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1話:この時は、夢幻か、現世か、夢と見たるは、世界の終わり(後)3


 涼太と共に戻ると、停車した大型トラックの周りに数名が立っていた。

「おかえりなさい、誠くん」

 白衣を纏った女性に満面の笑顔でそう言われ、俺は頭を下げた。

「ただいま、吉乃さん。申し訳ないのですが、この少女を確認していただけませんか?」

 俺がそう言うと、吉乃さんの目は真剣なものになり、周りのメンバーに素早く指示を出し始めた。ある程度、指示を出し終えたのか、吉乃さんがこちらを向いた。

「誠くんはとりあえず私の乗ってるトラックにいらっしゃい。そこの変態君はもちろん駄目だけどね」

「そんなぁ……」

 吉乃さんの言葉にがっかりしている涼太に向かって苦笑し、俺は吉乃さんの後をついていった。

 そして、五台の大型トラックは再び目的地へ向けて出発した。


 吉乃さんに言われるがままトラックに乗り込んだ俺を歓迎したのは女子だけで構成されたチームほぼ全員からの侮蔑の眼差しだった。

「居心地悪いかもしれないけど、もしも感染していた場合の保険は欲しいからね。君達も我慢してくれ」

 その言葉に心底嫌そうな表情を見せつつも、彼女達は嫌だという意見を出さなかった。

 正直俺だってこんな居心地の悪いところには一秒だって居たくない。それでも、まだ安全な大学内で訓練しかしたことのない人達に吉乃さんを守らせるのは不安しかないからな。

 てか、この人達、最初は俺と涼太を羨望の眼差しで見ていたはずなのにな……なんで、なにも言ってない俺がこんな目に?

「はいはい、誠くんもそんなところで突っ立ってないでこっちにきたまえよ。ほら、女の子はこっちに寝かせて……それとも、まだ女の子の体を堪能してないからって背負ったままでいるつもりかい?」

「吉乃さん!! そんな誤解を与えるようなこと言わないでよ!!」

 こちらを見てニヤニヤしている吉乃さんに文句を言うが、そんな無駄な抵抗が意味を成すはずもなく、俺の評価は更に下降していった。

 俺はとりあえず吉乃さんが指定した場所に銀髪少女を寝かせた。

「ローブの下は普通の服か」

 寝かせた少女の傍でしゃがんだ吉乃さんはいきなりローブを脱がせた。思った以上に華奢な体ではあったが、見た目的には十代後半くらいにしか思えなかった。違うとしても、おそらく二十代前半くらいだろう。

「服に外傷は見当たらないし、ところどころに転んだのかなんかでついた痣は見えるけど、比較的真新しい外傷はないね……さて」

 いつでも対応できるように吉乃さんの隣にしゃがみながら少女を観察していると、いきなり吉乃さんがニヤリと不敵な笑みを浮かべた為、俺はものすごく嫌な予感がした。しかし、行動に移すには既に手遅れの状態だった。

 吉乃さんがいきなり少女の上着を脱がせ始めたのだ。

「な……なにやってるんですか!!!」

 男である俺という存在がいるにもかかわらず行われた脱衣行為に文句を言うが、吉乃さんはにやつきながらこっちを見ていた。

「え~? 最近顔を出してくれない誠くんはさぞ欲求不満なんだろうな~と思って。さしずめそのお手伝いをしようかと」

「そんな理由で脱がせたんですか!?」

 後ろから殺気を感じる。今すぐこの場から逃げ出したいが、走行中のトラックから降りるような自殺行為をするつもりは毛頭ない。

「まぁ、冗談は置いとくにしても、ローブや服で見えない外傷はあっても、背中や胸に傷を負っている可能性もなくはないだろう? もしかしたら彼女はゾンビから受けた外傷を隠しているかもしれない。そうした場合、すぐにでもゾンビになりかねないんだよ? なんなら、私が服を脱いで見えない傷をいくつか教えてあげよっか?」

「結構です!!!」

「そっかそっか~。誠くんは二人っきりがお望みなんだね~♪ このお・ま・せ・さん♪」

 そんなふざけた言い方にイラッとしながらも、俺は戦闘時の優先目標を見誤ってはならないと大島隊長から叩き込まれている。つまり、今は絶対変な誤解をしている女子チームを宥めるのが優先だ!

「……変態……」

 後ろを振り返れば、先程まで唯一俺に侮蔑の眼差しを向けていなかった白妙(しらたえ)(はな)ことハナちゃんが、今までに見たことのないような顔でこっちを見ていた。

「ちょっと待て! 別に俺と吉乃さんはそういう関係じゃないし、なんなら俺はまだ未経験者だよ? まだ変態じゃないよ?」

 ぼそりと呟かれた言葉に悪寒を感じながらも、俺は必死に否定した。正直自分でも何言ってるかはあんまりよくわかっていなかったが、そこに意識を向ける余裕は存在しなかった。しかし、ハナちゃんを含めた女子チームの冷ややかな視線は強まるばかりで怒りを鎮める様子はまったく見受けられない。もしかして変なことでも口走ったか?

「だって先輩……さっきまでそこの子の裸をジロジロ見てたじゃないですか!! そもそも髪を赤く染めてる誠先輩が童貞とは思えない……」

「いやそれどういう理屈よ。なんなら俺のこの髪は地毛だからね?」

「…………ジロジロ見てたことは否定しないんですね……」

「ふぇ?」

 今までに聞いたことのないくらい冷たい声がハナちゃんから放たれた瞬間、俺は彼女が振り上げたそれを見て、慌てて回避した。

「信じてたのに~!! 先輩のバカ~!!!」

 ゾンビから助けて以来二年以上の付き合いのはずなのに、一切言い分を聞いてくれない後輩の真剣に襲われ、結局俺は目的地に着くまで意味不明なことばかり叫びながら斬りかかってくる彼女から逃げ続けるのでした。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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