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4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)3


 さすがの俺も上半身を起こして音の鳴った方に視線を送る。

 聞こえていなかったのか、涼太は素っ頓狂な顔をこちらに向けてきた。

「……何かあったのか……!?」

 再び銃声が鳴る。しかも今度は二発。

 鳴った場所も先程とは違った。

 そして、涼太の顔色が明らかに変わる。

「訓練……じゃあないな。こんな場所でサイレンサーを使わない筈がない。これは……」

 色々とぶつくさ呟く涼太のインカムが反応した。俺もそれを見てインカムを起動しようとするが、吉乃さんの机に拳銃と共に置いてあった為、その指示を聞くことは叶わなかった。

 インカムから指示をもらっていた涼太の表情が徐々に青ざめていく。

「……!? わかりました! 誠にも伝えてすぐに行きます!! ……え? 誠は…………わかりました。あいつの耳には俺から伝えます」

 そう言った涼太が陰鬱そうな面持ちでこちらに視線を向ける。

「何があった?」

 俺の質問に、涼太は答え難そうにしていたが、時間が無いと感じたのかその重い口を開く。

「大規模なゾンビの集団がこの廃校を襲っているらしい。なんとかバリケードで侵入ルートを絞っているから対応は出来ているけど、いつ突破されてもおかしくないらしい……」

「わかった」

 そう答え、俺は武装するためベッドを出るが、そんな俺の肩を掴んだのは他ならぬ涼太だった。


「悪いが誠……お前は留守番だ」

 その言葉を告げられた瞬間、誠の表情に静かな怒りの色が伺えた。

「なに考えてんだ? 俺の身を案じてるってんなら余計なお世話だぞ?」

 威圧的な視線に涼太は一瞬怯むも、彼も引く気は無いようだった。

「俺だってお前に来てもらえた方が力を出せるし、後ろを気にせず戦える……でも、そういう命令なんだ……」

「命令って……なんで!!」

「まだ十時間経ってないからだろ!!」

 涼太の怒声に誠の表情に一瞬驚きの色が伺えた。

「もしも戦ってる最中に後ろから襲われてみろ!! それだけで戦況が一気に傾くのはお前もよく知ってるだろ!!」

 何も言えない誠に涼太は更に叩き込む。

「お前の気持ちなんて関係ない! ここは俺達がなんとかする! だからお前はここで信じて待ってろ!!」

 誠は悔しそうに唇を噛み、拳を強く握り締める。

 そんな親友の姿を見て、涼太は吉乃の方に顔を向けた。

「こいつのこと……よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる涼太に向かって吉乃は了承の意を込めて頷いた。

 彼はそれを満足そうに見ると、部屋にある引き戸から外へと向かっていった。


 ◆ ◆ ◆


 涼太が部屋を出ていってから十分程が経過した。

 外から聞こえる銃声や悲鳴は未だに鳴り止まない。そんな状況下で俺は、ゆっくりと刻まれる時計の針を見ながら歯噛みすることしか出来なかった。

 皆が命掛けで戦っているなか、何も出来ない自分がなんとも情けない。とはいえ、涼太や大島隊長の判断が間違っているとも思えない。立場が違えば、自分だって同じ判断を下していたと自覚している。

 だが、この行き場のない怒りが治まる気配はなかった。


 俺は、時間になればいつでも出られるように制服に着替えていた。最初は監視を命じられている吉乃さんもそれを止めようとしていたが、ここにもいつ来るかわからない以上、動きやすい服になっておいた方がいいという俺が冷静に説得したことで、武器の携帯以外の武装は許してくれた。

 吉乃さんも着替えに行こうか悩んでいた様子だったが、俺の性格を熟知している彼女が俺から目を離すような行為をするはずもなく、結局部屋からは一度も出ることは無かった。

 だが、今回ばかりは俺としても一人で動くつもりは無かった。ここで俺が動いたことで、ゾンビ共が吉乃さんを襲撃した場合、彼女に取れる行動は逃避しか無い。

 前線に出て戦いたいという気持ちは強かったが、非戦闘員であり、この学校にいる唯一の救護メンバーである彼女を守護するという任務があるからこそ、俺は冷静でいられた。


 時計の長い針が六の字を指し示した時、突如として俺の身体に異変が起きた。

 今まで幾度となく経験してきた頭痛が、ここにきて猛威を奮ってきたのだ。

(なんで!? 頭痛はもう起きないはずじゃ……)

 胡蝶玲奈との会話で、このような頭痛が発生することは二度と無いと聞いていた。

 だが、今回ばかりは今までと比にならないような痛みで、俺は頭を押さえながら、思わず蹲ってしまう。

「うっ……うぅ……うぁぁ……」

「誠くん!?」

 心配そうな表情で駆け寄ってこようとする吉乃さんを手で制す。

「……大丈夫……だから……」

 だが、吉乃さんは俺の言葉を聞いても安堵することは無かった。それも当然と言えた。

 俺の呼吸は明らかに平常ではなく、脂汗までかいていた。こんな状態の人間が大丈夫と言ったところで、強がりにしか聞こえないだろう。

 だが、吉乃さんは何故か散乱した書類と共に机に置かれていた拳銃を手に取り、こちらに向けてきた。

 そこで俺はようやく彼女がなんに対して心配していたのかに気付いてしまった。


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


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