4話:叫びだし、その現実は、夢と化す、渇望するも、それは叶わず(後)2
感染の容疑がかけられたことで、俺は保険室と思しきこの部屋で、解放されるのを待っていた。だが、そこに吉乃さんの護衛かつ俺の監視役を任された涼太が来たことで、俺はこの時間を退屈せずに済んだ。
「そんでさ~女子達に拘束されてた男性陣の元に行ったらさ~嵐山先輩と大島隊長を中心に腕立て伏せしてたんだぜ?」
ベッドの脇に座った涼太がいつものように話し掛けてくる。感染の疑いがある俺相手にそこまで近付くのは大丈夫なのかとも思ったが、彼の表情を見ればすぐにわかった。
涼太は微塵も俺が感染したとは思っていないようだ。
「遠目でドン引きして帰ろうとしたらさ、後ろからいきなり肩を掴まれて、振り返ると嵐山先輩が笑顔で立ってたんだよ……」
「うわぁ……」
余程怖かったのか、涼太の笑顔はひきつっていた。そんな彼の様子から、何が起こったのかが容易に想像できた。
「涼太君も参加していかへん? って言われてさ……俺は遠慮しますってちゃんと言ったんだが嵐山先輩が離してくれなくて……結局、ほぼ一日中筋トレしてた……」
「えっ、まさかとは思うけど俺の発見が遅れたのって皆で仲良く筋トレしてたから?」
「そんな状況を仲良くと言えるならお前は耳鼻科行け! 女子達からの拘束は夕方くらいに終わってたはずなのによ……大島隊長達が解放してくれなかったんだよ……俺なにもしてないのに……」
余程きつかったのか彼は今にも泣きそうな表情でそんなことを教えてくれた。
あの人達は俺達が死なないように鍛えてくれてるんだろうけど、毎度加減がおかしいせいでいつも終わった頃には動けなくなってしまうんだよな……確かにあの訓練のお陰でゾンビと戦えるくらい強くなれたんだが……内容が内容だったせいで感謝しづらいんだよな。
「そりゃ散々だったな……」
「今のお前程じゃないさ……」
不遇な涼太を慰める為に言ったのだが、正直そう返されるとは思ってもみなかった。
彼の表情を見てみれば、こちらにむかつくニヤケ顔を向けていた。
「あの人が悪く言われるのが耐えられなくて一生懸命探してたんだろ? それなのに見つかるどころか倒れる間際の記憶も失ううえに十時間の拘束、散々なのはどう見てもそっちだろ?」
その言葉になにも言い返すことが出来なかった。
俺の秘密も、彼女の秘密も、俺は二人に伝えていない。
偶然屋上の扉が開いていて、もしかしたら脱走したあの少女がいるかもしれないと思い入ったが、そこからの記憶はないと伝えたのだった。
確かにあのバカ女の態度にはむかつくところもあるが、あれでも一応、この世界を救おうとしてくれているのだ。いくらむかつこうとその邪魔だけはしてはならないことくらいわかってる。
だが、落ち着いて色々考えた結果、一つの疑問が沸いた。
あの時は色々な情報を取り込み過ぎたせいで混乱していたが、よくよく考えてみれば、彼女と最初に屋上で話した時、彼女は俺を最後の希望と言った。その言葉が俺を煽てる為だけに使った言葉とはとても思えない。
彼女の中で何が起こったのか不明だが、少なくとも役立たずの器相手にそんなことを言うだろうか?
彼女の真意が知りたい。しかし、拘束されている以上、それも叶わない。
(まぁいい。どうせあと一時間程度だ。それまで……)
そう思った時、突然外で破裂音が聞こえたような気がした。
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