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4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)17


 動けば、手が届きそうな距離だった。


 ある日、目の前でゾンビに襲われそうになっている子どもを見つけた。

 正隊員に成り立ての頃、初の任務として外に出てしまった男の子を捜索する任務につけられた。

 誠は同世代ながら既に幾多の死闘を重ねていて、俺はあいつの補佐という形でついていくことになった。

 緊張はあった。

 母さんを殺して以来、何度も悪夢を見続けていたのも原因の一つだったのかもしれない。

 それでも俺は、前を向いて生きていく為に、戦うことを選んだ。


 誠の耳は周囲の音に敏感だった。そして、子どもの声や手掛かりとなる音を聞き逃さまいと誠は必死だった。

 それなのに俺は自分の緊張をほぐす目的と少しでも仲良くなるために何度も話しかけてしまった。

 そのせいで誠に怪訝そうな顔をされて、少し離れてろと言われた。

 当然だ。俺の話し声は誠にとって邪魔以外の何物でも無かったのだから。

 それなのに、当時の俺は不貞腐れていた。

 そのせいで、誠と必要以上に離れてしまった。


 幸か不幸か、子どもを先に発見したのは俺だった。

 子どもの泣き声がしたような気がして、俺はそちらに急いで向かった。……たった一人で。

 案の定、俺が向かった先に、俺達の探し求めていた子どもはいた。

 瓦礫が散乱した地面に尻餅をつき、背中を壁につけているというのに、半べそで必死に下がろうとする子どもの様子は見るからにおかしかった。

 だが、理由はすぐにわかった。

 子どもの一メートル程前方に、醜悪な見た目のゾンビが立っていた。

 元は若い女性だったのだろう。

 全体的に腐敗はまだ進んでいないが、顔に爛れた痕があり、見ていて気持ちのいいものでは無かった。

 それどころか俺はそのゾンビに、自分が殺した母さんの姿を重ねてしまった。

 足は止まっており、はっとなって急いでゾンビの首を斬った。

 だが、ゾンビの鋭い爪は、既に幼き子どもの命を刈り取った後だった。


 今でもあの時の後悔が脳裏を過る。

 誠と一緒に行けば、子どもを助けられたんじゃないかとか、俺が迷わず一步を踏み出していれば子どもを助けることが出来たんじゃないかとか、そんな手遅れなことを考えてしまう。

 とてつもない罪悪感に苛まれ、俺はチームの皆にそのことを伝えた。大島隊長や嵐山先輩は辛そうな表情で、最初はそんなもんだと俺を慰めてくれたが、誠だけは俺の頬を殴った。


「独断専行なんて勝手なことするんじゃねぇよ!! お前が立ち止まろうが動けなくなろうが知ったこっちゃねぇ!! それをカバーする為に俺達がいるんだろうが!! 二度とこんな巫山戯た真似するんじゃねぇぞ!!!」


 下手な言葉で慰めてもらうより、その言葉の方がよっぽど嬉しかった。

 戦場に立つ以上、上下の関係はあれど、新兵だのなんだのは理由にならない。

 あの時のことは今でも死ぬほど後悔している。

 それでもあの時は戻ってこない。過去は改変されない。

 だが、今を変えることはできる。


 俺はあの時の教訓を忘れない。

 俺が例え動けなくなったとしても、仲間()がきっとなんとかしてくれる。

 だから、俺はその時その時を全力で戦うんだ。


 ♪ ♪ ♪


 目を開けると、俺の視界に涼太の背中が映った。それと同時に、宙を舞う丸い物体。

 それは、今にも俺を殺そうとしていた猿顔ゾンビの首だった。

 そして、俺がそれをゾンビの顔だと認識すると同時に、首を失ったゾンビの巨体はうつ伏せになって倒れてきた。

 幸いなことに、まだ距離があったお陰で俺達がそれに巻き込まれることは無かった。

「……やったのか?」

 俺は赤く染まった刀を抜刀したままの涼太に声をかける。だが、涼太は反応を示さなかった。

「…………涼太?」

 まったく動こうとしない涼太を見て、嫌な予感が浮かんだ。

 そして、涼太の手から刀がするりと落ち、涼太はそのまま膝から崩れ落ちるように地面へと倒れ伏した。

 

 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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