんですか? 薄墨先生」
その言葉に俺は思わず警備員から目を離し、三春の方を見てしまう。
彼女は青ざめてはいるものの、錯乱しているようにはとても思えなかった。
「おやおや、洗脳が解けてますね。残念」
薄く開いた目で笑みを浮かべながらも、その言葉を否定するどころか受け入れたことで、俺は溢れんばかりの怒りと殺意を無理矢理押さえつけながら、どうしても聞かなければならないことを、彼に聞いた。
「おいあんた……さっき三春を洗脳したって言ったな?」
その質問を聞いた瞬間、彼は露骨ににやついた。
「ええ、そこに倒れている研究者の実験に抵抗しないよう少々弱めの洗脳を施しました。それがなにか?」
「さっき吉乃姉が銃を向けてきた時、相方が洗脳をかけていると言っていたが、あれもお前の仕業か?」
「ええ、彼女の白衣に盗聴器を仕込ませていただきました。あなた方の目的を聞いた以上、あなた方を生かしておく訳にもいきませんのでね。まぁ、所詮は戦闘能力皆無の研究者、あっさりと返り討ちにあうとは、本当に使えませんね」
その答えに歯を軋らせるが、俺は溢れそうになる怒りを再び押さえつけ、最後の質問に入る。
「最後だ。おじさんに薬を作らせたのはお前か?」
「ええ、彼の奥さんを殺し、この数年間、弱った心に付け入らせていただきました」
その回答を聞いた瞬間、俺は引き金を引いていた。
だが、腕や足の関節部を狙った弾丸は、不思議なことに、空中でなにかに防がれ、威力をなくした弾丸達は、そのまま床に落ちていった。
「…………は?」
目の前で起きた信じられない光景を見て呆気に取られていると、人をバカにしたような笑い声が前の方から飛んできた。
「いや〜やっぱりマヌケが呆気に取られた時のアホ面は何度見ても良いな! 実に面白いものを見せてもらったが、私にもあなた方に構っている時間はありません。三春君、そこに落ちている薬を持ってきてはくれませんか?」
弾が入っていないはずの拳銃を怯える三春に向けた薄墨とかいう男は、おじさんが落としてしまった薬を取ってくるよう命じてきた。
だが、それに従おうとした三春を俺は腕だけで制止する。
「悪いがその薬は誰にも渡せない」
「へぇ……君もやはりその薬が目当てでしたか。ですが、これを見ても同じことを言えますか?」
薄墨とかいう男はにやけながら左手で引きずっていた存在を俺達の前に晒した。
それは、ぐったりとした様子の胡蝶玲奈だった。
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