4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)12
ようやく吉乃姉から解放された俺は、吉乃姉の怒りを逸らすべく、話を再開することにした。
「は……話を戻すんだけどさ……これからどうする? ここは暫くは安全そうだけどここに残る? それとも大島隊長達との合流を図る?」
「ここが安全って何か保証はあるの?」
「無いよ」
吉乃姉の言葉に、俺は即答した。まだ少し怒りは感じるが、どうやらハナちゃんが説得してくれたお陰か話を進めるつもりはあるみたいだった。
「暫く安全とは言っても、さっきの騒動が起こっても来なかったからこの付近にいたゾンビ達はあらかた仕留めたんじゃないかと思っただけ。まぁ、通路が塞げていない以上、来る可能性は零じゃないよ。でも、今度は俺だけじゃなく涼太がここにいる。ここは絶対の安置と言っていい。ただ……」
「ただ、何ですか?」
この先を告げるべきかどうか迷ったが、ハナちゃんが訊いてきた為、俺は告げることにした。
「俺はここを出て隊長達がいるであろう外に出た方がいいと思う。あっちには隊長や嵐山先輩、それに今回新人ばっかりということで男子チームは数珠掛さんが率いてる。いろいろあって一線を退いてはいるが、それでも大島隊長と肩を並べる程の実力者だ。まず間違いなくここより安全だろうな」
「でも、ここも一応安全なんですよね?」
「そうは言っても食料が無い。俺は一日程度なら我慢できるが、子ども達はそういう訳にはいかないだろう?」
「それに誠は九時になったら強制睡眠の呪縛があるもんな? ゾンビが活性化する夜中に誠が使えない以上、俺一人で凌ぐのは無理だな」
「誠くんの強制睡眠か〜あれどうにか出来ないの?」
「無理っすね。誠の頼みであらゆる方法を隊長が試しましたけど、たとえ電気で痺れさせてても寝続けるんで、俺達も諦めました」
「こればっかりは申し訳無いと言うしか無い。一応隊長達には家庭科室に居ると言っているから来る可能性は高いかもしれないけど……嵐山先輩の火薬入りナイフは有限のものだし長時間の戦闘には向いてないと思うんだよね。だから夜になる前に合流したいというのが俺と涼太の意見ね」
「先輩がそうおっしゃるのであれば私もそれで構いませんが、子ども達はどうするのですか?」
「それなら俺達が乗っていた大型トラックの荷台に乗せればいい。装甲も高いから並のゾンビじゃびくともしないし食料もある。ここなんかより何十倍も安全だ」
「それなら私も反対しないよ。皆に説明するから誠くんと涼太くんはゾンビの死骸が子どもの目に入らないように移動させといてくれる?」
「それくらいなら構わないよ。まぁ、涼太の斬った死骸なんて見たらトラウマもんだからね」
「誠が壁に殴りつけた奴も相当だと思うがな」
そんなこんなで俺達は今後の方針を定め、ゾンビの掃除をするべくほうきを持って外に出た。
◆ ◆ ◆
上は十二歳、下は五歳の子ども達。大きな子が小さい子の手を握り、二列になって歩くフォーメーション。
列が乱れぬように真ん中辺りに吉乃さんとその護衛として叩き折ったほうきの柄を握りしめたハナちゃんを配置し、銃を持つ俺が最後尾、刀を鞘に納めている涼太が先頭を歩く。
ゾンビの死骸で埋め尽くされた階段や通路を避け、二階の渡り廊下を経由してハナちゃん達女子チームが寝泊まりをしている校舎に行き、そこでハナちゃんの使っている二階の教室から刀を回収し、一階へ降りたら渡り廊下を経由してこの校舎に戻り、隊長達がいるであろう場所の付近までは屋内の通路をできるだけ使用することに決めた。
出発してからハナちゃんが使っていた部屋に着くまでの間はゾンビと遭遇することなくスムーズに進めた。
支給品の刀を鞘に納めて戻ってきたハナちゃんを再び吉乃姉の傍に配置した後、俺達は子ども達の声に従い、一旦トイレ休憩を行うことにした。
正直我慢してほしかったが、漏れると言われれば何も言えない。
念の為にトイレを確認し、ゾンビがいなかった為、手早く済まさせた。臭いだのなんだの文句を言ってきたが、三年間の間使われていないトイレに水が通って無いんだから当然だろと内心思いつつ、その手の文句は全て無視した。
そんなこんなで俺達はなんとか全員無事に一階へと降りられた。
一階にはチラホラとゾンビの影があったものの、涼太一人で仕留められる数だった為、相まみえる前に仕留めさせ、なるべく子ども達の視界に入らせないようにした。
吉乃姉の助言で、移動中は軽く口にガムテープをつけさせてもらったが、結構おとなしい子達ばかりだし案外必要なかったかもしれないな。
「……ん? どうした涼太?」
突然、涼太が立ち止まったことで、子ども達と共に俺も足を止めた。
まだ昼過ぎとはいえ、電気もついてないうえに曇天のせいで陽光も差さないこの場所では涼太の表情はうまく見えないが、涼太は何故か動こうとしなかった。
「なぁ誠……なんか変な音が聞こえないか?」
「……音?」
そう言われれば確かにミシミシと何か変な音がしている気がする。だが、それは屋内から聞こえる音では無かった。
ハッとなり、俺は急いで窓の外へと視線を向けた。
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