4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)16
先程廊下に投げ入れられた謎の拳銃、だが、間違いなくそれに見覚えはあった。
三年前の世界で胡蝶玲奈が俺に突きつけた電気銃と呼ばれる代物。確かあいつはこれでゾンビを焼き殺せると言っていたな。
使い方はわからないが、おそらくこの小さなつまみで威力を調節するのだろう。俺は迷わずそれをマックスにした。
もはや他に方法は無い。
この一か八かに賭けるしか無い。
俺は壁を背にして座ったままの態勢で、ゾンビに電気銃を向けた。
そして、俺はめいっぱい空気を吸い込み、そして声を張り上げた。
「どいてろ涼太!!」
涼太の視線が一瞬こちらへと向けられる。そして、俺の意図を察したのか涼太は俺の射線から離れるように飛び退いた。
ゾンビはすぐに涼太を襲おうとしていたが、今度は俺の方が早かった。
「くたばれクソッタレ」
刹那、俺の握っていた電気銃から凄まじい電気が放たれ、ゾンビの巨体だけでなく後方の校舎にまで巨大な穴を空けた。
俺も背中に校舎が無かったら吹っ飛んでいただろうな。
電気銃の威力は凄まじく、ゾンビの右半身は吹き飛んでおり、そのままよろめいてゾンビは倒れ伏した。
その一部始終をただただ啞然と見守っていた俺はというと、その威力に気圧され、あの時こんなとんでもないものを向けられていたのかと思わず身震いしてしまった。
だが、これでようやく終わった。
直視するのは辛いが、仲間が全員いるのを確認して報告しないと――
「気を抜くな誠!!」
手からずり落ちた電気銃に向けていた視線を涼太に向けた。
涼太がこちらへと必死に走っているように見えて、俺はまさかと思い、先程倒したはずのゾンビへと視線を向けた。
半身を吹き飛ばし、顔も不安定にくっついている状態でありながら、その巨大な猿顔ゾンビは未だに立ち上がろうとしていた。
「…………は? なんでまだ生きてんだよ?」
普通のゾンビであればとっくに死んでておかしくない一撃を受けたというのに、そのゾンビは両足と残った左腕をうまく使い、立ちあがってしまった。
そして、出目金のように飛び出した両の目が俺というちっぽけな存在をロックオンした。
もう駄目だと思った。
さっきの馬鹿みたいな一撃のせいで右手は痺れ、もはや銃を握る程の握力も無い。
避けようにも身体のところどころが衝撃による痛みでうまく機能しない。
死を悟った俺の目に、スローモーションのようにゆっくりとスタートを切るゾンビの姿が固定される。
二十メートル、十メートルと徐々に奴は俺に近付いてきて、俺を殺すべく、その大きな左腕を振り上げた。
そこで俺は目を閉じた。
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