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5話:秘められた、世の真実は、そば近く、そこに秘めるは、一人の最期(前)2


 誠の状態は思った以上に深刻だった。


 三春は誠の状態を見てすぐに百十九番に連絡しようとしたが、急にその選択肢を選んではいけないような気になり、携帯をポケットにしまった。

 とりあえず自分になにか出来ることはないかと思考を巡らせた彼女は、正気が回復するような食事を食べればいつも通りの彼に戻るかもしれないと思い至り、部屋を出て持ってきた食材と共にキッチンへと向かった。


 自分に出来る限りの手間を加えた朝食を作り、急いで彼の元に持っていく。

 お粥を匙ですくい、火傷しないように息を吹きかけた。

 だが、それを口元に持っていった瞬間、彼女が丹精込めて作った食事は振り払われるようにお盆ごとひっくり返された。

 込み上げてくる悲しみを押さえ込み、三春はひっくり返されたお盆と食材を片付けた。

 どうすればいいかわからない。

 とりあえず学校に行ける状態ではないことは明らかだった。


 八時になっても誠は元に戻らず、携帯を取り出して学校へと連絡する。担任の薄墨(うすずみ)先生に繋いでもらい、今日は風邪で休むと報告した。

 薄墨先生はとても心配していた様子だった為、嘘を吐くしかなかった三春は、罪悪感を覚えた。

 連絡を終え、どうするべきか迷った。

 こんな時、どうすればいいのかを三春は知らない。

 部屋の隅で怯える誠を見守ることしか出来ない自分の無力さに嫌気がさす。

「……こうなる前に無理矢理にでも病院に連れていってれば良かったのかな……」

 三春は涙を流しながら、そう呟くことしか出来なかった。


 時間が過ぎ、いきなり三春の携帯が鳴った。

 部屋を出て、スマホを確認すると、そこには学友の名が表示されていた。

「……由紀ちゃん?」

「もしもし、三春~? 大丈夫~?」

 電話の向こうから明るい声が聞こえる。

「……うん……大丈夫だよ……」

「うっそ! 声めっちゃ落ちてんじゃん! 全然大丈夫じゃないでしょ?」

 三春の嘘は、あっさりと友達にばれてしまった。

「ちゃんとご飯食べた? そういや昨日櫻木に雨の中で熱い抱擁をされたってのろけてたね。絶対それが原因じゃん!」

「…………そうかも……」

「あの野郎! うちの三春に風邪を引かせるなんて断じて許さん!!」

「……悪くないの……」

「……え?」

 三春は電話を両手で持ち、泣き崩れてしまう。

「……誠は悪くない……ちゃんとしてなかった……私が悪いの……」

 その言葉に、電話の奥の友人は狼狽え始めた。

「えっ、ちょっ、泣かすつもりはなかったんだって! ごめん、ちょっ……泣かないでよ、三春ぅ……」


 自分がもっとしっかり彼を見ていればこんなことにはならなかったのかもしれない。

 自分がもっとしっかり彼のことを考えていればこんなことにはならなかったのかもしれない。

 これは自分が招いてしまった結果。

 それを彼のせいにしてはいけない。

 これは、彼だけの問題じゃない。

 これは、彼と私、二人の問題なのだ。


 友人との電話を終えた三春は、目元を腕で拭う。

「私がしっかりしないと!」

 そう思った三春は携帯の時間を見て驚く。

 いつの間にか十二時を越えていたのだ。

「……朝ご飯を食べてくれなかったのは私が無理矢理食べさせようとしたからなのかも……もしかしたら、部屋に置いておけば食べるのかも……」

 ふと、そんなことを思った三春は、食材がないことを思い出す。

「そうと決まれば買い物だね! 栄養価が高くて食べやすそうなものを作らないと!」

 三春は落ちていた自分のバッグを掴むと、買い物に向かっていった。


 ◆ ◆ ◆


「……ようやく出ていったか……」

 玄関の扉が閉まった瞬間、誰も居ないはずの廊下に突如として現れた少女がそう呟いた。

 少女は耳にかかった銀色の髪をかきあげ、目的の部屋に向かう。

 そこに居た少年は、自分を見てかなり怯えている様子だった。


「まったく……甲斐甲斐しい女を持って幸せな奴だ……」

 胡蝶玲奈は、怯える誠に気遣うことなく、彼の頭を真正面から鷲掴みにした。

「概ね予想通りだが、その状態だと話が出来ないからな」

 そう告げると、彼女は空いた右手に握った電気銃を彼の左肩に躊躇なく押し付けた。

 顔を鷲掴みにされた誠も抵抗するように腕を引き剥がそうとするが、それは何の意味も為さなかった。

 そして、胡蝶玲奈は躊躇うことなくその引き金を引いた。

「~~っっ!!?」

 誠の左肩を細い光が穿つ。

 声にならない悲鳴をあげながら、誠は赤く染まる左肩を押さえながら悶絶し始めた。 

 そして、怒りを思わせる表情になって上半身を起こした。

「てっめ! まじふざけんな!!」

 その怒声を聞きながら、玲奈はほくそ笑んでみせた。

「どうやら上手くいったようだな」

 淡々とそう答え、彼女は誠の机の前にあった背もたれつきの椅子に座った。

 そんな彼女の姿を見て、誠もようやく自分の意識がしっかりしてきたのを感じた。

 そして、左肩を押さえながらベッドを出ると、玲奈の方を向いた。

「……手当てしてくるから少し待っててくれ」

 玲奈はその言葉に対して、目を閉じて了承の意を示した。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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