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5話:秘められた、世の真実は、そば近く、そこに秘めるは、一人の最期(前)6


 少女は泣いていた。

 電気を消した自室のベッドで、布団にくるまりながら静かに涙を流し続けていた。

 食事もとらず、八時間もの間、泣き続けていた。


 精神的なダメージを負い、塞ぎこんでしまった幼馴染みの食事を作るべく買い物に行った帰り道、滝井三春は先程まで塞ぎこんでいた筈の櫻木誠が見知らぬ美少女と共に歩いているのを目撃してしまった。


 声をかけ、何をしているのかを問い詰めることも出来なかった。


 この言い知れぬ怒りを、彼にぶつけることも出来た。


 だが、それでも三春は目の前の光景から逃げた。

 彼はそんなことをしない。彼は絶対に自分を裏切るような真似はしないと信じたくて、彼女はその一歩を踏み出すことが出来なかった。

 だが、彼女は己の行動を後悔していた。

 もしかすると、急に正気を取り戻した彼が空腹を感じ、外に出たところで、あの女性に声をかけられ、道案内をしていただけなのかもしれない。

 もしかすると、昔の彼の友達で、偶然出会って話し込んでいただけなのかもしれない。

 一瞬でも彼を疑った自分がただただ許せなかった。

 彼はそんなことをするような人じゃないとわかっていたはずなのに、何の確認もせずに疑ってしまった自分が許せなかった。


 三春は布団から出ると、時計を確認した。

 時計は既に九時を過ぎていた。

 彼女は目元を腕で拭い、着ていた制服を正し、急いで髪を整えた。

 そして、全ての準備が終わった彼女は、大きく深呼吸をしてから、彼の家に向かった。


 彼の住むマンションについた彼女は、いつもと違い、部屋番号を入力して彼の部屋に繋いだ。だが、いくら待っても応答はない。

 どうやらもう寝ているようだ。いや、彼女もそうだろうということはわかっていた。

 彼女は鍵を差し込み口に入れて閉まっていた自動ドアを開けると、エレベーターに乗り込んだ。


 今まで我慢してきたが、今回ばかりは違う。

 父親との約束を守って大切な人を奪われるくらいなら、そんな約束なんてどうだっていい。

 既成事実さえ作ってしまえば、責任感の強い彼ならきっと自分の元に居てくれる。


 エレベーターが開き、三春は誠の部屋に向かって歩を進める。

 そして、部屋の前に立った彼女はポケットから取り出した鍵を差し込み口に入れ、覚悟を持って捻る。

 ガチャリと解錠の音が響く。

 鍵を引き抜いた三春は、再び大きく深呼吸をすると、部屋の扉をゆっくりと開いた。


 そして、彼女は見てしまった。

 誠の履く男物の靴以外にもう一足、見知らぬ女性物の靴があるその現場を。

 それは言い逃れ出来ない事実であった。

 他にあるだろうか?

 自分に黙って別の女を家に迎え入れる理由が?

 直視せざるを得ないその事実が、彼が一足先に大人の階段を上ったのだと伝えてくる。


 膝から崩れ落ち、しばらく呆然としていた彼女の目に再び涙が溜まる。

 下唇を血が出る程噛んだ彼女は、いきなり駆け出し、涙を流しながら夜の帰路についた。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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