4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)9
すぐに二体のゾンビも仕留め、俺は肩で息をしながら周囲の確認をした。
先程銃声を上げたにもかかわらず、周囲に動くゾンビの気配は感じられなかった。
俺は安堵したのか大きく息を吐き出し、壁にもたれかかり、そのまま床に座った。
「なんとかまだ生きてるな……」
それも長くは無いだろう。先程の銃声が敵をおびき寄せている可能性は非常に高く、休めるとしても一分程度だろう。
「そういや、ここで死んだら俺ってどうなるんだっけ? あっちの世界の俺は生きてんのかな? もし死ぬんだとしたら嫌だなぁ……昨日のこと、まだちゃんと三春に謝ってないのに……てか、冷静になって思い返してみると、俺、相当やばいことしたな。学校の正門前で周囲の目がありながらキスするって、下手したら三春に嫌われているかもな……」
乾いた笑いが俺の口から漏れ出るのと同時に、一筋の涙が俺の頬を伝っていく。
もはや立つことすらきつく、銃弾は一発も無い。
それなのに、ゾンビがこちらへと歩み寄ってくる音は、留まることを知らない。
やがて、掠れる視界には数を数えるのも億劫になりそうな程のゾンビが集まっていた。
「あはは、ゾンビがいっぱい……こんな状態の俺を相手に過剰戦力過ぎるだろ……」
一体や二体であれば、俺は噛み付いてでも時間を稼いでいただろうが、これほどの数を目にした瞬間、身体からあっさりと力が抜けた。
「あぁあ、最期はどうせなら三春の膝の上が良かったなぁ」
「最期なんて縁起でも無いこと言ってんじゃねぇよ」
諦めて目を閉じた瞬間、その聞き覚えのある言葉は、正面の方から聞こえてきた。
不思議に思い、目を開けると、目の前には首を失ったゾンビ達が立っていた。
そして、ゾンビ達が膝から崩れ落ちると、そこには刀を握り、残心の構えを取っていた涼太の姿があった。
「来るのがおせぇんだよ」
「ははっ、わりぃな。ちょっと迷ってたんだよ」
涼太の楽しそうな笑みを見ていると、俺も釣られて微かに笑みを作ってしまう。
涼太は俺の方に手を伸ばし、俺もそれを掴んで立ち上がった。
「まぁ、再会を喜ぶのは後にして、まずはこの場を制圧するとしよう。援護は頼んだぜ、誠」
そう言って、涼太は肩からかけていた俺のショルダーバッグを手渡してきた。俺は赤黒く染まった白手袋をその場で脱ぎ捨てて、涼太からそのショルダーバッグを受け取った。
「おいおい、こんな状態の俺に戦えって鬼畜かよ。てか、感染してたらどうすんだよ」
バッグの中から二丁のベレッタを取り出し、サイレンサーをつけながらも、俺は涼太に対し皮肉を告げた。だが、そんな俺の言葉に涼太はありえないだろと笑い飛ばしてきた。
「俺の攻撃すら見切れるお前がゾンビのとろい攻撃に当たるかってんだ。休みたいからって適当言うなよな」
「いやまぁ、実際攻撃受けてないから何も言えないけどさ、そんな化け物みたいに言うんじゃねぇよ」
「ハッ、予備の弾を持っていない射手が素手でこんだけのゾンビを屠ってるんだから充分化け物だよ」
「あれを素手と言っていいのか甚だ疑問ではあるけど……まぁ、本気の大島隊長や涼太の相手に比べりゃ楽な相手だよ。ただ数が多いってだけだし。よしっと、これで準備完了だ」
鼻で笑い飛ばしてくる涼太の皮肉を聞き流し、俺は銃の安全装置を外し、予備の弾を両手首に巻き付け、武装を完了させた。
先程までは疲労で身体が動かせなかったというのに、背後に涼太の背中があるというだけで、不思議と力が湧いてきた。
目の前にはわらわらと先程よりも数が多いゾンビの大群が五メートルの距離まで迫っていた。
後ろからも同様に足音が聞こえてくる。
それなのに、先程と違って諦める気持ちにはなれなかった。
「よっしゃ、こっからが本番だ! 気張って行くぞ、誠!!」
「おう、援護は任せろ。お前はお前でただ全力でがむしゃらに突っ走ってこい。道は、俺が切り開いてやる」
そして、後ろに頼もしい存在を感じながら、第二ラウンドの火蓋は切って落とされた。
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