4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)11
俺が涼太と共に吉乃姉達がいる教室に戻ると、俺の姿を見た吉乃姉は、いの一番に俺の心配をしてくれた。
それも仕方無いのかもしれない。
俺が着ていた制服は防護性能は高いが、それでもゾンビの攻撃を完全に防げるという訳では無い。
おまけに連戦に次ぐ連戦のせいで制服はゾンビ達の返り血でほとんど真っ赤に染まっていた。
何度大丈夫と言っても信じて貰えなかったが、それでも俺は心配する吉乃姉に安心してもらう為に、何度も大丈夫だと告げ続けた。
数分もすれば吉乃姉も落ち着きを取り戻し、俺達は涼太から改めて現状を訊いた。
ゾンビの襲撃時、近接主体で戦う男子のみのチームβとチームΔの二チームは荷物等を運び入れる作業をしており、女子だけで構成されたチームαとチームΣのニチームは大島隊長と嵐山先輩の二人の監修の下、訓練を行っていたらしい。
そんな時、女子チームの訓練場所にゾンビが出現したとのことだった。
大島隊長旗下の正規チームとはいえ、インカムを所持しているのはチーム桜だけだ。その為、大島隊長は全体に危険を知らせるべく、女子達にサイレンサー無しで何発か撃たせたそうだ。
未だに男子チームやここにいた戦闘員との合流は果たせていないものの、ゾンビ達が中々いなくならない為、現状は最悪の一言に尽きるそうだ。
そこまで話し終えたところで、横になっていたハナちゃんが俺達の傍に来て、突然土下座してきた。
「すみません、先輩! ご迷惑おかけしました!」
「過ぎたことだ。気にしなくていい。それよりももう大丈夫なのか?」
「はい……せっかく先輩に無理言って鍛えてもらったのに……自分が情けないです」
「そう気に病むな。トラウマの一つや二つ、誰でもあるもんだよ。それよりも今はこれからのことを話しあう必要がある。ハナちゃんもこっちに来て座ってくれ」
「……はい」
ハナちゃんの表情には未だに罪悪感が浮かんでいたものの、事の緊急性を理解しているからか、それ以上のことは言わず、黙って円に加わり、作戦の話し合いに参加してくれた。
「さて、話を戻そう。三人にも意見を聞きたいんだけど、これからどうすべきだと思う?」
「どうすべきって……まずは隊長である大島さんに連絡を入れるのが先決でしょ?」
吉乃姉に指摘された瞬間、俺と涼太は同時に吉乃姉から顔を逸らした。そのことに不審を抱いたのか、吉乃姉は疑いの眼差しを向けてくる。
その視線に、俺は耐えられなかった。
「……実はさ、隊長達と連絡が取れないんだよね……」
「そんな!! まさか大島隊長まで!?」
「あっ、いや……多分そっちの心配はする必要無いと思う」
悲痛な叫びを上げたハナちゃんの言葉を、俺はすかさず否定した。
なにせ大学トップクラスのチームからも『金剛夜叉明王』と『爆殺魔』として恐れられている二人だ。例え装備が万全で無くてもゾンビの襲撃程度で倒れるとは到底思えない。
ハナちゃんを安心させる為に進んで笑みを見せると、突然吉乃姉の方から殺気に近い威圧感が放たれた。
「誠くん、じゃあ、なんで連絡が取れないのかな?」
その威圧感に満ち満ちた言葉のせいで、冷や汗が滝のように流れる感覚を感じた。こんなに怒っている吉乃姉を見たのは小学生の頃に三春と研究所内で追いかけっこして誤って機材を壊した時以来だ。
俺は涼太に助け舟を出してもらうべく視線をそちらに向けたが、涼太の野郎は俺の視線から逃げるように横を向いた。
(こんにゃろぉ……)
涼太に内心で怒ったその時だった。
「誠くん」
「ひゃい!!」
氷点下をきってるんじゃないかと思える声で名を呼ばれ、俺は甲高い声で返事をした。
「耳につけてたインカム……どうしたの?」
その言葉は俺の心にチェックメイトをかけた。
俺の震える口が、どうにか言葉を紡ぐ。
「…………それがそのぉ……なんと言いますかテンションが上がりまして……インカム床に投げたらゾンビに踏まれて粉砕してました……」
「このバカちん!!!」
勢いよく振り上げられた手が容赦なく俺の頭に振り下ろされ、甲高い音が辺りに響き、俺の頭は微かな痛みを訴えかけてきた。
そして、吉乃姉はすかさず俺のティーシャツの胸ぐらを掴んで身体を揺さぶってきた。
「あんたあれがどれだけ希少なのかわかってんの!! 既製品を改良しているからってタダじゃないのよ!!! あんた自分がトップクラスのチームにいるって自覚あんの!!!」
「ごめっ……許して、吉乃姉……脳が……揺れっ……吐く……」
「で!!!! 涼太くんのはどうしたの!!!」
俺を揺らしながら聞いてくる吉乃姉の表情には明らかな怒りの様相があり、涼太も露骨に怯えている。
「すいません!! 誠が死亡フラグっぽいことを言おうとしてたんでその場で廊下に叩きつけてしまいました!!!」
「あんたら本当にいい加減にしなさいよ!!!」
「だかっ……なんで俺……てかヤバ……マジヤヴァイ……」
その後、なんとかハナちゃんが吉乃姉を止めてくれたことで、俺は人としての尊厳を保つことが出来た。
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