最終話:我が夢が、桜の如く、散る中で、立ち塞がるは、もののふ二人.3
「くそっ!!」
苛立ちをぶつけるように、繋がらなくなった携帯電話をベッドに投げつける。
だが、その行為で何かが解決する訳ではない。
俺は椅子に座り、どうすべきか考えを巡らせる。
「十中八九間違いないとは思うけど、主任がおじさんのことなら間違いなく手伝いって薬の研究に関してだよな……」
あっちの吉乃姉が言うにはおじさんの目的はどうにかしておばさんを蘇らせ、再び三人で幸せに暮らすことだった。つまり、まだ人体で実験をするつもりは無いのか……だが、もしもマウス実験とかしてて、運悪く研究員の誰かがねずみに引っかかれでもしたら?
ありえないかもしれないし、単なる思い違いなのかもしれないが、もしもこの件がきっかけでゾンビが発生するようなことがあった場合、俺は絶対に後悔するだろう。
「……今すぐにでも実験を止めるべきだな」
そう思い、出かけようとした時だった。
ベッドの上に転がっていた携帯電話が誰かからの着信を知らせてきた。携帯電話を拾い、画面を確認するが、そこには見知らぬ電話番号が表示されていた。
訳がわからなかったが、俺はとりあえずその電話に出た。
「もしもし?」
「誠君、君は今なにをしているのかな?」
電話から聞こえてきたのは、胡蝶玲奈の声だった。
そういえばあいつ、昨日はいったい何時に帰ったんだ? 俺の記憶が遠くなるまで家に居たと思うんだが……まぁいいか。考えたって無意味だし。
「まだ家にいる。ちょっと吉乃姉に電話しておじさんの番号を聞こうとしていて……」
「君が言うおじさんというのは滝井神代で相違無いか?」
「ん? そうだよ。研究をやめてくれないかと相談しようと思って……」
「彼なら先程息女の滝井三春と共に社内へと入っていったぞ」
「はぁっ!!? お前今どこに!!」
「滝井吉乃から聞いた情報を頼りに滝井神代の務め先に赴いている。中には入っていないが、夜になったら侵入するつもりだ」
三春が研究所にいる?
それはつまり、三春がいるその場で危険な実験が行われるってことなのか?
「…………それじゃ間に合わないかもしれない……」
「……どういうことだ?」
「吉乃姉から聞いたんだけど、おじさんは今日、なんかの実験をするつもりらしい」
「……なるほど。曖昧な情報ではあるが、時期的に例の薬品実験の可能性は非常に高いだろうな。わかった。現在地をメールに添付する。君も急いでこちらに来てくれ」
「わかった。俺も急いでそっちに行く」
電話を切ると、すぐに一件のメールが届いた。
俺はそこに記された住所を見てから、急いで家を出ることにした。
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