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4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)8


 ゾンビの死体が辺り一帯に散らばるなか、灰色のローブを身に纏い、フードを目深に被った少女は、たった一人でそこに立っていた。

 そんななか、一体のゾンビがその少女の存在に気付く。目を閉じ、動く気配すら見せない少女を見たゾンビは、ゆっくりと少女に近付いていく。

 並の少女であれば、悲鳴をあげたり、怯えたりと相応の反応を見せたことだろう。

 しかし、その少女はゾンビが近付いてきた瞬間、ゆっくりと右手に握った拳銃をそのゾンビに向けた。

 そして、彼女は警告を発することなく、そのか細い手には似合わない銃の引き金を引いた。

 次の瞬間、縦長に開かれた銃口から放たれた電気の塊がゾンビの上半身を跡形もなく吹き飛ばした。顔どころか上半身を失ったゾンビは、悲鳴をあげることなく倒れ、散らばる死体の仲間入りを果たした。

 そんな一部始終に目を向けなかった少女は、何かを感じ取ったのか、目を開き、校舎の方に目を向けた。

 少女はにやりと笑う。

「……ようやく動いたか……」

 そう呟いた少女は、人間とは思えない程の跳躍力を発揮し、高い塀の上に着地し、そこに座った。

「我々の見込み違いかどうか、今一度判断させてもらう。我々に残されたチャンスはこれが最後……この選択が吉と出るか凶と出るか……全ては君にかかっているよ、誠くん」

 そこまで言うと、少女はほくそ笑み、手に握った電気銃を懐にしまった。


 ◆ ◆ ◆


「くそがっ! あと何体倒せば終わるってんだよ!!」

 既に二十近くのゾンビが俺の周囲で動かなくなっているが、未だにこちらへと寄ってくるゾンビはあとを絶たなかった。

 悲報はまだ続く。

「!!? 弾切れかっ!!?」

 後一発は残っていると思っていた左手のベレッタがここにきて弾切れになってしまったのだ。

 一瞬何がどうなっているのか理解出来なかったが、保健室での出来事を思い出し、悪態をついてから右手の銃を左手に装備し直し、弾切れのベレッタを利き手である右手に装備した。

 すると、そのタイミングでかなり近くまで近付いてきていたゾンビが腕を高く振り上げた。

 だが、見え見えの攻撃に当たってやる程、俺はお人好しじゃない。

 俺は右手のベレッタを手の中で転がし、トンファーの要領でゾンビの腹に渾身の一撃を放つ。

 すると、ゾンビの体は窓ガラスをぶち破り、一瞬で視界から消えた。

「さっきまでは暴発の危険性もあったからグリップを使っていたが、これで思う存分空手に活かせるな」

 とはいえ、窓ガラスをぶち破るのは想定外だった。

 思った以上の腕力があったとはいえ、やはり実戦で使ってこなかったぶん、狙いや加減が甘くなっているようだ。

 せっかくハナちゃんの悲鳴がおさまったというのに、これではまたゾンビをおびき寄せてしまう。


「更に二体追加……終わりが見えないな……はてさて、こんな半端者の空手がどこまで通じることやら……」

 幼少期から空手を習っていたが、俺はゾンビと相対した時に通じると思える程、強いとは言えなかった。

 実の親であり師匠でもある父さんが海外赴任をしたことがきっかけで、俺は中学三年生の頃、好きじゃなかった空手から離れていた。

 まぁ、幼少期に髪の色をいじられて辞めた道場に通いたくなかったのも理由の一つだったが、それよりも普通の高校生活を送りたかったというのが本音だ。

 だが、ゾンビの蔓延る世界で吉乃姉を守りながら生き残っていくには、強さが必要だった。

 幸いなことに、死んでいた警察官の持っていた銃を拾ったことで銃撃戦の才能は発覚したが、大島隊長に弾切れの時、足手纏いにならないように鍛えろと命令された為、ここ二年は毎日空手の修行を怠らなかった。

 だからといって、この場を空手で乗り切れるとは微塵も思っていない。

 大島隊長のように徒手空拳を主体とした戦闘スタイルは、彼の巨漢のような鍛えられた肉体と専用の武装があって初めて成り立つものだ。

 ゾンビ相手に何もつけていない素手で戦闘するのはあらゆる意味で危険な為、本来であればすべきでは無い。

 ましてや、俺の身体には疲労が蓄積されており、今すぐにでも逃げるのが正解だった。

 だが、俺には逃げられ無い理由があった。

「こっちの拳銃も残り一発……それじゃ、あまり効果は見込めないだろうな……」

 俺はそんなことをぼやきながら、ベレッタのサイレンサーを取り外した。

 赤黒く染まった白手袋越しに熱を感じるも、サイレンサーをすぐに投げ捨てたことで、火傷することは無かった。

「このまま俺が死んだら皆道連れになる。……それだけはなんとしてでも回避しないとな……」

 俺は三メートル程の距離にまで迫ったゾンビの顔面にむけて、左手のベレッタを構えた。

「吹き飛べ」

 直後、けたたましい銃声が俺の鼓膜を揺らす。

 ゾンビの顔面から赤黒い血と共に肉片が床にばらまかれ、俺はその止まった隙を見逃さず、後ろ回し蹴りでゾンビの背後にいたもう一体のゾンビを巻き込んで攻撃した。

 ゾンビ二体の転倒を横目で見送った直後、俺は階段とは反対方向にいた二体のゾンビに向かってダッシュした。

 そして、ゾンビの目前まで来た俺は、相手が反応する前に右手のベレッタトンファーでゾンビ一体の顔面を勢いよくぶん殴った。

 殴られたゾンビは壁に激突し、赤黒いお花を壁一面に咲かせた。

「あと三体」

 呟くと同時に来た攻撃をのけぞるように避け、俺は左手のベレッタを手の中で転がし、避けた勢いそのままにゾンビの胸部を殴り、窓ガラスにゾンビをぶつけた。

 窓ガラスは甲高い悲鳴を上げながら粉々に砕け散り、一体のゾンビと共に外へと落ちていった。

 だが、これで終わりでは無い。

 先程倒したゾンビ二体の方に目を向ければ、今にも起き上がろうとしており、俺は休むことなくそちらへ向かった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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